第36話 幼馴染たちと遊びに行こう(6)

 ……俺は言葉が出ない。


「ゴメンなさい。困らせたいわけじゃないんです。

 確かにお兄ちゃんは楓姉さんのこと好きだったと思いますよ。

 でも、その好きが本当にだったのだろうか?

 ちょっと気になってまして」


「……本当なら即答すべきなんだろうな

 俺は楓が好きだったと。いや、さっきまでなら即答してた気がする『恋愛の好き』だったと」


「さっきまで……ですか?」


「最初のきっかけは茜さんかな。抱きしめられて告白されて、茜さんにドキドキした。その感情が楓に対して抱いていた感情との違いがあるような気がしたんだ。

 最初は楓が特別な相手だったからと思った。でも、七海にも抱きしめられて、告白された時に茜さんの時と同じような気持ちになった」


「ようするに……茜さんや七海さんに感じたのって『性的』な感情じゃないです?

 抱きしめられたんでしょ?お兄ちゃん」


「まあ、それも間違いない。

 茜さんも七海も女性として魅力的だし、内面も含めて俺は好意を持ってる。

 でも、何か違和感を感じたんだ。

 うまく言葉にならないんだけど、楓に対しての好意って好きって言葉だけでは言い表せないような感情だった気がして」


「ようするに楓姉さんには『性的』な感情を覚えなかった?」


「いやそんなことはない。そうじゃないんだ。

 楓にキスしたい。楓を抱きたい。って、そんな願望も感情も確かにあったよ。

 俺もうまく言語化できないんだけどさ、楓に対しての感情には『恋愛の好き』以外の感情も交じっていた。しかもそっちの比重が多い。そう思った……自分でも何が言いたいのか分からないんだけど」


「……」


「……紅葉には何となく思うことがあって聞いてきたんだろ?」


「わたし、最近は家族について考える機会が増えましてね。

 それで少し考えていたことがありまして。

 わたしはお兄ちゃんが好きです。ぶっちゃけ抱かれてもいい好きなんで、恋愛感情なのは間違いないですよね。

 で、ふと思ったのです。わたしたちの年齢だと彼氏、彼女になりたい『好き』だと思うんです」


「俺は違う?」


「はい。この言葉を思いついてしっくりきたんです。

 お兄ちゃんの楓お姉ちゃんへの好きって『彼女にしたい好き』じゃなくて『家族にしたい好き』なんじゃないかって

 違い分かりますか?」


「……今日は茜さんにも七海にも、そして紅葉にも責められるな。

 『家族にしたい好き』か……なるほど。そうか、家族か。

 その言葉はしっくりきた感じがする」


「でしょ?ちょっと重いんですよ、お兄ちゃんの好きって。

 楓姉さんに嘘つかれて、義兄とのデート現場を見たのは、確かにショックなのは分かります。でもいきなり『絶縁』まではいかないと思うんです。

 普通なら楓姉さんの誕生日に弁明を聞いてそこでおしまい。この『嘘つきビッチめ!』とか言い放って、楓姉さんとはサヨナラ。でもお兄ちゃんは違った。

 過去の縁ごと断とうとしたのって、お兄ちゃんの本質が原因だと思うんです」


「何となく察することはできるけど、言ってみてくれ」


「お兄ちゃんの中では、楓姉さんって幼馴染の枠じゃなくて『初恋の家族?』のような枠だったんですよ。『彼女にしたい』をすっ飛ばして『嫁にしたい。家族になりたい』異性として意識していた家族?たぶんそんな意識が強かったように思います。

 初恋を終わらせることは『家族』を失うことに繋がる。だから家族を失う前に、いっそ過去の縁ごと断とうと思って『絶縁』したんですかね?

