第45話 エルフの裸は芸術品?


 復活した偽のカグヤは全快ではないため、まだ満足に動けないようだ。生成純度を高めた結果、本物の影響を受けやすいようだ。その姿は奴隷にされたダグラスの影響を受けた偽のダグラスによく似ている。カグヤの話を聞けば、昨晩、城で手負いになったらしい。変身時の記憶はあいまいらしく、当時の創傷は回復しても、疲労が抜けないようだ。

「酒蔵か……てことは、でかい建物か」

 車の窓を開けて町の方の匂いを嗅いでも、かすかにアルコールの匂いがするくらいだ。発見は手間取りそうだな。そう思っていると、背後から草むらを駆ける足音が聞こえてきた。振り返ると、俺が生成したウルフマンたちが風を切るように四つ足でこちらに走ってきて、助手席の窓の向こうに横並びに整列した。

「こいつら使えばいいな」

 どうせ敵の手中だ。どんなトラブルになろうが、俺たちにとっては何も関係ない。だがメイドがそれに待ったをかけて、「彼らを陽動に使いましょう」と提案し、俺にアイテム欄を表示するよう指示を出してきた。言われるがままにアイテム欄を表示すると、メイドはその中から和装と書かれた衣装を2つ取り出した。

「これは……動きにくそうだ」

「我慢なさい。エレンも着替えなさい。その服は目立ちます」

 俺の目の前に2着の和服が現れた。メイドがエレンに手渡したのは、カグヤの様な着物とスカートだ。だが着たことが無い衣装に戸惑っているエレンに苛立つように、メイドは運転席を降りて後部座席のスライドドアを開けて、エレンを座席から降ろした。着替えさせるのだろうか。だが外は流石に可哀そうだ。そう思っていると、車の背後の跳ね上げ式ドアのリアゲートを開いて、その中にエレンを連れ込んだ。

「な、何を……?」

「時間がないのです。暴れるなら裸に剥いて、無理やり着させますよ」

 戸惑うエレンにメイドは脅しではないと告げるように、彼女のドレスタイプの服の胸ぐらをつかんだ。

「わ、わかりました」

 エレンは即答し、恥ずかしそうにもたもたとドレスを脱ごうとしている。そんな様子をルームミラーで見ていると、その視線に気が付いたのかエレンが恥ずかしそうに「見、見ないでいただけると」と俺に声をかけてきた。窓はスモークがあるがリアゲートが開いている以上、外からは見える。仕方ない……俺はリアゲートを閉じるために車を降りた。そして外で待つウルフマンに休んでいろと手を上げ、指示を出した。それを受けてウルフマンたちがリラックスするように、野原にのそべっている。

「おい、閉めるぞ」

 俺は一応中で着替えているエレンたちに声をかけて、リアゲートに手をかけた。すると視線の先、車内にはほぼ全裸でピンク色の着物に袖を通したばかりのエレンが、驚くような表情を見せながら俺と目が合った。なんでなにも着ていないんだ? そう思っていると、エレンの足元にコルセットを発見した。通りでパンツ以外身に着けていないわけだ。石化したように着替えの途中で固まるエレンは、固まってしまったため袖を通していた着物をしゅるしゅると音を立てて床に落としてしまった。

「あ、……」

 エレンがパンツ以外全てを脱いだ状態で固まってしまったため、俺は昔見た記憶のある、両腕の無い女性の彫像と彼女を重ねてみてしまった。

「綺麗だな」と感想を漏らすと、体が固まったままエレンが緊張した様子で「そ、そうですか? あ、も、もしよければ」と震えた声で何かを言っている。何かを言う前に着物を着れば良いのに。

 いやしかし細くくびれたウエストに、ダークエルフと比較すると起伏は少し乏しいが、均整の取れた釣鐘の様なバスト。その先にある小さな桜。小さくも縦長のへそ。顔同様に日焼けとは無縁な白磁の様な肌。思わず彼女に目を奪われていると、メイドが咳払いをして「着替えの邪魔です。ドアを閉めるなら早く願います」と俺に声をかけてきた。ああ、そうだな。リアゲートを下し、半ドアにならないようにバタンと音を響かせて扉を閉めた。

 すると何やら車内から声が聞こえるが、コンドルの愛用しているこのワゴン車は防音使用だ。外にはほとんど声が漏れることは無かった。俺はおそらく次の獲物は俺だろうと覚悟し、リアゲートの傍で休んでいるウルフマンの顎を撫でたり、少し野性味のある手入れのされていない毛並みを手で堪能しながら、エレンの着替えを待った。

 数分もしないうちに後部座席のドアから現れたエレンは赤面した様子で、俺の方を見ないようにして「メイド様が呼んでいます……」と、か細い声で俺の番だと教えてくれた。そんな彼女の姿は、桃色の着物をカグヤの様にハイウエストのひざ下丈のスカートでタックインした姿だ。淡い金髪のエレンは、先ほどの様な滑らかな彫像の様な裸体ではなく、和装と一体化したような美しさを持っている。それはカグヤともまた違う魅力を放っている。

「あ、あの……」

 もじもじとしたエレンが何かを言ってほしそうな表情で俺を見ている。すると「み、みました?」と俺に問いかけてきた。

「ああ、見てるよ。やっぱ綺麗だな」:

「本当ですか!」

 ずいっと顔を近づけてエレンは俺に「綺麗でしたか?」と喜んだ様子で俺に再度問いかけてきた。ああ、綺麗だ。俺はうなずき、肯定する。すると彼女は肩の荷が下りたように、大きく息を吐いている。そんな彼女を見ていると、後部座席のドアが開き、「レディ」とお呼びがかかった。

「次は俺の番らしい」

 エレンにしばしの別れを告げ、俺はリアゲートを開いて車内に入る。そして空いたドアをエレンに閉めさせて、メイドの着せ替え人形となった。なぜか後部席のカグヤやいつの間にか車内に戻っていたエレンに見られながら、メイドの「動かないでください。着付けが出来ない」とある種の力技を浴びて何一つ抵抗できずに彼の着付けサービスを受けていた。

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