第37話 幼馴染たちと遊びに行こう(7)

 side:三枝紅葉さえぐさ もみじ


 お兄ちゃんとバカみたいに笑いあった。

 これでお兄ちゃんも前に進めるといいな。それがわたし達全員の望みだ。


 

 いまお兄ちゃんはトイレに行っている。

 ちょっとだけ、お話にいくとしようか。

 あそこの怪しいストーカーさんに。


 わたしは男子トイレの前で、こっそりと出待ちをしている変態ストーカーに声をかける。


「ここに覗き魔がいますよー」


「!?」


 慌ててわたしの方へ振り向くストーカー。


「!?」


 慌てて顔を隠すストーカー。


「いや、もういいですから姉さん」


「クッ……ぐ、偶然ね、紅葉……こ、こんなところで奇遇ね……わ、私は偶然潮風に当たりたくなっただけよ。

 翼をつけ回していた訳じゃないわ」


「姉さん、勉強できるのに頭悪いこと言わないでくださいよ。

 そんなに気になるなら、最初から一緒に来ればいいでしょうに」


「……ぐ、偶然ね、紅葉……」


「いや、もういいから。それ」


「クッ……な、何故バレたのかしら……変装もしたし、こっそり後をつけていたのに……」


「姉さん、さっきお兄ちゃんと話をしていた時も、近くで聞き耳を立てていたでしょ?」


「!?…な、なんで!?」


「そんなクソ怪しい奴が近くをウロウロしてたら、こっちも警戒しますよ。

 途中で姉さんと気づきましたから、放っておきましたけどね。

 マリンワールドでもウロウロしてたでしょ?」


「……も、もしかして翼も気づいて……」


「いえ、お兄ちゃんは気づいてないですね」


「そ、そう。それは良かったわ」


「まあ、お兄ちゃんって悪意とか敵意を向けられると鋭いけど、それ以外には気を抜いてますもんね」


「……気になったのよ。だからつけ回しちゃった。あと……結構堪えるわね。翼が自分以外の女の子と楽しそうにしてるのを見るのは」


「ブーメランですね。そもそもドタキャンかまして、姉さんがお兄ちゃんの前でやらかしたのが原因ですよ?」


「分かってるわよ、だから文句を言うつもりはないわよ。翼だってフリーなんだし浮気してるわけじゃないもの。

 それに翼の気持ちもよくわかったわ。いま私が感じたどころじゃない苦痛だったはず。

 本当に私は何やってたんだろう……」


「で、さっきの話はどうでした?姉さんも聞いてたんでしょ?」


「……私も翼に対しては、当たり前のようにお嫁さんになるイメージがあったから、同じようなものだったのよね。私も翼を家族みたいに思ってたし。

 でも家族の重みが翼と違ったのよね、翼にとって家族は他の何よりも特別なもの。

 私はそれを裏切ってしまった。……だからこそ、やっぱり私がちゃんと責任を取るわ。そして翼の家族になる」


「あぁ、心配しなくても良さそうでしたね。

 さっきの話を聞いて、身を引くことも考えるかと思ったんですけどね。杞憂でした」


「なるほど、一応心配してくれたのね。

 でも、大丈夫よ。私はマイナスからのスタートだけど、だからこそもう一度翼の信頼を取り戻して、二度と裏切らない。ずっと、ずっと翼の側に居て家族になるわ」


「大丈夫そうなんで、そろそろ戻りますよ。

 お兄ちゃんには、わたしもトイレに行くとLIINEしてますけど、待たせちゃってますからね」


「分かったわ。私は引き続き翼の後をついて行くけど、気にしないでちょうだい」


「……姉さん。まだついて来る気ですか……ほどほどにしてくださいね」


 そして私はお兄ちゃんの元に戻った。

 お兄ちゃんは展望台から、のんびりと海を見ていた。


「お待たせしました!お兄ちゃん」


「あぁ、楓はもういいのか?」


「……え?」


「さっき周りをウロウロしてたの楓だろ?」


「……よ、よく分かりましたね。あの怪しいのが姉さんだと」


「楓は何となく分かるんだよ。

 とりあえず視界に入れば、どんな変装してても楓なら分かると思う」


「まあ、知らんぷりしといてあげてください。

 本人はバレてないと思ってるんで」


「楓もあんなにコソコソついて来るなら、最初から一緒に来れば良かったのにな」


「姉さんなりにやらかした責任を感じて遠慮したんでしょうね」


 お兄ちゃんと私はお互いに笑い合う。



 わたしたちは、みんなとの待ち合わせ場所へ2人乗り自転車で向かうことにした。

 自転車をこぎながら、お兄ちゃんといろいろ話をした。元々近い間柄のわたしとお兄ちゃんだったけど、さらに近づいた気がする。


 そして、お兄ちゃんのわたしへの接し方が、ちょっとだけ妹の扱いから、女の子として接してくれるようになった気がする。


 少し照れがあるお兄ちゃんが可愛い。これは勝ったかもしれない。



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 次回予告:妹ちゃんの出番です

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