第12話 幼馴染同盟

 side:西条天さいじょう そら


(……お姉ちゃんかな?七海さんかな?)


 ドアホンを見てみると、カメラに映し出されるのは美人のアップ


(あぁ、お姉ちゃんだった……)


「いま開けますね、お姉ちゃん」

 そして、玄関へと向かいドアを開ける。


「天!翼は大丈夫か!!!!」

 慌てた様子のお姉ちゃんが、飛び込んできた。


「お、お姉ちゃん、大丈夫だから落ち着いて」

 生徒会長とは思えないくらい取り乱している南雲茜なぐも あかね


(学校から走ってきたのね、お姉ちゃん……)


「あの、天ちゃん?」

 あれ?お姉ちゃんの後に、七海さんも居た。


「七海さんも一緒だったんですか?」

 そこには、私服に着替えた中野七海なかの ななみさんの姿があった。


「うん、そこで生徒会長に会ってね。

 それで聞いたら、子供の頃に何度か会ったお姉ちゃんだって知ってね、本当にビックリしたよ」

 七海さんも驚いたようだ。そりゃそうだろう、子供の頃に会った懐かしい面々が、勢揃いしているのだから。だけど、これでメンツが揃ったようだ。

(また増えるかもしれないけど、一旦はこのメンバーで話を進めよう)


「お姉ちゃん、七海さんも、どうぞ入ってください」

 お姉ちゃんと七海さんを招き入れる。


「あぁ、失礼する」

「お邪魔します」

 2人が入ってくるので、一旦2階へ行ってもらうとしようか。


「2人とも少しお話があります。お兄ちゃんに会う前に少し話しませんか?」


「ん?」

「?」

 2人とも不思議な顔をしてるが、話はあとだ。

 強引に2階に連れて行き、天の部屋で待っていてもらう。


「ちょっとそのまま待っててください。あと1人ここに連れて来ますから」


「よく分からんが、待ってればいいんだな?」

「ここが天ちゃんの部屋なんですね」

 お姉ちゃんがベッドに腰掛け、七海さんは床に敷いた座布団に座って、部屋を見渡している。



 ――――そしてリビングに降りていく。


「天どうしたんだ?声が聞こえてたけど、茜さんか?」

 お兄ちゃんのところまで、聞こえていたようだ。


「うん、お姉ちゃんと、七海さんだよ」


「七海?どうしたんだ?みんな揃って?」

「おぉ、七海さんとお姉さん!」

 お兄ちゃんは知らなかったしね、紅葉は久しぶりの再会が嬉しそうだ。


「お兄ちゃんを心配して、みんな来てくれたんだよ」

「そうか、たいした怪我もなかったのに、みんなに心配をかけたな」


「それでね、ちょっと女同士だけの大切な話があるの。お兄ちゃん、少しだけ待っててくれる?

 紅葉、あなたは一緒に2階まで来てちょうだい」


「うん?分かった。俺はここでのんびりしてるよ」


「2階ですか?分かりました。お兄ちゃん、ちょっと行ってきます」

 紅葉を連れ出し、2階へと向かう。これで全員確保だ。



 ――――2階、天の部屋


「お待たせしました。……今日は皆さんに大切なお話があります」

 耳を傾けるみんなへと目を向けていく。

 お姉ちゃんと、七海さん、そして紅葉がこちらを見ている。


「皆さんも聞いている通り、昨日お兄ちゃんに重大な事件が起きました」


 ――――ここで天は、再度お兄ちゃんを襲った悲劇(お兄ちゃんにとって)、久遠楓の誕生日に起こった出来事をもう一度、みんなに話をしておく。



「むぅ、翼には聞いていたが……天からも聞くとな……」

「……楓姉さん……ホントに何がしたかったんでしょうね」

「えっ!……そんなことが……」

 お姉ちゃんや紅葉には、既に聞いていた話なのだろうが、七海さんは知らなかったのだろう。絶句している。


「お兄ちゃんは、きっとまだのことが好きです。でも、嘘をつかれた事実は、お兄ちゃん自身が現場を目撃してるので覆らない。

 その目で直接見てしまったのが、臆病になってる最大の原因です。幼馴染のあんな様子を、自分の目で見てしまった。だから、真実をはっきりさせてしまうことを、すごく怖がってるんですよ。

