第47話 街の女王、蛇蝎大夫登場


「貴殿らは我が姉上に逆らい、我が町を襲う気か! ならば死ね!」

 派手な夜の女の様な雰囲気の彼女が刮目するように目を見開き、大蛤を振り下ろすマムシたちの攻撃を片手で受け止めた。その光景に俺たちも驚いたが、周囲の傷だらけの兵士たちも「出るぞ! 我が女王、蛇蝎(だかつ)様の美技!」と何かを期待するように叫んでいる。そんな声高に彼女について叫び動きを止めた彼らを、オオグモやJ1が次々に素材へと変えていく。

 すると蛇蝎と呼ばれた派手な女性が怒りを露にするように頭髪をゆらゆら揺らし、その毛先をドリルの様に束にして、マムシの腹めがけて襲い掛かった。次の瞬間、マムシたちの体に大きな風穴が開き、石化していく。

「我が姉妹の誇るスキルは石化‼ この街の花魁、蛇蝎大夫様の妖艶なる髪は蛇の様に、あなた達にくらいついて離さなくてよ」

「石化か。初めて見るな……」

「珍しいスキルですね。カグヤとエレンは下がっていた方が良いでしょう」

 蛇蝎は自身の技を誇るように髪を意思のある蛇の様にゆらゆら動かし、叫んでいる。その光景を見たメイドの言葉をエレンたちは素直に聞き入れ、先ほどから映る凄惨な光景に目を回しそうなエレンとカグヤは寄り添うように、俺たちの背後にそそくさと移動していく。そんなエレンたちの隙をついて襲い掛かろうとした兵士たちを、オオグモが口から糸を吐いて地面に拘束していく。その光景に蛇蝎は「人の街に土足で踏み込んで、良い度胸してるじゃない」と大きな胸を揺らして俺たちに文句を言ってきた。

「だれの街だろうと、俺の敵なら容赦なく土足で踏み入るぞ。俺とメイドは」

「あら良い男たち……私の可愛い盗賊たちも死んじゃったみたいだし、ちょうど下男が欲しかったのよね」

「間に合っています」

 メイドが蛇蝎に対し間髪入れずにライフルを数発お見舞いした。だが蛇蝎はそれをあろうことか、髪の毛を盾にするようにして防いでしまった。その様子にメイドは「通常兵器は無意味ですか。レディ、あれを」と俺に大蛤を要求してきた。その武器をアイテム欄から取り出し、メイドはそれを片手で持ち上げる。

「嫌だ、髪の毛少し焦げちゃったじゃない」

 信じられないと愚痴る蛇蝎にメイドは「なら冷やしてあげましょう」と水流を纏った大蛤で切りかかった。その様子に蛇蝎も危険を察知したのか、跳躍して空に浮遊している。そして驚くように文字通り空からメイドを見下し、

「嘘、マムシちゃんに貸したその宝刀って、そんな効果があったの?」と感想を漏らしている。

 そんな彼女に対し、メイドは跳躍し、蛇蝎の胴体めがけて水平切りをお見舞いした。空中戦に対応されるとは思ってなかったようで、その攻撃は見事蛇蝎の胴体を切り裂き、彼女のへそから下はぼとりと地に落ちていく。

「うそでしょ、あり得ない!」

 下半身とお別れしたはずの蛇蝎は尚、意味不明だと叫んでいる。その光景に俺の背後に立つエレンが、「あの方……不死身ですか?」と困惑した声を漏らした。いや、手ごたえはあったはずだ。

「最悪なんですけどぉ」

 口から血を吐きながら、蛇蝎は下半身を失った胴体から何かを出現させる。それは蛇が脱皮をするようにぐにょぐにょとどんどん体から伸びていき、次第に硬質化していく。するとその蛇の様な下半身に、オオグモの様な足が6本現れ、尻尾の先が禍々しく尖っていく。新たに生まれた醜い下半身は、上半身の3倍ほどの長さの真っ赤なサソリの様だった。

「もう許さない。あんたもあんたの仲間も、みんなまとめて苦しませて殺してやる」

 両手をサソリやカニの様なはさみに変えた蛇蝎は、着物を破り捨てるように脱いでいく。その体はもはや人間と呼べるような皮膚ではない。和装の代わりに彼女の豊満なバストやくびれのあるウエストは蛇の様な赤い鱗を持ち、毒蛇を想起させる黒のまだら模様を浮かべている。メイドを見る目は吊り上がり、細く長い舌を伸ばして、「あんた、こんな状況で綺麗な顔をしているね。その顔を歪ませるのが楽しみだよ」と愉悦の表情を浮かべている。

「あいにく化け物を楽しませる術は持ち合わせておりません」

「つれないねえ! ならあんたのその細い腰を切り裂いたら、何が出るのよ!」

 蛇蝎はつれない対応だと笑いながら、先ほど切り裂かれたお返しだと言わんばかりに、両手のはさみでメイドの胴体を挟みこんだ。その力に屈したように、メイドが握っていた大蛤を力なく手放してしまう。その様子にご満悦な蛇蝎はこれで終わりだと笑っている。そんな彼女を前にメイドは、「貴女がこの国の皇帝ですか?」と問いかけている。その様子に「命乞いかい?」とあざ笑うように笑みを浮かべる蛇蝎が、「そうだよ。と言いたいが、私は違う。私は姉からこの街を任された花魁」とメイドの質問を否定した。

「そうですか」

「あんたを殺したら次はあいつらさ!」

 メイドの胴体を挟む力を強める蛇蝎の姿に、俺は「メイド!」と彼を心配して声をかけた。だが彼は相変わらずクールな表情で、「外れですか」とため息を吐いた。

「な、なんで……なんで切れないのさ!」

 ぐぐぐと力を籠める蛇蝎のはさみが、あろうことかメイドの衣装すら切ることが出来ずにいる。そんな光景にメイドが「不良品ですね」と、馬鹿にするように呟いた。

 その言葉に激昂した蛇蝎はサソリの尻尾の先からどろりとした白濁した何かを垂らし、「いひひひ」と笑い、それをメイドの頬にくっつけようとしている。そんな光景を前に、オオグモがメイドを救おうと蛇蝎めがけて粘着性の糸玉を射出した。

 だがその糸玉は蛇蝎のサソリの棘を包むも煙を立てて、しゅわしゅわと音を立てて溶けてしまう。

「甘いわね。私の毒は火の国一。さあ存分に蕩けて死になさい」

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