第11話 初恋の幼馴染と向き合う覚悟

 早退し、何となくボンヤリとリビングのソファで座りつつ考える。天はまだ学校だから、俺だけが平日の午後に家にいる不思議な感覚である。


 今日は忘れられない1日になるだろう。

 突然疎遠になっていた幼馴染たちと、を果たしたのだ。


 昨日、ずっと一緒にいると信じていた「幼馴染の久遠楓」と、幼馴染を解消して絶縁してしまった。

 その翌日からの怒涛の展開に正直戸惑っているが、素直に嬉しいとも思う。

 子供の頃に、突然縁の切れてしまった七海や紅葉とも、再び縁を持つことができた。あの2人も俺には大切な幼馴染なのだ。


 だけど、1人になるとやはり考えてしまうのは、久遠楓のことである。

 楓への感情がまだ整理できない。好きか?と問われれば……間違いなく、まだ好きなのだろう。

 でも、楓がした『嘘をついてまで、先約の俺より別の男を優先した』事実はなくならない。例えどんな理由があったとしても、楓にとって俺は、『誕生日に一緒に過ごす相手』として、優先されなかったことだけは覆らない。それが悔しい。そして腹立たしいのだ。


 幼馴染を解消して、絶縁する。我ながら意味不明な行動ではある。それは分かっているが、楓とに、そしてにも距離を取りたかったのだ。楓が。なんで?その真実を知るのが怖くて、俺は逃げたのだ。

 我ながら情けないのだが、昨日の俺は事実を知ることが耐えられなかった。楓を傷つけたい訳ではない。でも、まだ整理がつかないのだ……


 やむにやまれぬ事情があった。楓にはどうしても、他の男と会うことを優先せざるを得なかったとする。

 その相手のことは、好きでもない。まして彼氏でもない。それでも、会わなくてはならない事情があった。

 いま考えたのは、俺に都合の良い理由だ。無理にでも納得させようと、俺の願望に近いような理由を勝手に想像しただけ。

 例えそうだったとしても、今まで通りの関係に戻れるのか?また初恋の女の子として、俺は彼女に好意を向け続けることができるのか?


 ……俺は見てしまった。

 楓が見知らぬ男と、腕を組みながら歩いていく、楽しそうな姿を。

 俺に嘘をつき、ましてや当日のドタキャンだ。

 相手の男と急に会うことになり、当日にドタキャンされた?

 もしくは、前から約束があってダブルブッキングしていた?

 それで、最終的には俺が、選ばれなかったのか?


 分からない、分からない。考えても、考えても分からない。


 どちらにしろ、俺が楓から裏切られたと感じたこの気持ちを、うまく処理できるとは思えない。この気持ちを押し殺して、楓に好意を持ち続けることができるのか?……できないだろう。


 昨晩からずっと1人になると、この問答を答えが出ないままに考え続けるだけ。

 当然だろう、俺だけでは答えがでないのだから。楓から答えを得て、真実を聞いたら、ようやく決着はつくのだろう。でも、きっとそれは、楓との今までの関係が終わる決定的な別離わかれを意味する。


 たぶん謝られ、許したとして幼馴染には戻れても、初恋の幼馴染、大好きな幼馴染として、俺の気持ちも関係も戻ることはないだろう。俺の中で漠然とではあるが、答えが出てしまっているのだ。それを認めたくないだけなのだ。

 それを現実にしてしまう覚悟がまだないから、逃げている。俺の初恋を終わらせる覚悟をまだ持てないのだ。


 ――――今日は本当に幼馴染たちに救われていた。一人では落ち込んでいたはずだ。みんながいるから、カラ元気とはいえ、普段のような学校生活が送れたのだ。


 俺の気持ちの全てを知る「天は優しい」

 昔と変わらぬ優しさで包んでくれる「茜さんも優しい」

 久しぶりの再会でも、絆は変わっていなかった「七海も優しい」

 突然の再会でも、変わらぬ親愛を向けてくれた「紅葉も優しい」

 俺は幼馴染の「優しさ」に救われていたのだ。いつまでもウジウジしていては、彼女たちに合わせる顔がない。いつまでも逃げるだけのチキン野郎では終われない。


 ……向き合え。楓と向き合って、今までの関係に終止符を打ち、新しく一歩進むために覚悟を決めろ!西条翼さいじょう つばさ

 ……でも、もう少しだけ、もう少しだけ時間が欲しいのだ。(我ながらヘタレだ!)


 さて、そろそろウジウジと考えてる時間も終わりにしよう。こんなところを天に見られてしまったら、また心配をかけてしまう。

 昨日から過剰なくらい俺を甘やかしにきてるので、だいぶ気を使わせているのだろうから……



 ――――鍵を開ける音がして、誰かが玄関から入ってくる気配がする。

 鍵を持っているのは天なので、天が帰ってきたのだろう。


 さあ、1人で悩む時間は終わりだ。元気に出迎えてやろう……

 俺は立ち上がり、リビングから玄関フロアに続くドアを開ける……


「天、おかえり」

 玄関へと顔を出す。


「「お兄ちゃん、ただいま!」」


 あ、あれ??天と一緒にが一緒にいる……あれ?なんで??






  ――――いまリビングには俺にそら、そして紅葉もみじがいる。


「いやぁ~懐かしいなぁ、このお家」

 リビングを紅葉がキョロキョロと見渡している。

 紅葉がこの家に来るのは実に10年ぶりである。


「紅葉までいるなんて驚いたぞ。確かに家には誘ったけど、今日来るとは思わなかったよ」

 天が入れてくれたお茶を飲みながら、紅葉に話しかける。


「紅葉が待ち伏せしてたんですよ、校門前で。

 最初は誰かと思ったら、お兄ちゃんと事故った中等部の子で、さらに天お姉ちゃんとか呼ぶから、最初はかなり混乱しましたけどね」

 天は俺の横にピッタリと寄り添いながら、紅葉を指し示す。


「うぅ、待ち伏せって。その言い方はちょっと……

 まあ、待ち伏せしてましたけどね、天お姉ちゃんにも会いたかったんですもん……ほら?将来的にはわたしの義妹いもうとになるかもですし、挨拶をと……」

 顔を赤らめながら、俺を見ながら何か言ってるな


「あぁん!!!!」

 天から、ありえない低い声の威嚇音が……こえぇ


「……まあ、紅葉もよく来たな。歓迎するよ。

 でもさ、紅葉は家の場所を知ってるんだから、こちらに引っ越した時に、すぐ会いに来れたんじゃないのか?」


「来たかったんですけどね……

 ほら?お兄ちゃんには少しだけ話をしましたけど、楓お姉ちゃんと鉢合わせするリスクが高いので、そこは遠慮してたんですよ」


(そういえば……複雑な事情ありそうだしな)



 ――――それから何とか機嫌を直した天と、紅葉と俺の3人で、久しぶりの再会を喜びあった。そして、30分ほど経った頃だ。


 来客を告げるインターフォンの音がリビングに響く……


「ん?また、誰か来たかな?」

 玄関へと向かおうとすると


「お兄ちゃん、天が出るので座ってていいですよ」

 素早く天が、玄関へと向かう。



 ……この後に起こったこと。

 これが俺にとって、人生の転機となった。



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 次回予告:妹の企みが明らかに!?

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