もしも神の司徒(チート)に選ばれたのが小市民だったら0

黒蟻

第1話 駄文・序(読み飛ばしたってなんら問題は無い序文)@ばん

 生前の私は、特に優れた人間というわけでもなく、特に人格者だったという自覚もなく、ただの小市民だったことと自負している。

 この表現が正しいのかも自信がない。私には学もない。

 

 ただ、人より小器用であったとは思うし、少し口が上手かったようにも思う。しかしその程度の、その辺にいる凡人だったことは保証しよう。自分で言っていて少し虚しさを覚えるが。


 さて、何故私がこのような自尊とも自虐とも言えることをぺらぺらと書き綴っているのかというとだ。


 この書籍はそんな小市民の私が、何故かこの世界の主役たり得る配役を与えられたという話をするからだ。



 いやいや、自虐風に『小市民』などと自己評価をしておいて、なにが主役だと。私もそう思う。

 うむ。それならば出来るだけ客観的に、簡単な現状確認からしていこうじゃあないか。うむ。


 感情と事実とをわけて羅列し、現在の状況と今後の目標を明確にするという作業は、実に生産的だ。


 もしこれを読んでいる物好きがいるのであれば、是非とも実践してみて欲しい。一過性の感情を落ち着ける効果がある。頭にどうしても思い浮かんでしまう悲観を客観視することは、きっと君のメンタルケアに多大なる恩恵を与えることは別に保証しない。「※効果には個人差があります」というやつだ。


 現状を理解し不備を理解し目標を明確にするために、ただただ私がそういうことをよくするというだけだ。なんかそれっぽいルーティンを語ってエリートぶりたかっただけだ。



 閑話休題(「余計な話をする暇があるなら早く書き上げろ」と厳重に脅しておくように@編)。


***


 うむ。話の起こりというものは重要だと思っている。私の二度目の人生を物語と考えれば、序章はどこからとするのが良いだろう。


 そうだ。このいかにも『思いついた順番に適当に書き殴っています』という文章を、律儀にもちゃんと頭から読んでくれている物好きならばお気づきであろう。


 私は一度死んでいる。


 『なにを馬鹿なことを』とお思いか。いや私の故郷の物語などでは、割とありふれた設定なのだ。これ本当。



 一度死に、その世界とは別の世界に生まれ変わった。


 それが今の私『ヴァンダルム・バルフトゥム・ヴァイザル・ヴァルバス』である。

 いやあ。生前に比べ、なんとも仰々しい名前になったものだ。


 なんか『ヴァ○○』って言いたいだけじゃね?って私も思った事があるが言ってはいけないぞ?

 実は二番目の発音が『ヴァ』ではなく『バ』なので決して間違えないように。


 一応そこそこ偉い貴族の子弟として産まれているので、不敬だなんだとなって下手すると物理的に首が飛びかねない。気をつけるように。



 閑話休題(話をよく脱線させるのは癖なのか悪意なのか@編)。



 まああれだ。前世の世界で物語として使い古された設定のような話だが、異世界から転生してきた人間なのだ。私は。


 とりあえずは別に信じなくていい。私はその前提で話を進めるので、自分のことを転生者と思い込んだ精神異常者の手記としてでも読んでくれ。


***


 タイトルでなんとなく察しはつくだろうが、これは前世でただの小市民だった私が、何故か神々の使徒として選ばれ、あらゆる加護(私はチートといっている)を与えられ、まるで物語の主人公のような二度目の生を送ることになる。その自伝である。


 うむ。今世の幼馴染が書籍出版業を始めた流れに巻き込まれるように、私は半ば無理や(要検閲のため内容保留@編)


……


 うむ。冷静になって考えてみれば、今みたく罵詈雑言不平不満を丁寧に一生懸命こねてこねて数十行書いてもおそらく、「編集推敲という名の言論統制」をうけることは想像に難くない。


 この有り余るパッションを数時間かけて不平不満という形で文に起こしてみたがまるっきり無駄な時間だったというわけだ。悔しい。


 このとこしえの牢獄、無限に思える「おつとめ」。執筆締め切りという名の理不尽な苦役を課せられ、やっとそれを果たしたかと思えば序文を書けと。これじゃあ文句の一つも言いたくなる。なるだろ?


 私が自伝を書くなど向いていない人間であると、我が幼馴染兼担当編集もハナからわかっているだろうに。



 とりあえず私の性格やら文体やらのめんどくささは、なんとなく今までの文章でわかっていただけただろうか。


 はっきり言って私筆者は全く物書きとしての才能も信頼もない。

 とりあえず一冊書かされて、諦念とともにある程度の「慣れ」は体得したが、こうやって思い付いた駄文をくだをまくように書き連ねるしか脳がないのだ。



 だが安心して欲しい。この自伝の編集担当者は私の幼馴染であり、私のこの少々やっかいな性格は重々承知している。


 まあ、ある意味唯一、真の理解者であるといっても過言ではないだろう。


 だからと言って別に私の為を思ったアドバイスとか、締切に追い詰められ精神を病んだ人間に対する慰めの言葉とか、一切貰った覚えがないのだが。



 今から言うのはもちろん皮肉だが、良い経験をさせて貰ったよ。


 2度目の人生だからと言って新たな教訓を得られる機会は幾らでもあるんだことを実感させられる。


 今回身に染みたのは物書きと編集者は戦友ではないということだ。どちらかと言えば奴隷とそれに鞭打ち従順と恭順を強制する奴隷商人のように残忍で(真実とは異なる表現が散見されたため要検閲@編)


…………


 うむ。無駄な時間とわかっていてもエキサイトしてしまうのは悪い癖だな。


 しかしこの殴り書きした不平不満阿鼻叫喚を、実に多大な労力をかけて編集という名の検閲作業をしているかと思うと……なんだか溜飲も下がってきた気がするな?ご苦労なことだ。

 検閲が面倒ならそのまま本にしてもらっても、私は一向に構わないぞ?


