第39話 カグヤ「この世界の宝? それは妾じゃ」
「どうぞ、お話の続きを」
俺の隣で正座のままメイドは、カグヤに本題に戻るよう指示を出している。だがカグヤは申し訳なさそうに、ちらちらと俺を見て「良いのか?」と問いかけている。良いんだ。むしろ早くしてくれ。俺はまるで漏れそうな子供の様に身をよじりながら、彼女を急かしていた。だが「行儀が悪い」と隣に座る彼が立ち上がり、俺の両肩に手を置き、「じっとしていなさい」と叱ってきた。仕方がないだろう。足がむずむずするんだ。
「正座は別に、強制じゃ……いや、言うまい」
言ってほしかった。諦めた様子のカグヤは俺に憐憫の視線を向け、「この国で神と名乗るのは、不貞行為に他ならない。下手をすれば国家転覆を狙う逆賊になってしまう」
「そ、それなら、俺たちをかくまうのは不味かったんじゃ?」
ああ、足の感覚が……感覚が。徐々にマヒしていく脚部に意識を持っていかれながらも、大事そうな話だから必死に耳を傾ける。だがもうだめ! 俺は畳に寝転がろうと体から力を抜いた。だがそうはさせまいと、俺の背後に立つメイドがまるで座椅子代わりの様に、俺を包むように座った。
「い、異国はそのような休み方をするのか?」
カグヤは心底困惑した様子で、俺を包むように座っているメイドと、痺れがとれてリラックスした様子で足を伸ばして座っている、エレンを見て呟いた。だが本来なら、エレンも相当なお嬢様のはずだ。ここではその肩書が無意味だと理解したのか、本当にあの村にいたころと大違いだ。そしてレディ、恥ずかしいからこの姿勢やめて欲しいんだが。
車のシートベルトのように、俺を逃がすまいと彼は俺をぎゅっと抱いている。その光景にカグヤは少し顔を赤らめ、咳払いをした。
「諸兄らはこの国には何の目的で来たのじゃ?」
「宝さがし」
「宝!? まさか本当に賊だとでもいうのか」
立ち上がるカグヤに俺たちは、場合によっては敵になると答え、逆に質問をした。恰好を付けたいが、メイドに抱かれながら話しているからどうも情けない気がしてくる。足の痺れは取れていくのに、羞恥心が増していく。
「カグヤは何者なんだ? 服装と言い、普通の人間とは思えないんだが」
この世界に来て、一番派手な格好をして、ある種の豪邸と言えるような建物に住む彼女に、俺は質問した。これだけの施設、その金の流れについて俺は知らなきゃいけない。宝のために。もしかしたらここに宝があって、目的達成できるかもしれない。そうだ。俺は前の世界でエレンが使っていたアイテムを思い出した。
「エレン、マジックレンズでカグヤを見てくれ」
「え、あ、ああ! 確かのその手がありましたわね」
エレンは慌てて立ち上がり、どこからか黒縁眼鏡を取り出し装着した。才色兼備のような彼女は「では」と咳ばらいをし、カグヤを鑑定している。
「えっと……カグヤは本名ですわ。ですが、??? この項目はなんでしょう。性別と名前の横に、クエスチョンマークが書かれていますわ」
「な、なんと!?」
驚くカグヤを無視し、エレンは続けて彼女の項目を読んでいく。
「えっと、どれも横にクエスチョンマークがついてます。これは申し訳ありません。解読不可能です。あと人間なのは、間違いないようです。幸運なようですが、戦闘力も皆無ですわ。スキルは、またこれも分からずじまい。でも所持していることは間違いありません」
「へえ、凄いな」
エレンの能力、いや、エルフの能力ってやつか? エレンは嬉しそうにガッツポーズを見せつつも、「もう少し経験を積めれば分かるのですが」と可能性を感じさせる発言をしていた。だがその言葉に「では貴女ではなく、フィンを連れてくればよかったですね」と揚げ足をとった。
「なんでそんなひどいことを言うんですか!」
「結果が大事です。レディ」