 たぶん、お兄ちゃんは『家族』を失うのが一番怖いんですね」


「……そう。きっと紅葉の言葉が合ってる。

 俺は初恋が終わることで、楓を家族を失うのが怖かったんだと思う。

 だから俺は、家族を失いたくなくて縁ごと消そうとした。

 家族と思っていた『初恋の幼馴染』が失われることに耐えられないから、あの夜も初恋を失うのが怖くて、先に縁を断って自分を守ろうとしたんだ。楓が俺から離れて行くのが耐えられない。話を聞いてしまえば楓の前からいなくなってしまう。

 それなら俺の方からと、あの時俺は逃げたんだよ」


 あの時のことを思い出すと、楓とあの男が腕を組み楽しそうに歩く姿が脳裏に蘇る……あれを見て俺は、楓が俺から離れて行くと思ったんだ。


「母さんを失った時のように、また家族を失いたくないから。

 そう言う意味では楓にも悪いことをしたな。あれは楓に非があったとは言え、完全に俺の都合で振り回したからな」


「……言いにくいことを、無理に言わせてゴメンなさい」

 紅葉が頭を下げ謝ってくれる。

 

 俺は紅葉の下がった頭を撫でながら、

「いや、構わない。この辺は自分でも認めないといけないところだしな。

 それにしても、何で俺にこんな話を?」


「はい。この話をしたのはわたしの都合です。

 はっきりしておかないとお兄ちゃんを攻略できないので」


「……よく分からないのだが?」


「楓姉さんに向けたような好意じゃなく、わたしを女として好きになってください。まずは恋愛から入りましょう。

 順番を『恋人になりたい』次に『家族になりたい』この順番に変えましょうね。付き合ったその先で、ちゃんとわたしは家族になるので。

 とりあえず最初から家族を意識しすぎるのは重すぎて、お兄ちゃんも疲れちゃいますよ。

 そんなんじゃいつまでも、初恋を引きずって恋愛に踏み出せないです」


「なるほど……俺のを正そうとしてくれたのか……

 母さんを亡くしてから家族がいなくなることに恐怖心があるのは自覚してる。

 だから俺は家族が欲しい。俺の根底にある願望が恋愛にも強く出てるんだろうな」


「そうだと思います。まずは恋愛の考え方を変えていきましょう。わたしだけじゃなく、茜さんも七海さんもまずは、彼女候補から入ってください。

 お嫁さんはその後にしましょう。お兄ちゃんそもそも結婚年齢じゃないんですから」


「紅葉の場合も楓の妹だったから、楓と同じように家族よりの意識が強めで接していたかもな」


「いま思えばそうなんでしょうね。でも子供の頃のわたしは、それをお兄ちゃんからの愛情として受け取って過ごしてきました。

 あれだけ愛情を向けられたら、楓姉さんもわたしも普通に惚れますって。わたしたちは普通に恋愛として受け取りますもの」


 紅葉はそこで止まらない。


「まあ、わたしがお兄ちゃんに惚れたのも、お兄ちゃんの深すぎる愛情ゆえになので、責任とってください。

 わたしを彼女にして、将来的にお嫁さんにしちゃえば楓姉さんも家族になるんです。お得ですよ?

 それにわたしの方がスタイルも間違いなく上。夜もご期待ください」


「ハハハ……まさか中三の紅葉にいいように言われる日が来るなんてなぁ」


「むぅ、わたしは立派な淑女ですよ。中三だからってバカにしないでください。

 そもそも身体は楓姉さんよりは、既に遥かにいいオンナですよ」


 何かおかしくなって俺はバカみたいに笑った。

 紅葉は怒っていた。笑ってもいるけど。


 正直、紅葉を異性として意識できるのかと思っていたけど、こんなに俺のことを想ってくれる素敵な女の子だったんだな。そう強く意識させられた。

 確かに俺は今日の紅葉に完敗した。でも負かしてくれて良かったとも思えた。


 茜さんにはドキドキさせられ、七海には泣かされ、紅葉には感心したあとに笑わされた。本当にみんな俺にはもったいない『いいオンナ』だ。



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 次回予告:見え隠れする謎の人物は?

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