第28話 幼馴染たちの想いで(委員長編)

 side:中野七海なかの ななみ


 今日は天ちゃんと約束をしており、西条家へお邪魔することになっている。

 先日伺った時は、翼くん、天ちゃんと再会を果たした記念すべき日であった。また「幼馴染同盟」が結成された記念日でもある。


(ほんの少しだけ、この同盟名に恥ずかしさを感じることがあるのは内緒)


 翼くんに会うのだからと、デートでもないのに気合を入れた。

 緩やかなワッフルワンピースで決め、手土産も持参。抜かりはない。


 西条家と七海の中野家は同じ西区なので、気楽に行き来ができるのも有難い。

 今度は翼くんを中野家に招待したいな、そう思いながら西条家へと向かっていた。

 その姿は、まるでデートに向かうかのように軽やかな足取りだった。



 ――――そして、西条家へ到着。



「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」

 出迎えてくれた翼くんへしっかり挨拶を交わす。


「ようこそ。散らかってますが、どうぞ。

 あ、友人の家に遊びに来ただけで、親へ挨拶しに来たわけじゃないんだから、もう少し気楽にしてくれていいよ」

 笑いながら翼くんが出迎えてくれる。


「天ちゃんは?翼くん」


「天はお茶の用意をしてるから、こっちで待っててくれるか?」

 そう言いながらリビングへと通される。


「いらっしゃい。七海さん」

 持参した手土産のお菓子と、紅茶を用意した天ちゃんがやってきた。


 それからしばらくは3人で会話が弾む、やはり今週いろいろとあったことが話題の中心である。

 翼くんは濃すぎる1週間で時間の間隔がおかしくなった。そう苦笑していた。

 彼に起こった激動のイベントの数々を知る者としては、笑って済ませていいのか?と思ってしまうけど。


「そういえば七海さんが、お兄ちゃんを好きと意識したのっていつ何ですか?」

 天ちゃんから爆弾がパスされてきた。


「本人を前にして恥ずかしいですよ」

 翼くんを見ながら、天ちゃんへ返す。これ罰ゲームじゃないですか、恥ずかしい。


「良かったら、教えてほしいな。俺、今までは楓しか見てこなかったから、みんなのこと知りたいな」

 翼くんが予想外の反応を示す。


「七海さんが聞かせてくれたら、天も披露しますよ」

 ……天ちゃんのお話か……気になる。


「では、翼くんに聞いてもらうのは恥ずかしいけど……」


 ――――そして、私は語る。あれは小学2年の時……


 翼くんと初めて同じクラスになったのは、小学2年の時だった。私は何故か幼稚園でも、小学生になってもまとめ役を期待される。

 幼稚園の時は、私がみんなをまとめると先生が褒めてくれた。それが嬉しくて進んでやっていた。


 小学生になって初めてクラス委員長を決める時には、何故か全員一致、担任さえも私を推した。

 私は不思議に思いながらも引き受けた。しかし、幼稚園とは違う。小学1年とはいえ委員長として仕事が任される。そして大抵クラスのみんなの協力がなければ負担が大きい。小学1年など遊びたい盛りだし、男子など言うことなんて聞きはしない。

 クラス副委員長に決まった男子は何もしない。協力してくれたのも女子だけ。私は子供ながらに男子に対して苦手意識が芽生えた。


 小学2年に上がった。

 そこでまたもクラス委員長に推薦される。

「大久保さんしかいないよね〜」

「1年の時も大久保だったし」

 その他大勢も私を推す。期待されてるならと引き受けた1年の時には安易に受けて失敗した。

 だから断った「やりたくありません」と。


 1年の時に私が苦労したのを知ってる女子たちは「しょうがないよね」と理解を示してくれる。

 だが、男子たちは「わがままだ」「みんなが言うんだからやれよ」など自分勝手なことばかり言われる。そして担任も黙って見守ったまま介入しない。

 私はキレた……男子全員敵だ!全員シメてやる!


 そんな時だ……

「うるせえ!野郎ども!

 グダグダ言うなら、おまえ等がやれよ!!」

 声を上げた男子がいた。

 声を上げて男子を威圧したのは西条翼くん。

 それが西条翼くんを、私が認識した初めての瞬間。そして私が恋に落ちた瞬間。


「……いや、いや、チョロすぎませんか?七海さん」

 黙って私の話を聞いていた天ちゃんがツッコんできた。


「え?何がチョロいの??」

 私は反論する。


「女が恋に落ちるのなんて一瞬ですよ。

 それが何か?