***


 なんの話だったか。ああそうだ。実はこの序文はこの自伝が完成された後に書かされているのだが、本文は少し特殊な構成をしている。


 私の自伝なのに私は本文を書いていないのだ。せっかく私の話が直接聞けると思った暇な物好き諸君には誠に申し訳なく思う。



 だがこの駄文を律儀にも読んでくれた諸君にはなんとなく理解の及ぶところであろうが、私に本文を書かせると脱線の連続に鼻につく文章と、まあ読めた物ではない。


 なんだったら書きなれてきた今と文体が全く違うと思うし、マジで面倒くさくて本文とか適当に書いた。文章として成り立っているかも怪しいのである。

 人生を通して、私の自己評価は正確だという自負がある。



 なので、本文はその場に登場した私以外の人物の話をまとめ、編集者が再編した文となっている。

 要は、他者の視点から私の行いや、それに対する感想なんかをまとめた物ということだ。


 一応私はその本文を読んで、「ああそんなこともあったな」と、そのあとに当時の思い出を綴っている。が、自伝だけ読みたい奴はそんなとこ読み飛ばして構わない。どうせくだらんことしか書いてないからな。本当に言いたいことは検閲にかかるしな。くそったれ。



 私は言いたい。こんな本をだれが面白がるだろうか。私は声を大にして言いたい。


 まあ神の使徒として、あるいはどこぞの英雄として名が売れた私の自伝は、ある程度大衆の興味を惹くだろう。


 しかしどうあがいても私の根っこはただの小市民で、だが何故か神々から加護と使命を与えられ、使徒となった。

 なんの才能もよい人格も前世の徳も何もないこの私がだ。


 なにか専門的な職に就いた経験も無く、知識も一般的かそれ以下。


 これが物語の世界なら誰が読者になる?どんな購買層を狙ってるんだ?こんな箸にも棒にもかからない話書くなんてばかじゃないのか?



 「なんで私なんだ!」って話を振るといつもアンニュイな笑顔で誤魔化す神々様もだ!選考基準くらい教えてくれても良いじゃないか!なんでこんな小市民選んだのか意味わかんなすぎてなんか不安なんだよ!テンプレートでしか会話できないのかよ!なーにが「選ばれし者よ」だよ!選んだのお前じゃねえのかよ!老○がよ!!



 しかもだ。この『登場人物の過去回想』という前提で読むと、回想している人間、文章を提供してくれた人物はつまり現在も生き残っているということだ。

 そしてこんなくだらない書籍に協力する程度には安定した暮らしを今現在しているということではないか!


 いや、いいことだよ。穏やかにあるいは幸せに暮らしているということは。とても素晴らしいよ。


 だがな、はじめから登場人物の生存が確定してる物語など面白くないだろう!もちろん死亡がわかっている物語もだ!ネタバレを食らった気分になる!自伝であり、ある意味歴史書なんだから良い?私は認めないぞ!せっかくなら面白おかしく書くべきだ!



 神様に選ばれた主人公がなんの取り柄もない小市民で、ある意味存在自体がネタバレな作品で、自伝なのに本人が駄文しか書けなくてというか本文書く権限すら持って無くて、出版社がクソ。


 まあつまりこんな書籍を読むことに費やす時間は本当に人生の浪費!無駄!思い直したなら本を閉じ、回れ右してまっすぐ返品しにいくように!リコールだ!クレームだ!みんなでこのくそったれ出版社を潰そう!




_____第一編集及び推敲担当 マイア・F・モズロー


 ※編集長より/検閲対象が多すぎるため、第二編集時にはこの文を元にした「それらしい」文章に、編集者の手によって全て新規作成の上、差し替えをすること。

 担当編集(及び新規文章作成担当者)は引き続きマイア・F・モズロー。

 第二編集及び推敲確認担当はサヴォエル・ガマとする。


→引継ぎ事項(編集長からマイアへ)

 この大仰でわざとらしい語り口と謎の「うむ」という口癖は編集者へ深刻な不快感を与えるため即刻止めさせるように。

 どうせ文章を書くことに慣れてきて文豪ぶって調子に乗っているだけなので遠慮なく殴って大丈夫です。


 なお、ヴァンダルム・バルフトゥム・ヴァイザル・ヴァルバス氏の希望されたタイトル「もしも神の司徒(チート)に選ばれたのが小市民だったら」は購買層の需要と大きく異なっている事が予想される。


 そのため、部署内会議で候補に挙がった「英雄ヴァンの足跡」「ヴァンダルム__神々の使徒、その誉れ高き伝説」「ヴァンダルム英雄伝説_彼と関わった者達が語る、本当にあった奇跡」の内、部署内投票で決定する。

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