第46話 地味な着物に身を包み、俺たちは街を襲う。


「俺のは地味なんだな……動きにくい」

 筒の様なストンと起伏の無い厚手で一枚布の着物を腰あたりに巻かれた帯とかいうベルトで固定しながら、俺はメイドに感想を漏らした。すると彼は「男なんだから我慢なさい」と言い、帯をきつく締めつけてくる。ぐえっ、苦しい。そんな俺の気持ちをつゆほども酌まないメイドは、俺の着付けを終えてカグヤたちの座る後部席の方から車外に出た。

「にしてもよくこんな衣装用意してたな」

 俺は自分が着ている衣装を眺め、カグヤやエレンの服装を見ながらひとりごとを呟いた。するとゆっくりとリアゲートがメイドによって開かれ、メイドが所持していた理由を語ってくれた。

「ええ。何かあってからでは面倒ですから。それともレディは彼女たちのような服装がしたいですか?」

「んー、いいや」

 女なのは顔だけで十分だ。俺はメイドの質問に首を横に振った。

「なら降りなさい」

「へーへー」

 適当な相鎚をうちつつ、俺は彼の言う通り車外に下りた。改めて見ると、やはり地味だ。ジーンズの様なインディゴカラーで無地の着物。それにダークグレーの帯。靴はそのまま黒のスニーカーだが、うーん。まあ服に関してはシンプルが好きだから良いが、傍に立つピンクの着物の袖に花をあしらうエレンの和装や、ワインレッドのスカートや規則的な矢絣柄の着物と比べて明らかに見劣る。だがまあいいか。と思ったが、俺は何より隣に平然と立っているメイド服の彼に突っ込みを入れずにはいられなかった。

「なんでメイド服なの?」メイドに問い合わせると、「問題ありません。私にはジャマ―がかかっています」と謎の機能を教えてくれた。だが彼も俺の心を読むのは長けているため、「私の服装は周囲に通常の衣装と認識されます」と教えてくれた。相変わらず俺とは異なる便利な体だ。

「それ俺たちにも効果を付与できないの?」

 メイドに問いかけてみたが、無視されてしまった。およよ……。慰めてくれるエレンに苦言を呈そうともしない、徹底した無視を貫く彼を見ると、答えたくないらしい。つまりできるってことか。したくないだけで。無理強いしても良い事もないし、せっかく着替えたんだ。また着替えるのは面倒だ。そう思ったから、俺は彼らに「じゃあ行くか」と声をかけた。

 俺の言葉にエレンやメイドたちが頷いた。メイドは俺からライフルを受領し、カグヤもエレンの肩を借りながら「すまぬ」と礼を言った。そんな気弱なカグヤにエレンは「大丈夫です。私たちが付いています」と励ましている。なあに、カグヤ。宝を守るのも、宝さがしの醍醐味だ。だが人の宝を奪う奴には制裁が必要だ。野原に寝そべっていたウルフマンたちに指示を出し、彼らを町へと向かわせる。波状攻撃を仕掛けるためにもう6体を生成し、同じく街に向かわせる。彼らは無言で俺たちに別れを告げ、手に槍を持って二足歩行で街に向かって駆けていった。

 すると俺たちに街へ忍び込めと合図を告げるように、数匹のウルフマンが遠吠えを響かせて街を守る門番たちに襲い掛かった。その様子をスキルで生成した双眼鏡で確認し、俺たちも徒歩で街に向かうだけ。焦らずとも門番たちは素材と化し、街中はパニックの悲鳴にあふれていた。だからこそ俺たちは騒乱の街に簡単に侵入成功する。ついでだ。俺は素材となった屈強そうな門番だった素材を使い、「レディメイド」と唱えた。そして生成した二人の巨漢な盗賊たち。その姿にメイドが、「悪趣味な」と苦言を呈していた。

「良いじゃないか。この騒々しさ、お祭りみたいなものさ。なあマムシたち」

 俺は生成した双子の様なマムシの中心に立ち、大きな斬馬刀を肩に担ぐ彼らの背中をポンと叩いた。

「暴れてこい」

 俺が召喚した彼らを見た、カグヤの屋敷にいた様な門番の様に武装した男たちが、「マムシ様!」と希望を見るような瞳で彼らを見て、彼らに一刀両断される。はははは。いいじゃないか。彼らの登場に、街はますます混沌へと姿を変えていく。だが街にいる武装した兵士たちも、集団で一匹のウルフマンに襲い掛かり、討伐成功しているグループも散見される。だがそんな彼らも双子のマムシたちに困惑の表情を浮かべつつ、鎧ごと一刀両断されて素材と変えられていく。

「まったく……意外と強いんだよな、こいつら」

 敵と判断した後の兵士たちは、命を惜しむ様な所作を見せずにマムシめがけて集団で鉄砲や刀で切りかかっていく。その奮戦は彼らの仲間にも伝染し、俺の先行させたウルフマンたちは全滅してしまった。だが喜んでいるところ悪いね。仲間の躯の上に得た勝利に勝鬨を上げる兵士たちに心の中で君たちがいけないんだよと忠告し、「レディメイド」とスキルを唱える。

「その仲間はもう、お前たちの仲間じゃない」

 俺は彼らの仲間を素材にして、新たなウルフマンたちやオオグモ、J1を複数生成してあげた。仲間の躯が化け物となり、彼らに襲い掛かる。そんな光景を前に彼らは口々に絶叫を上げて必死に刀を振るっている。

「あー、ウルフマン探索用なのに。J1、オオグモ‼ 兵士たちを始末しろ‼ ウルフマンは散開して探索開始!」

 彼らに指示を出していると、無謀にもJ1に細く薄い刀身の刀で切りかかった兵士が、キンっ!と音を立てて折れて柄と鍔だけとなった刀を見て「な、なんじゃこのカラクリは」と驚いている。続く単発式の鉄砲を放つ兵士も、丸みを帯びたJ1のボディに傷一つ作ることが出来ずに、「どうやって戦えばいいんだ!」と絶望を叫び、次々にJ1の振るうハンマーにミンチにされていく。見知った仲間であったはずの盗賊の頭も、今や物言わぬ敵だ。「マムシ殿‼」と声をかける兵士たちに情けを駆ける様子もなく、ただ機械作業のように大蛤をふるっている。

「何をしておる……」

 男だらけの兵士が戸惑う中で、突然空から豊満なバストの谷間をはだけさせた派手な着物を着ている女性が舞い降りてきた。その女性は癖のある長髪だがエレンにも負けないくらいの艶のある黒髪を持ち、まるで居酒屋で働いていたララの様に、華美な妖艶なメイクをしている。そんな彼女は無言で元仲間たちを手にかけるマムシたちに声をかけてきた。無駄なのに。

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