第44話 幼馴染姉妹と継母(後編)

 side:三枝紅葉さえぐさ もみじ※偽名の大久保夏美を名乗っています。


 ふむ……美里さんの話を聞いて思ったことは、嘘ではないが全てではない。そんな感じだろうか。

 もちろんわたしは偽名を名乗っているのだから、深い話なんかできる訳がない。それは分かっている。


 わたしが美里さんともう少し話をしたいと思ったのは、何処で会ったことがある。または見かけたことがある。そんな気がしたのだ。

 あとは、わたしが知らない父の話を聞ければと思ってのことだった。


 今回話を聞いて一つだけ分かったことがある。たぶん父の離婚の事実を知る1人だと言うことは分かった。たぶん離婚後にずっと父を支えていたのが、美里さんなのだろう。

 ただ当然ながら楓姉さんの後輩を名乗ったわたしにこれ以上聞く術はない。この辺は楓姉さんが美里さんと距離を詰めてもらい、いずれ聞き出してもらうのが近道だろう。

 まあ、ぶっちゃけ気にはなるが、どうしても知りたい事実ではないのだ。わたしと母が父から捨てられた理由には興味があるが、ある程度時間が経ったいま、知りたい気持ちはあるが危ない橋を渡る必要性を感じなかった。


 楓姉さんを見ると、やはり気にはなるらしい。ソワソワしている。ちょっと不自然さが出てるので、フォローを入れるとしよう。本当に世話の焼ける姉である。


「美里さん、ありがとうございます。

 じゃあ何年も先輩のお父さん一筋なんですね?

 ずばり聞いちゃいますけど、離婚の話を聞いてどう思いました?」


「!?……ち、ちょっと、そんなこと聞いたら失礼でしょ!も……夏美」


 ちょいちょい本名言いそうになる姉だ。あなたが聞きたいんだろうに……


「フフ……いいわよ、気になるところでしょうからね。

 ……正直言うと、剛さんが離婚された後しばらくは恋愛どころじゃなかったのよ。

 かなりプライベートなことだから、これ以上は言えないけど。

 でも、離婚したからすぐに自分が剛さんと結ばれたいみたいな考えはなく、ただ彼を支えたい。そう思っていただけ。

 信じられないでしょうけど、憔悴した剛さんを見たら自分のことよりも彼が心配でね……だから、恋愛のことなんか頭から抜けていたの」


 彼女の言葉を聞いてそれが、本心なのが伝わってきた。

「いえ、すみません。失礼なこと聞いちゃいました」

 わたしは美里さんに頭を下げる。

 少なくとも姉のフォローにと、気軽に聞いて良い話題ではなかった。

 父が彼女を選んで再婚したのも、長い時間をかけて信頼している証なのだろう。


「いいのよ、気にしないで。

 でも夏美さん。あなたの反応……夏美さんもいま恋をしているでしょう?まだ成就はしていないみたいだけど、本気の恋愛をしている。違うかしら?」


「えっと……どうしてです?」


「やけに物分かりがいいから。

 だから私と同じような心情を理解できるから、私の言葉を信じてくれたと思ったの。

 だからあなたにも、とても大切な人がいると思ったのよ」


「まあ、ベタ惚れの相手はいますね〜

 わたしの勝ちは見えてるけど、なかなか手強いのですよ」


「いやいや、なんであなたの勝ちが見えてるのよ!そんなのわからないでしょう!!」

 楓姉さんが食いついてきた……お兄ちゃんのことが絡むと反応いい人だなホントに。


「……もしかして夏美さんの好きな人って、楓さんの好きな人と同じなの?

 でも、確か楓さんの好きな人って確か幼馴染の男の子じゃなかったかしら?

 ゴメンなさい。私は楓さんが振られちゃったと思っていたのだけど、どうなってるのかしら?」


「うっ……」

 楓姉さんが気まずそうに横を向いてしまった。


 楓姉さんの地雷に美里さんが踏み込んでしまったけど、これどうしたものだろうか。


「あぁ、これは聞いちゃいけないやつね、ゴメンなさいね?若い子の恋愛話に興味わいちゃって……」


「何かいろいろ話をさせてしまったし、ずっと心配かけちゃったし……えっと、私も少しだけ話をしますね」


「えっ!?本気ですか?楓ね…先輩!」

 危ない、危ない。わたしまで姉さんと言いそうになってしまった。


 そして……楓姉さんは語った。自分が『やらかしたエピソード』を美里さんに語ってしまった。

 流石に加担した義兄の名前など一部はボカしてはいるが、やらかしたことは十分に伝わってしまっただろう。


 話し終えた楓姉さんは疲れたようでグッタリしてる。たぶん自分で話をしていて自己嫌悪に陥っていると思われる。しかし、何度聞いても何やってんだろうと呆れてしまう。


「……えっと、楓さん。ほんの少しだけ、ちょっとだけ……その、バカなの?」


「はっきり言ってくれて、ありがとうございます!

 はい!私は大バカ女ですー」


 慌てて楓姉さんを慰める美里さん。

 最後は締まらない感じになったけど、一旦今日の女子会はこれでお開きだ。


 最初は父の浮気を疑っていたが、少なくとも相手が美里さんではない気がする。妻帯者と不義をするような女性には見えない。それに父の浮気の線は、わたしの中でかなり可能性が低いと思うようになっていた。

 美里さんを通して受けた父の印象が、浮気をして母を捨てた人物像と結びつかない。

 こうなると母が原因なのか?あまり考えたくない。できれば深入りしたくないのだこの話題に。


 一つだけ気になるのは、美里さんと初対面じゃないように感じた違和感の正体が分からずじまいであること。

 会話を交わせば分かるかも?と期待していたが結局この日の出会いでは、気づくことはなかった。



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