第43話 幼馴染姉妹と継母(前編)

 ※夏美=前話で紅葉が名乗った偽名です。


 side:久遠美里くおん みさと


 楓さん、そして夏美さんと一緒に公園近くのカフェに到着した。


 この春から楓さんと家族になったものの、最初は素っ気ない態度だった楓さん。少しずつ慣れてはくれたが私への興味はあまりないように感じていた。


 それが変わってきたのはここ1ヶ月くらいだろうか。楓さんは何かが吹っ切れたように、口調も態度も柔らかなものへと転じていた。

 以前は余裕のない感じがしていた。そして楓さんの雰囲気が柔らかな雰囲気になる直前はさらに態度がおかしかった。顔色は蒼白、さらに酷く泣き腫らしたような痕も見えた。


 私には詳しく話してはくれなかったが、家庭で私との会話も増えたし、歩み寄ってくれていることが分かった。だから私ももっと楓さんと家族として、仲良くなりたいと思っていた。

 そう言う意味では、今日楓さんと一緒に彼女の後輩の夏美さんを交えて話せる場を、もう少し距離を縮めるきっかけにしたかったのだ。


 幸い何故か夏美さんも私と積極的に話をしてくれるのは有難い。単純にコミュニケーション力に長けているだけかもしれないが、私には助かるアシストだった。


「わたし、美里さんのことをもっと知りたいです。

 いろいろ聞いてもいいですか?」

 夏美さんが私に問いかけてきた。


 私の方がいろいろ聞きたかったんだけど、楓さんに私のことを知ってもらういい機会かもしれない。


「えぇ、もちろん。何でもとはいかないけど、大丈夫よ?」


「ちょっと、も……夏美!あまり変なこと聞かないでよ?」

 楓さんが少し慌てている。私に気をつかってくれてるのだろうか?


「変なことは聞きませんよ、楓先輩?

 やっぱり女の子の話題と言えば『恋バナ』でしょ?」


「へ?恋バナ?私の?」

 こんな三十路の人妻に十代のJKとJCが何を聞きたいのだろうか?


「はい、美里さんと旦那さんの馴れ初めなんか聞きたいです!」

 夏美さんがすごい笑顔で聞いてくる。見れば楓さんも興味があるのかこちらを見ている。


 娘を前にして、自分と剛さんの馴れ初めを話すの?ちょっと恥ずかしいんだけど!?


「……私も興味あります。良ければ父との馴れ初めを聞きたいです」

 楓さんにも言われたんじゃ仕方ない。私のことを知ってもらう為にも少し恥ずかしいが、聞いてもらうとしよう。


「分かりました。ちょっと恥ずかしいけど、あれは私が大学3年の時……」

 そして私は語る。剛さんとの出会いから結婚に至るまでのことを。



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 千堂美里せんどう みさと、南西学院大学3年生の21歳。

 ミスキャンパスに選ばれる程度には整った容姿で、男性からの誘いもそれなりには受けてはいたが当時の私は全てを断っていた。

 私は恋をしていたから、実るはずがない恋を。相手は妻帯者で子供もいる男性だった。

 名を久遠剛くおん つよし教授。南西学院大学で教鞭をとる大学教授で、私が所属していた久遠ゼミ担当教授でもある男性。


 きっかけは些細なこと。校内でしつこい男性に絡まれていた私を助けてくれたこと、そして生徒として久遠教授に接していくにつれ、次第に惹かれていったのだ。

 同年代の男性と比較すれば当然ながら余裕のある態度、言葉遣い、男性にうんざりすることが多かった私にすれば心地の良い男性だったのだ。

 だが、これは実ってはいけない恋だ。何度か大学に訪れたこともある久遠教授の奥さんを見かける度に、自分の気持ちを戒めていた。



 ――――それからしばらく経ってからのことだ。久遠教授が離婚されたと聞いたのは。

 元気がなく、体調も悪そうだった。他意があった訳ではなかったが、何より好意を寄せていた男性が心配で何かと話かけたりするようにしていたが、別にこれで久遠教授との仲が急に進展した訳ではない。

 私はその後も大学院でへ進み久遠教授との縁が切れないままに少しずつ年数を経て親しくなっていった。


 プライベートで会う機会を持つようになったのは、大学院での修士課程を終えて大学を出てからだった。

 剛さんが大学を退職して起業した、大学生向けに専門的な知識を教える『家庭教師の派遣会社』の仕事を手伝うようになってからだ。

 元々バイトで高校生向けの家庭教師をしていた私は、大学で学んだ知識を活かして仕事の面から剛さんをサポートするようになっていた。

 教授と生徒の関係から、仕事での上司と部下、そしてそこから男女の関係になるまで剛さんが離婚してから5年が経過していた。

 そして正式にお付き合いを始めて1年が経過した時に、剛さんからプロポーズをされてこの春から私の名前は、千堂美里せんどう みさとから久遠美里くおん みさとへと名を変えて今に至る。



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「少し略したけれど、これが出会いから今に至るまでのお話。

 正直、大したことはなかったでしょう?」


 全てを語った訳ではない。例えば剛さんが離婚に至った経緯などはこの場で話せる内容ではない。私に非があった訳ではないと思っている。ただ離婚に至る原因には私も関係がある以上、ここで楓さんに聞かせていい内容ではないと思うのだ。

 もし話す時が来るとすれば剛さんを交えてになるだろう。

 真実を知れば楓さんからは嫌われるかもしれない。離婚した元奥さんにしてみれば私は憎悪の対象かもしれない。

 でもこれだけは言える。元奥さんに会うことがあればはっきりと言い切ることができる。

 剛さんを裏切ったのはだと。



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 次回予告:紅葉視点で続きます

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