第48話 幼馴染委員長の抜け駆け(後編)
俺は松岡さんとペアを組むことになった。
俺も茂のアシストをしたかったのだが……いや、考え方を変えよう。
同じゲーム好きとして、一緒に遊んでる時に好みとか茂にとって有意義な情報を引き出してみよう。
それぞれペアになった人同士で、お化け屋敷体験型のVRゲームに挑むことになっている。
このゲームは、身体を固定されたイスに座り、手元のコントローラーを操作して2人で協力して進むタイプのVRアトラクションだ。『本当に襲われる!VRが切り拓くかつてない恐怖体験!』がコンセプトだ。
友達と一緒に協力しながら進んでいき、呪われた廃病院から脱出するのが目的で、さきほどペアが決まった「大地と長瀬さん」「茂と七海」そして「俺と松岡さん」の3組がそれぞれ挑戦する。
「いやぁ楽しみだねぇ~西条くん」
ゲーム好きの松岡さんは楽しみのようで、テンションが高い。俺もゲームは好きだが、VRお化け屋敷ということで少しだけドキドキしている。
「結構難しいみたいだけど、クリアしような!」
「うんうん、頑張ろう~
そうだ、せっかく2人きりなんで恋バナしながらゲームしようか?」
「ホラーゲームしながら恋バナかい?」
茂の為には恋バナに乗っておくべきなんだけど……こんなホラー体験しながら話すネタだろうか?
「私も乙女なわけじゃない?恋バナとかしたいわけよ?恋愛にまみれている翼くんとさ」
「ま、まあ、たいした話はできないけど、でも恋バナって何話せばいいんだろ?」
「大丈夫、大丈夫〜恋バナって言っても私がいろいろ聞きたいだけだしね〜」
「はぁ、でもゲームしながら話するの?」
「そりゃそうでしょ?ゲームそっちのけで恋バナだけなんてつまんないじゃん。
ゲーマーはゲームしてこそでしょ?」
「まあ、そりゃそうだね。……うわっ!?」
俺達はVRゲームをやりながら会話をしている。
「うわ!?グロっ!……で、西条くんって結局誰が本命よ?」
「え!?このタイミングでそれ聞くの?」
「いや、聞くでしょ?で、どうなの〜西条くん?」
「本命と言われてもなぁ……それが分かれば俺も苦労しないんだよ」
「七海っちも勝機あり?」
「七海のことは……そうだな、惹かれてるのは確かだけど。七海だけって訳じゃなくてな。
あまり褒められたことじゃないけど、七海、茜さん、あとは、紅葉…あ、楓の妹な。それに血の繋がらない妹の天も。皆に惹かれてる自覚がある」
「もしかして皆キープしちゃう的な?」
「それはないよ。ちゃんと一人に告白しようと思ってる。彼女達の誠意に背くようなことはしない」
「まあ、西条くんは何股もするようなタイプには見えないもんね。もちろん私の推しは七海っちだよ!
あ、そういえば妹さんもちゃんと女の子として見てるんだね?血が繋がらないとはいえ」
「まあ、天は特別なんだよ。
楓との一件の時は、俺より怒っていたぐらいだ。今だって完全には許してはないと思う。天はいつも俺のことを考えてくれてる。俺に全力で愛情をくれるんだよ。俺も妹として家族として全力で愛情に応えてきたと思うけど、天には敵わないかな。
あれだけ愛情を向けられたらさ、妹とはいえ血が繋がらない女の子に感情が動かされちゃうよ」
「予想よりも熱い気持ちを聞いちゃったよ……そういえば久遠さんはやっぱり無理そう?
あ、西条くんどっち行く?私は右行くよ?」
「あ、うん。じゃあ左行くよ。
しかし松岡さんゲームしながら、ちゃんと恋バナ続けられるんだね……まあ、いいか。
楓のことだよね?正直、楓のことは分からないんだよ。まだ完全に許せているか、好きなのか、嫌いなのか……何かいろいろな感情が混ざってるんだ」
「あ〜そんなに簡単にはいかないよね。
久遠さんの暴露強烈だったしね、それにずっと初恋してた相手だしそれは仕方ないんじゃない?」
「楓に関しては急いでも結論は出ないからね、これからも考えてみるよ」
「そういえば七海っちの事って、ぶっちゃけどれくらい気になる感じなの?
