第54話 戦闘開始! 神のペットVS神の子?
「そちらの銃は進んでいるのですね。蛇蝎の体に銃弾が効くなんて、初めて見ましたわ」
鉛玉を体に何発も撃ちこまれ、その痛みにもがく様に、「助けて」と姉の豪奢な和装に縋る蛇蝎。そんな苦しそうな彼女にヒドラは「かわいそう……だけど、私の着物汚れちゃうじゃない」と感想を漏らし、せっかく体を復活させた蛇蝎の体と首を手でちぎった。その痛みに絶叫する蛇蝎に、彼女は「これで痛みは治まるでしょ?」と笑っている。顔とお別れになった、蛇蝎の意思なく動かなくなった、肉付きの良い女体のような蛇のボディや、本物のサソリのような下半身を、ヒドラは両手で拾って大きく口を開いて飲み込んでいく。
その凄惨な光景に、エレンやオヤマなど子供たちが「ひいっ、い、妹を、食べてる」と怖がっている。
だがヒドラは、「ふう、相変わらず役に立たない癖に、味は良いわね」と、首だけになった蛇蝎に「ご馳走様」と声をかけた。声をかけられた蛇蝎は、再度首だけになり、自身の血で出来た口紅を塗ったヒドラを見て「許して……」と声を漏らすほかなかった。その光景を前に、メイドは俺にライフル銃を返してきた。
「それはおしまい?」
「ええ。この銃は所詮玩具。効くとは思っていませんし、メインはこの宝刀ですから」
メイドが片手で大蛤を操り、波を打ち上げるように刀を振るった。すると何もなかった切られた空間からざぶんと白波が立ち、ヒドラめがけて襲い掛かった。その威力はすさまじく、波はヒドラだけでなく店の外壁もろとも押し流すように、飲み込んでいく。対してメイドを中心にその背後には結界が張られたようで、俺たちや料理人の店主や少年たちは無事だ。バンは「すげえ」と声を漏らしている。崩れた壁の向こう側に作られた海の様な水たまり。それを避けるように屋根の上に避難していたオオグモは、屋根伝いに飯屋の屋根まで飛び移り、太い糸を垂らしてするすると飯屋の中に下りてきた。
「こいつに乗って安全なところに逃げろ」
俺の言葉にオヤマがそんなことは出来ないと言うように、口ごもってじっとこちらを見ている。だがそんな彼をバンが肩に担ぎ、「悔しいけど俺たちは足手まといだ」と的確な判断をしてくれた。それに続きランも、「ごめんなさい」と謝罪し、オオグモの背に乗車していく。そして店主も、「助けていただいた恩は忘れません。ご武運をお祈りしております」とこちらに頭を下げて、少年たちとオオグモの背に乗車した。
「気にするな。もしまた会ったら、飯頼むわ」
「いくらでもお作り致しますよ」
店主や少年たちが俺たちにエールを送ってきたので、俺がオオグモにも「じゃあな」と別れを告げ、彼らをこの場から逃がしてやった。オオグモも何も言わずにただ糸を伝って屋根に上り、波と反対側の方へ跳んで去っていった。
「エレンも逃げたかったか?」
「い、いえ。私はレディ様をお守りするためにいるのです! 逃げるわけないじゃないですか!」
足が震えているエレンは精一杯見栄を張って、俺たちに付いてくると宣言した。同じくカグヤも、「今の妾は無力じゃが、千載一遇のチャンス、逃しとうない」とどこから持ってきたのか、刺身包丁を握っていた。そうか。
「オロチは?」
「わ、私も、姉さまの暴走を、と、止めたい。……無力だけど」
がっくりとうな垂れるように、オロチは自分の無力さを恥じながら決意を固めている。だとよ、メイド。やるしかないみたいだ。
「水辺か……何か良いアイテムあったかな」
カタログギフトを取り出しチェックしようとすると、「不要です」とメイドが俺の助太刀を拒んできた。まあいけるとは俺も思うけど、良いのか? メイドの事を心配していると、今度は彼が波に沈んだヒドラに、「起きなさい。この程度で死ぬとは思っていませんよ。堕ちたとはいえ、神に飼われていた水を生業とする生物でしょう」と挑発している。するとザブンとメイドが作り出した大波の一部が水しぶきを立たせ、赤い大蛇が現れた。
それは人間の面影はなく、池にいた緋鯉と蛇?それともウナギ?が合体したような生物だった。頭部は蛇の様な獰猛さを見せながら、その顔には刺々しい胸びれが備わっており、数メートル程の長い胴体にも、刺々しい赤い背びれや鱗を持ち、腹は白い。そして海中を動きやすい様なひれが複数備わっている。
「生物じゃなくて、神よ!」
「それは飼い主でしょう」
「お黙り!」
吠えるヒドラの口からは、まるでつららのような太く鋭い牙が何本も見えている。その姿をまじまじ観察していた俺に気づいたヒドラが、まるでもう勝ち誇ったように、「どう、これでも私を神とは認めないのかしら?」と高笑いを浮かべていた。そして「見よ!」と叫んだと思えば、蜘蛛のような複眼を青く光らせ、周囲の適当な一軒家めがけて目から光線を放った。光線を浴びた建物は、やはり石になってちょっとしたアートの様になっていた。その様子に誇らしげなヒドラは、鎌首をもたげて笑みを浮かべている。
「この力はどんな雄も支配できる! そして私は、神を超える神を作るのよ!」
飯屋から外に出た俺たち、いや、カグヤを見てヒドラは吠える。今は無力なカグヤが、その絶対的とも思える力を備えたヒドラを見て、悔しそうに唇を噛んでいた。
「あんたの半端な力を使ってあげるって言ってるのよ! その餌みたいな狐の耳も、おいしそうだわ。卵さえ生んだら、あんたは頭から飲み込んで、ゆっくり消化してあげる。子供のためじゃなく、私のための、栄養としてね」
「断る! 妾もこの世界の住人ではないが、このような化け物を国の頂点に立たせる気は毛頭ないわ!」
「あ、っそう。残念だわ。ならこれに刺されて死になさい!」
ヒドラは口を大きく開けて、鎌首をこちらに突進させてきた。その口内から怪しく光る何かが鋭くこちらに向かって、飛び出してきた。あれは、刀!? 仕込み杖のように刀を口内から飛び出して攻撃してくるヒドラに対し、メイドが斬馬刀の大きな刀身を盾代わりにして防いだ。その様子にヒドラは、「あら、よく攻撃を防ぐことが出来たわね」とメイドを褒め、「でもこれならどうかしら!」とヒドラは長く細い舌で刀の柄を握り、幾度も豪雨の様にメイドめがけて刀を振り下ろしてきた。それを大蛤で受けているメイドの顔が、ほんの少しだが辛そうに見えた。
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