第53話 「告解」マイア・F・モズロー編

 私、シェリル・アンドレアには罪がある。


 ヴァンダルムくんを、争いが苦手な少年を、『ただの大人しい少年』のまま居させてあげられなかった罪がある。


 私達は子供だった。

 恐ろしい思いをした当時を、塗り替えようとでもするかのように。

 私達は『いかにヴァンダルムくんが凄かったか』『それがどれほど勇気のある行動だったか』、当時のことを聞いてきた人にそれを自慢げに語ってみせた。


 ヴァンダルムくんは平素よりの無表情を、少しだけ笑みを作って、何も言わずにそれを許した。

 あれほど目立つことを嫌っていたのに、私達が嬉しそうに語るのを、何も言わずに許していた。


 事件当時も、私達はなにも出来ず、最後はすべて彼に任せるしかなかったと言うのに。

 それなのに。


***


 あの日見たヴァンダルムのボロボロの姿を、俺は生涯忘れることはないだろう。


 全員年齢の大して変わらない子供だったが、それでもアイツは俺達の中でも一番幼かった。

 

 病室に運ばれ、ベッドの上で意識をなくしていたアイツは、普段よりもずっと幼く見えた。


 きっと普段から冷静で落ち着きある態度が彼を一回り大人に見せていたのだろう。


 本当は俺はもっと、俺がもっと戦ってやらなくてはならなかったのに。

 アイツは強かったが、戦いを好んでいるようには見えなかった。

 それなのに任せきりにして、初めにぶっ倒されて何も出来なかったなんて言い訳にもならない。


 だから俺も、俺の仲間達も、この先アイツのためなら力を貸すと決めたんだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 あー。ダメだ。

 幼少期編を最後どうまとめるか全く決まらん。


 ……まあ一旦気分を変えるか。

 どうせこの紙も無駄にするのなら、適当に思考をまとめるメモとして使おう。

 ごちゃついた頭の中を整理するのにも、一通り思ったことを書いた方がうまくいきそうだ。


 というかさあ。

 ヴァン君とフレードル教諭への取材を依頼してたフリーの記者。

 アイツ原稿持ってどっか消えやがって!!


 これが原因でヴァン君が原稿書いてくれなくなったら、一体どう責任取るつもりだっ!!?


 ……とりあえず、今回の分は諦めるしかなさそう……。

 書き直しとか、ぜっっっったいにしてくれないに決まってる。


 ああ……でも、せっかく出版できるところまで漕ぎ着けたんだ……なんとかこの企画は成功させなければ……!


 持つべきものは有名人になった幼馴染だね!

 ヴァン君を使った金儲けなんて腐るほど思い浮かぶよ!!!


***


 それにしても、ヴァン君にもこんな時代があったなあ……としみじみ。


 今となっては、下手に口喧嘩になろうものなら隙を見せた瞬間に気付けば劣勢に立たされてる。そんな可愛げのない子に育ってしまった……。


 一体何が彼を変えてしまったのか……!

 今では別人のような人物に……!

 可愛かった彼を返して……っ!!



 ってか、ホントすごいよね。彼。

 当時7歳とか8歳とかでしょ?

 その歳で大人も手こずる魔物とほぼ一対一で撃退。

 なんか知らないけどすんごい高度な魔法を、ロウソクの火でも消すみたいに使いこなしたり。


 私は魔力が殆どないし、魔法なんて使ったことないからよくわからないんだけど、控えめに言ってバケモンじゃない?


 なんか当時の周りの人はすっごい気を遣って、あのバケモン隠してたみたいだけどさ。

 あの子そんなに殊勝で繊細なタイプじゃないでしょ。

 どうせチヤホヤされて内心喜んでたって絶対。


 『争いごとが苦手です』みたいな事言われてたけどぜっっったい嘘。


 人の事を言い負かす時、メチャクチャ良い顔するんだよね。あの男。

 『愉悦』……。

 そう愉悦って表現が一番合ってる気がするよ。


 まあ本を売るためにも綺麗にデコレーションして世間様にはお送り致しますけれども!


 まーだ幼少期編だから大人しいだけでしょ。


 だってこの先、魔族皆殺し事件だったり、冒険者ランク超越事件だったり、傭兵国滅亡事件だったり……

 

 ……アレ?

 今思えば、ヴァン君の偉業だ伝説だと言われているものって、なんだか血生臭い話ばっかりだな?

 んー……マア、英雄伝説ってそういうものか。

 思えば御伽話の騎士とか王子も、大体過程で剣を振り回す行程が挟まってるよね!


 大丈夫大丈夫!彼は良い子だからね!

 そこは保証しよう!


 そういえば今回の取材で語り手をしてくれたメインの二人。

 私は会った事ないんだよなあ。ヴァン君と一緒に居るところも見たことがないし。


 私が王都まで引っ越して来られたのも、十代後半の時期とかだったから……その頃にはあまり仲良く無くなってたのかな?


 それにしてはかなりエモーショナルな原稿に仕上がってましたけども。

 こんなに「彼に償いをしなくてはならない!」と二人してしつこいくらいに言っているのに、その熱意はどこへ……?


 上辺だけの関係ってこと……?

 別に私は構わないっていうか、「そういうこともあるよね」くらいにしか思わないけれども。


 だったらわざわざこれから出版する予定の本にこんな書き方しないよなあ……?

 ヴァン君が彼らにとって「過去関わりがあっただけの人」なら、懺悔のような語りを入れる必要もないし。

 逐一自罰的な様子を見せるのに、現在の彼の周りにはもう居ない友人達。

 ……変なの。


 というか、イチイチ感傷を原稿に練り込んでくださるものだから、ほんっとうに編集がしづらい!

 この本はアナタ達の自伝じゃないんですよ!!!?


 ハア……とりあえず事実だけ書き出してこの章は短くまとめよう……ってことでなんとか製本版は読みやすく出来た……ハズ!


 大体!ここら辺の話はまだまだ「伝説」とは程遠いシーンしかないからサラッとでいいのよサラッとで!

 せめてヴァン君の当時の様子とかがもっと描写されていれば、読者も興味を持ってくれそうなものを……!

 

 ……ヴァン君本人の問題もあるからここら辺はなんとも言えないか。

 今とは別人と言いたくなるほどに、十代の彼ってばすっごく無口。

 個人主義で本心をあまり見せたがらない。


 ……ああー!!!もう!!!!

 だからこそヴァン君直筆の当時を振り返った、主観的な話が欲しかったってのに!!!

 あのフリーの記者!見かけたら逆さに吊るして鼻から水を飲ませてやる……!!!






────もしも神の司徒(チート)に選ばれたのが小市民だったら────

       一部 おわり


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もしも神の司徒(チート)に選ばれたのが小市民だったら0 黒蟻 @mr_kuroali

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