第45話 幼馴染お姉さんと稽古

「……あ、あの茜さん……」

 俺はいま茜さんに組み伏せられている。


「な、なんだ?どうかしたか?」

 真っ赤な顔した茜さんが俺に答える。


「えっと、あ、当たってますよ?」

 そう、俺の顔に茜さんの豊かな胸が押し付けられている。……り、理性が吹き飛びそうである。


「あ、あ、あ、当てていると言ったら……ど、どうする?」


「えっと、俺の理性が飛びそうなんですが……」


「さ、参考までに、き、聞いておく。お、おまえの理性が飛んだら、わ、私はどうなってしまうんだろうか?」


「……お、押し倒して、胸を直に……」


「お、押し倒して、む、胸をじ、直にだと!?」


「まあ、茜さんには敵わないので、欲情しても俺が締められて終わりですけど」


「……わ、私は、おまえが望むなら、さ、最後まで受け入れてしまう……ぞ?」


「「いい加減にしなさい!!2人とも!!」」

 ここで天、そして楓の怒声が道場に響き渡る。


 

 俺、天、楓の3人は茜さんの家である南雲柔術道場なぐもじゅうじゅつどうじょうにやって来ていた。

 茜さんの母である南雲叶なぐも かなえさんが師範を務めている道場で、今日は稽古への参加が目的である。心機一転を図るにあたり、身も心も引き締めようと思って茜さんの道場にお邪魔したのだ。


 最初は俺1人でお邪魔する予定が、何故か天とまさかの楓まで一緒に来ていた。


「ほら予想通り。この2人だけにしてたら、神聖な道場で何をするつもりだったのやら?」


「本当に天ちゃんの予想通りだったわね。茜さんがまさか色気に頼る人だったなんて……」


 どうも2人が一緒に来たのは、俺への監視目的だったようだ。

 今日茜さんの家に行くことを天に伝えると、すぐに一緒に行くと言いだしたのだが、当日茜さんの家に着くと家の前には楓も待っていた。聞けば天から話を聞いて駆けつけたそうだ。俺はてっきり皆も稽古に来たかったのかと思っていたのに。


「何のことだ?私たちは稽古をしていただけだ。変な邪推はしないでもらおうか」

 形の良い胸を張り、茜さんが2人に向き合っている。


「いやいや、茜お姉ちゃん無理あるでしょ?当ててるとか言ってたでしょ!」


「翼もデレデレしすぎでしょ!本当に男は胸ばっかり……」


 茜さんと天が楓の胸を見ている。俺ももちろん見ているが……


「なんで皆、私の胸を見てるの!?私は小さくないわよ!」

 楓の名誉の為に言っておくが、楓は貧乳ではなく、年相応の大きさでスタイルはむしろ良いほうだろう。単純に周りの美少女たちのスタイルが群を抜いて良いだけ。

 特に紅葉と七海は目立つ、そして茜さんや天も大きい。楓だけは可もなく不可もなくなので、逆に目立ってしまうだけなのだ。


「ちょっと翼、あなた失礼なこと考えてるでしょう?」


 こんなやりとりをしつつ、この後も久しぶりに稽古をつけてもらった。

 俺はたまにこんな感じで稽古をつけてもらいに茜さんの元をしばしば訪れていた。楓も昔は俺に付き合ってたまに一緒に来ることもあったが、稽古に参加するのは1年ぶりくらいだろうか。

 楓も茜さんと稽古しているが、軽くいなされて転がされていた。鈍ってしまった俺や楓では2人一緒に挑んでも軽く茜さんに捻られている。

 でも、それが良い。今日は自分を鍛えに来たのだから。


 誤解のないように言っておくが、俺は純粋な気持ちで稽古に来ている。今の時間も道場を使用しない時間だけ特別に、茜さんの母親であり師範でもある南雲叶なぐも かなえさんの計らいで使わせてもらっている。

 ちなみに俺は叶さんには逆らえない。子供の頃から逆らってはいけないリスト筆頭の人だからだ。嫌いな訳ではなく、むしろ大好きな人である。


 そしていま目の前にいるのが、高校生の子供がいるとは思えない若さの人妻である南雲叶なぐも かなえさん、その人である。ちなみに年齢は非公開らしい。


「翼くん、久しぶりに稽古した感想はどうだったかしら?」


「叶さん、今日はありがとうございました。しかし、だいぶ鈍ってますね」


「まあ、ちゃんと稽古続けないとどんな達人でも鈍るわよ。今度は私が稽古をつけてあげるわ」


「……ハハハ、お、お手柔らかにお願いします。叶さん」


「ところで、いつ頃うちの茜を貰ってくれるのかしら?」


「へ?」


「お、お母さん、何を言ってるんだ!?」


「ん?だって翼くんと楓ちゃん別れちゃってるでしょ?」


「わ、別れてません!そもそも付き合う前に振られただけです!」


「(ちょっと、茜姉さん。どこまで叶さんに話をしたんです?ずいぶん事情に詳しいみたいだけど)」


「(い、いや何も話はしていない。何でお母さんが知ってるのか逆に聞きたいぐらいだ)」


 小声でコソコソと天と茜さんが会話を交わすが……叶さんには聞こえていたようだ。


「茜には何も聞いてないわよ?でもあなた達を見てれば分かるわ。

 だって翼くんったら、茜のことをちゃんと異性として意識してくれてるじゃない。以前までは女の子扱いはしても、異性として意識してたのは楓ちゃんだけだったでしょ?

 それがずいぶんと翼くんの様子が変わってたから、茜の恋もついに実るのかも?って期待しちゃったのよ」


「えっと、お母さん……わ、私が翼のこと好きなのを何で知ってるんだ?」


「何言ってるのよ、翼くんにだけいつも乙女な表情や仕草しといて。茜、あなたバレてないとでも?」


「……」

 茜さんが顔を真っ赤にして照れてる。親に恋愛ごとバレるのは照れるよなぁ


「翼くん見てればいろいろ大変そうだけど、茜しっかり頑張りなさいな」


 茜さんはずっと恥ずかしくて、両手で顔を隠していた。俺はそんな茜さんを可愛らしいなとずっと眺めていた。

 天と楓がジト目でこちらを見ていたが、気づかないフリをしていた。



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