はいはい。「レディメイド」俺はスキルを使い、素材を消費してエレンの父母を作り出した。この世界でもフィンやグロリアは、快活な口調で俺たちに挨拶をし、以前会った時と同様の態度をとっていた。そんな彼らにエレンの持つマジックレンズを手渡すと、フィンはそれは「エルフの選ばれし女性しか使えない」と使用を拒否し、代わりにグロリアが眼鏡をかけて、首を横に振った。
「わかりません。申し訳ありません。お力になれず」
頭を下げて謝罪するグロリアに俺は気にするなとだけ言い、フィンともどもアイテム欄に収納した。エレンは若干会話をしたそうだったが、悪いが後にしてもらおう。俺は素材を一つ取り出し、「レディメイド」と目の前にいる和装の彼女を作り上げる。瓜二つな彼女に対し、もう一度俺はエレンに彼女を鑑定させた。
「変わりありませんわ……」
「そうか……ありがとうエレン」
子犬の様にこちらにご褒美が欲しそうなエレンの頭を撫でて、俺はもう一度カグヤに問いかけた。
「この世界の宝について、教えてもらおうか。手荒な真似は嫌いだから、協力的になってくれると有り難いんだが」
「先ほどから死体を用いて人間を作り上げる其方の力、ましてこの世界で妾を作るとは……其方の力、皇帝が放ってはおくまい」
「皇帝?」
彼女の言う新たな人物が気になり、俺は彼女に問いかけようか殺そうか一瞬迷った。だって押し問答をするよりも、殺して偽のカグヤに問いただした方が早い。カグヤは気が付いていないが、生存者をスキルで作った場合のデメリットがある。例えば本物に意識が引っ張られることだ。今回はコンドル同様に意思を消して彼女を作ったが、それでも突発的なトラブルがあれば対処に時間がかかる。幸い本物のカグヤは興産の意志を示し、「あい分かった。全てお話ししよう」と俺たちに協力してくれるようだ。
「その代わり、頼める立場かは分かりかねぬが、お頼みしたいことがあります。どうか聞いてもらえないだろうか」
「まあ別にいいけど」
宝さえもらえれば、俺はそれでいい。了承をもらえたことでカグヤはホッとしたのか、肩の荷が下りたように息を吐き、「宝についてお話しておこう」と俺たちに恭順するような態度を示してくれた。宝と言うワードは、いつも俺をわくわくさせる。
「この国の宝は、大きく分けて二つある。一つは刀だ。先ほど話したこの国の王である皇帝が持つ、覇者の剣。そしてもう一つ、それはここにある」
「おお、マジか!」
どこにあるんだ? 宝物庫があるのか? キョロキョロ落ち着きを見せない俺を見て、彼女は恥ずかしそうに咳ばらいをし、「じゃから、ここじゃ」と自分の平らな胸に手を置いて教えてくれた。えっと、それは、その着物ってこと? んなわけないよな。派手だが作るのは簡単だ。多分。疑問が晴れぬまま俺は彼女を見ていると、エレンが申し訳なさそうに俺に対し、耳打ちしてきた。
「も、もしかしたら、カグヤさんがこの国の宝なのかも」
まさか……なあ、メイド。メイドはどう思う。俺はエレンの言葉がジョークにしか聞き取れなかった。確かに美しい造形をしている。鼻は低いが目鼻立ちは整っている。子供の様に、丸く大きい瞳。長く切り揃えられた黒髪もオイルが塗られたように艶がある。確かに宝と言って良い容姿なのかもしれない。だが、だからって国の宝ともいえる刀と釣り合うのか!?
おもわずメイドにも尋ねてみた。だが彼もエレンと同意見だったようで、「それで賊に追われていたのですね」とカグヤに問いかけた。カグヤは「まあ、それだけが理由では無いが、そう言う事じゃ。この世界の宝は二つ、刀と妾じゃ」
噓では無いと言うように、彼女は俺の方を見て、再度唱える様に言葉を続けた。
「妾の身は、二つある」
よく分からないことをまた言い出したと思っていると、襖を叩く音が聞こえた。
「姫様、夕餉の時間でございます」
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