 『絶縁』とお兄ちゃんが呼んでいる行為も、いまは楓と距離を取って、自分の気持ちと向き合うのに時間が必要だったのでしょう。

 たぶん、お兄ちゃんは何処かのタイミングでもう一度、楓と話し合いを持つと思います。全てを明らかにして自分の恋愛に決着をつけるために」


 ここで一度、お姉ちゃん、七海さん、そして紅葉を見る。全員が息を飲み天の言葉に耳を傾けている。


「お兄ちゃんが考え抜いて、楓ともう一度話をして、これからも一緒にいることを選ぶ可能性もあるでしょう。

 でも、天はもう座して待つことは、止めようと思います。

 今まではあくまでも、お兄ちゃんと楓が相思相愛だからこそ、応援していたのです。お兄ちゃんのために」


 天の言葉に息を飲む3人


「久遠楓には、やむを得ない事情があったのかもしれない。でも、お兄ちゃんを傷つけた事実に変わりない。

 お兄ちゃん自身が考え抜いて、話を聞いたうえで、もう一度楓を選ぶなら仕方ない。

 でも、何もしないでお兄ちゃんを諦めるという選択肢は、もうなくなりました。

 天は攻めます。これからは攻め抜いてお兄ちゃんを、振り向かせることに決めました」


「「「……」」」

 全員が天の言葉を静かに聞いている。


「そこで確認します。ここにいる全員がお兄ちゃんを好きだ。合ってますよね?」


 全員が頷く。

 うん、お兄ちゃんは幸せ者だね。


「ここで、天は提案します。座して待つ期間は終わったのです。

 楓の選択でね。だからこそ、みなさん『わたしたちの恋愛を諦める』のをやめませんか?

 天はここに『幼馴染同盟おさななじみどうめい』の発足を宣言します!」


「「「!?」」」

 お姉ちゃんは目を見開く、七海さんは眼鏡が光っている、紅葉は口が開いたままだ。


「『幼馴染同盟おさななじみどうめい』について説明します。

 1.抜け駆けは上等である。でも誘惑して既成事実を先に作ろうとするのは禁止。それは付き合ってからにしましょう。

 2.誰がお兄ちゃんを射止めても恨みっこなし

 恋敵ライバルだけど、メンバーは大切な幼馴染であることを忘れないで、恋の戦いを始めましょう。」


 ここで全員を見渡す。天の言葉をみんなが静かに聞いている。


「まあ、恋愛にルールを設けるなんて、どうかとは思いますけど、ここにいる全員、お兄ちゃんの恋愛を応援する為に、いずれも身を引いた女の子です。

 それが立ち上がり一斉蜂起するのです。こんなルールで競うのも良いのではありませんか?」


「私は異存ない。もはや久遠に黙って翼を譲るなんて気は毛頭ないのだ」

 お姉ちゃんが立ち上がる。


「私もやります。天ちゃんのお話を聞いて、初恋を諦める気はなくなりました」

 七海さんも立ち上がる。


「わたしは最初から、抜け駆け上等でヤル気全開なんで、もちろん問題ありません」

 紅葉が両手に力を込めて勢いよく立ち上がる。


「では、『幼馴染同盟おさななじみどうめい』として、お兄ちゃんへ宣戦布告します。さあ、行きましょうか」



(天:お兄ちゃん……覚悟!)

(茜:翼、お姉ちゃんがおまえを貰ってやるからな)

(七海:色気は私が一番勝っているはず。そして翼くんも素敵なお嫁さんになれると言った。これは勝てるわ)

(紅葉:わたしの若さの前に皆ひれ伏すのです。楓姉さん……あなたの時代は終わったのですよ)


 さあ、始めましょう。わたしたちの戦いれんあいを!



  ―――――リビングで幼馴染同盟おさななじみどうめいからの宣戦布告を受けた西条翼さいじょう つばさは大混乱だった。

 でも、彼は泣いていた……

 自分がいかに周囲のみんなに支えられていたのか、想われていたのかを知ったから。


 そしてこれが、翼が真実を知る為に一歩を踏み出す。そのきっかけとなる。



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 次回予告:ついに、あの彼女が動き出す……

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