 それにまだまだ話は終わってません」


「あ、はい。……」

 天ちゃんは黙った。


「……」

 翼くんは居心地悪そうだ。


 ――――そして、私は再び語る。


「よし、俺が委員長やってやる。

 その代わり、おまえ等こき使ってやる!」

 翼くんは宣言した。男子たちは黙ってしまった。


「何勝手言ってんだよ、俺は手伝わ……」

 声を上げかけた男子に、翼くんは視線を向ける。


「黙れ!おまえに選択肢なんかねえ。

 文句しか言わねえおまえ等の代わりに俺が先頭に立ってやるんだ。

 それが気に入らねえならおまえがやれ。やらないならグダグダ抜かすんじゃねえ」

 翼くんに目を向けられた男子は黙り込む。


 かっこいい!私はまたも心を奪われた。

 大久保七海は、さらに恋に落ちた。



「……」

 ふと目を向けると天ちゃんがジト目だ。いちいち反応したら話が進まない。ここはスルーする。


「……」

 翼くんは顔を両手で覆っている。



 ――――そして、私は再び語る。


 ここで担任が口を開いた。

「西条、言い過ぎだぞ。少し横暴が過ぎないか?みんなに謝りなさい」


「謝る?何言ってるんですか?謝るなら先生が先に謝ってくださいよ。先生が放置したのを、俺が納めたんですから」


 先生が絶句している。

 クラスのみんなも絶句している。

 小学2年が担任に口答えしているうえに、謝れと言ってるのだ。七海ビックリです。

 ますます惚れた!


 ここで翼くんが担任に職員室に連行された。

 あまりの出来事にクラスは静寂に包まれたままだった。


 ――――そして、しばらくすると担任と翼くんが戻ってきた。


 担任はかなり疲れてるようだ。翼くんは平然としている。どうやら話はついたらしい。そして一方的に担任が翼くんを叱って終了とはなっていない。そんな感じがした。


 女子たちの一部は翼くんを少しチラチラ見てる子が増えた。……敵が増えた。そう思った。

 男子たちは目を伏せてる子が多い。たぶん悟ったのだ。西条翼くんはやばいヤツだと。


 結局、委員長は西条翼くん。副委員長に私、大久保七海が就くことになった。

 そして翼くんを中心にクラスはまとまった。男子は翼くんに一目置かざるを得ない。女子たちは翼くんかっこいいと支持され、私も副委員長として支えた。

 まるで夫婦のようだ。そう思った。


 翼くんは勉強も出来れば、運動も得意だ。そんな存在だからこそ目立つ。そして、翼くんはやる時はやる。男子たちも使った。それでも率先して自分がやる。だから周りもついてくる。

 私はどんどん夢中になる。だけど……私の初恋は唐突に終わる。


 久遠楓さん。別のクラスにいる翼くんの幼馴染。名前は知っていた。顔も見たことがあった。

 久遠さんがある時、下校時に翼くんを迎えに来た。そして見せつけるように手を繋ぎ、翼くんの見てないところで、的確に翼くんに好意を持つ女子だけに威圧を放った『これは私の男だと』

 そして翼くんの好きな女の子が楓さんなんだと、翼くんが楓さんに向ける笑顔で理解した。

 この時、私たちの初恋は終わった。


 翼くんへの初恋は心にしまおう。翼くんの恋も応援しよう。でも、友達として翼くんの側にはいたい。

 だから私は恋心を抑えた。友人として翼くんの側にいることを選んだのだ。


 楓さんは恋敵にならないと分かれば変なこともしない。あくまでも翼くんを女として独占したいだけ。友達付き合いくらいなら寛容だった。

 そして、私は翼くんの妹天ちゃんや、楓さんの妹紅葉ちゃんとも面識を得た。たまに翼くんを可愛がる茜さんを目にすることもあった。

 この幼馴染たちと一緒に過ごす日々がずっと続くそう思っていた。

 私の父を事故で亡くし、この街を去る日までは。



 ――――私は語り終えた。これが一度は終わった私の初恋の物語だ。



「小学2年かぁ……お兄ちゃんがいろいろ拗らせていた時だよね。紅葉と右手が〜とか、俺の右目が〜とか言ってたよね」

 天ちゃんが懐かしむように翼くんへ話を向ける。


「や、やめてくれ。天……お兄ちゃんのHPはゼロだよ」

 翼くんがずっと両手で顔を覆って悶えている。



 私は兄妹の話に触れないようにした。翼くんが何故か可哀想だったから。


 そして、私はあえて言わなかったことがある。

 私が翼くんに恋心を抱くきっかけ。それはクラスの空気をモノともせずに、担任すら何もしなかったあのクラスの空気を1人打ち破ってくれた翼くん。

 あの空気は私に委員長を強いる空気だった。それを打破してくれた翼くんが、私を救いに来てくれた白馬の王子様に思えたのだ。

 こんなこと恥ずかしいから言わないけど。



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 次回予告:妹のお話です

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