第13話 ある教師の思い出話2

 素晴らしい!!!


 私は祭りの日に外にも出ず研究室に籠っていた。研究熱心というよりも偏執的な執念染みた情念。しかしその熱意もようやく実を結びつつあった。


 今日は担当する授業もないし、何より例のドワーフの少年の協力を得られてからすぐさま研究は進展を見せていたのだ。まさかそれを我慢するなんてとてもとても……。


 私一人ではたどり着けなかった所まで一足飛びで進んでしまった。やはり優秀な協力者は必要不可欠だろう。彼には今でも改まった感謝の気持ちが湧いてくる。


 まあ結果的にはより良い協力者が他に見つかってしまったが、彼に対する感謝は決して忘れないだろう。それほど私は嬉しかった!!!


 今までは出来損ないの副産物程度しか産み出せなかった。自分の才能のなさをどれほど嘆いたことか。

 副産物はそれなりに面白い出来ではあったが、私の目的には程遠い。


 いやはや。僕の人生で足りなかったのが人間との関わりであったとは。これでも人当たりはいい方だと思うんだがね?



 彼は喜び勇んで飛び出してしまった。気持ちはわかるよ。我々の志はとても近い方向を向いている。ま

 だまだ彼に手伝ってもらいたいことはたくさんあったが、今日は祭りだ。そのくらいハメを外したっていいだろう。


 なに。私にもそのくらいわかるさ。人の心がわからないみたいに言わないでほしいね。寧ろよおくわかるからこそ『彼』を捕まえられたんじゃあないか。


 言い方が悪い?そうかい?それは悪かったよ。まあ「協力を得られた」のは私がちゃんと理解していたからだと思うがね?「人の心」というものを。だろう?



 それにしても盲点だった。ヴァンダルムくんがここまで優秀な生徒だったとは。祭りの翌日からだったかな?彼がボロを出し始めたのは。


 また「言い方が悪い」かね。内容は変わらんだろうが……じゃあ、「その才能の片鱗を見せ始めた」のが大体そのあたりだったはずだ。



 唐突に令嬢シェリルが彼に絡まなくなって、「超級魔法をボールを投げるように放つ天才魔術師がいる」と噂になり、おのずと彼に注目は集まり……。 


 一体全体、彼は何のためにこんな無駄な隠し事をしていたのか甚だ理解できないな。

 しかしここから彼の「異質な」才能は、彼を「英雄」と呼ばれる存在にしたと思うと滑稽で仕方がないね。ん?違うか。感慨深いというべきか。



 彼には注意をしておいたのだ。一応な。だが人の心とはままならないもので……ほら、よっぽど私の方が人の心を理解していないか?


 うーん。もっと真剣に止めるべきだったと言われてもね。きっと結果は変わらなかったと思うよ。

 彼と私とでは厳密には目的意識が違うところにあったが、その情念はきっと似通った強さだっただろうからね。未だに彼のことは良き同志だと思っているよ。


 それに別に私としてはさして気にしていないというか……。いやまた「心ない奴」みたいな感じを出さないでくれよ。そうじゃなくて。


 彼は自分の目的を果たしたんだ。羨ましいと思いこそすれ、他に悪感情なんて抱かないよ。君もそう言われたらそんな気がするだろ?


 だって君と私は根本はおんなじなんだから。

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