やっぱり七海っちは友達だからね、私も一番気になるんですよ」
「さっきも言ったけど、惹かれてるよ。
ある意味七海には一番感情を動かされたかもしれないな。優しいだけじゃなく、ちゃんと俺を見てくれてる素敵な女の子だしね。
実は……みんなには内緒だけど、容姿は一番好きだよ。内面も素敵だし、七海1人だけのことを考えられるなら、何も迷う必要はないくらいだよ」
「くはぁ〜恋愛処女の私には甘すぎて辛いわぁ」
「いや、松岡さんが恋バナしようって言ったんじゃん」
「へへへ、そうでした。
あ、私捕まっちゃった。西条くん、よろしく〜
そういえば、かなりぶっちゃけてくれたけど、私にこんなに話をして良かったの?」
「俺も誰かに聞いて欲しかったのかも。当事者には話にくい内容だしね。
それに松岡さんは興味本位じゃなく、七海のことを心配して、俺がどんな男なのか知ろうとして恋バナに誘導したと思ったんだけど?
あと、いま救出に向かってるよ」
「もう、あまり鋭いのも可愛げないわよ?
七海っちにも探り入れてあげるから、ペア変えようって話を持ち掛けたんだしね」
いろいろ話はできたけど、そういえば松岡さんのことは聞けてないな。
「そういえば松岡さん、俺からも聞いていい?」
「ん?何んでもいいよ〜
聞いて、聞いて」
「松岡さんの好みってどんなタイプ?」
「おっと!?まさかの私まで西条ハーレムルート入りか!でも残念!私は年下好きなの。中学生以上はお断りよ。私を口説きたければ10才若返ってきなさい」
「(やべえ、ショタコンだった!茂すまん……無理そうだ)」
「「あ!」」
ゲームオーバー。動揺したのか、今回は失敗してしまった。
いまVRゴーグルの映像の中では、俺と松岡さんが凄惨な姿になっている。流石はVR、臨場感が違う。
当然ながら俺も松岡さんもゴーグルにヘッドフォンをしており、一時的に外界の情報がシャットアウトされている。
そしてそれは唐突に起こった。
気のせいか、少しざわついた気がした。
そして、VRで遮断された視覚と聴覚の中で柔らかな、とても柔らかな感触が俺を襲った。
「!?」
慌てて、VRゴーグルを取り外した俺が見たのは、俺の唇を奪いキスしている七海の美しい顔だった。
――――その後の顛末。
七海は怒られた。お店のスタッフさんに店長さんからも。無理矢理俺達の部屋に押し入り、ゴーグルをつけた俺の唇を強引に奪ったのだ。
何故七海がこんな暴挙に出たのか。それは些細な勘違いから始まる。
七海は勘違いしてしまった。俺と松岡さんの仲を。俺と松岡さんがゲーム話で盛り上がって仲良さそうにしてることが、いい雰囲気に見えてしまっていた。
ファミレスで俺が松岡さんによく話しかけていたところから、誤解が始まっていたらしい。
そして、実は俺と松岡さんが話をしていた恋バナは、七海に筒抜けだったらしい。
松岡さんがスマホのスピーカーモードで七海に会話を繋げたままにしていたそうで、七海はVRゲームをせずにそれをずっと聞いていた。
元々俺からの話を聞き出す名目だったので、これは予定通りの行動だったとのこと。途中までは七海も気分良く聞いていたらしい。
七海が一変したのは、俺の一言。
「松岡さんの好みってどんなタイプ?」
この一言で七海の『俺×松岡さん』疑惑が確信に変わった。
それ以降の俺と松岡さんの会話を聞いていないので、俺が松岡さんに気があるのではないか?と思い込んでしまったらしい。
それがあの暴走を引き起こした。
部屋に押し入り、俺の唇を奪って松岡さんへの宣戦布告とした。
これが七海の暴走の一部始終である。
こうして俺は『ファーストキス』を七海に奪われたのだ。
「本当に、申し訳ありませんでした」
七海は何度も何度も謝っている。
「大丈夫、大丈夫。怒ってないから」
松岡さん、長瀬さん、大地はずっとゲラゲラ笑っていた。
茂は松岡さんの好みを聞いてシクシク泣いていた。
こうして騒がしく楽しい、一生の思い出に残る休日は幕を閉じた。
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