第54話 幼馴染と最低男⑤
時間は少し遡る。
学園も終わり、俺の家には
色々話がしたいとのことで、中等部終わりに俺の自宅まで来てもらったのだ。
紅葉からの話は、楓の父と再婚した
楓と会っているところに唐突な出会いをした為、咄嗟に偽名を語ってしまったこと。そして、先日訪れた義兄である
正直、楓と紅葉の家庭の事情には踏み込み難い。2人が困っているのならば手を差し伸べるのだが、力になれそうなことと言えば、精々相談に乗るぐらいのことしかできないのが歯がゆい。
しかし、しかしだ、紅葉の義兄である「三枝光一」と楓の継母である「久遠美里」の2人の関係性など、正直どうすれば良いものか困るのである。
俺は幼馴染の関係ではあるが、安易に踏み込める内容ではない。2人に切羽詰まった事情があれば無理してでも介入することは吝かではないが、この時の俺は対応を決め兼ねていた。
この場には、紅葉の他に妹の
そして、紅葉に「それとなく美里さんに探りを入れてみたらどうだろうか?」と紅葉に話をしていた時に、俺のスマホにLIINEが届く。相手は楓のようだ。
楓:「Bでお願い!」
LIINEの通知後に、そのまま楓から通話通知も来たので、俺はそれを受ける。
「翼お兄ちゃん、誰です?」
紅葉が俺の怪訝な表情を気にしたのか尋ねてくる。
「あぁ、楓からBでと連絡がきた……つまり接触したのか」
「Bって確か通話を聞きながら、状況次第では駆けつけて欲しいでしたっけ?」
天も自分のスマホを見ながらつぶやく。
「えっと、何の話ですか?2人とも」
紅葉が不思議そうに尋ねる。
「あぁ、紅葉は聞いてないか。心配かけないようにしたのかもしれないな……」
ここで俺は楓から相談されていたことを紅葉にも伝える。
事態は動いたのだ。妹である紅葉に黙っている必要はないはずだ。
「な、なるほど。楓姉さんにストーカーですか?
でも、そんな状況で姉さん一人になることないでしょうに。今日も一緒に来れば良かったのに……」
「そうなんだよな。だからしばらくは俺が一緒に下校時も付き添っていたんだ。
今日は紅葉も来るからと、楓にも声はかけたんだが、一人で下校したら動きがあるかもしれないからと、今日だけは一人で帰ると聞かなくてな」
「ちなみにAがGPSを頼りにすぐに助けに来て欲しい。Bが通話を聞きながら、状況次第では駆けつけるですね」
天も楓に相談されていた一人なので、状況は理解している。
いま通話が来てるのも、俺と天、楓の3人がいるグループ部屋でのグループ通話だ。
俺は通話を聞きながら、楓からの通話に耳を傾ける。
俺や天の声は楓のスマホから漏れてはいない。一方的に楓と相手の声だけを拾っている。そして、ここで相手の正体が判明する。
「相手は三枝光一……?このタイミングで……この名がでるのか」
正直、俺には因縁の相手とも言える。隙をみせた楓に非があるとはいえ、俺が相手の三枝光一にいい感情を持てないのは仕方ないだろう。
「三枝光一!?
「楓ちゃんの浮気相手か……」
この反応で天が未だに楓に対して、含むものがあるのが伺える。
「『小戸公園』に行くようだな……」
通話から聞こえてくる内容から、小戸公園で2人話をするつもりのようだ。
「天、録音はしてるか?
俺は今から公園に向かうから、もしもに備えてくれるか?」
「はい!お任せをお兄ちゃん」
「紅葉は…」
「一緒に行きます!もちろんね」
「ま、まあ、そうなるよな。じゃあ行こうか」
こうして紅葉と俺は駆けつけることになる。
もちろん通話を聴きながらで、途中からは紅葉もグループ通話に入れている。
会話を聴きながら向かっていると、少々不穏な会話を交わしてる。
よりによって公園の中でも特に
「クソっ、楓は勉強はできるのに、天然なのか?」
「お兄ちゃん、素直に言っていいですよ。バカなのかって」
「腕に覚えがあるからと、余裕ぶってると痛い目に合うぞ、楓……」
俺たちは急ぎ小戸公園内にある小戸神社へと向かった。
そして、俺達は目撃する。
――――目の前には楓を抱えながら、移動しようとする男。
ぐったりしている楓のその姿を見て俺は……
走っていた勢いのままに、その男「三枝光一」の背中を蹴りつけた。
「!!!!」
うめき声を上げながら吹き飛ぶ三枝光一。そして抱え込まれていた楓も一緒に地面に倒れこむ。
「あぁ!楓すまない!!!!」
つい頭に血が上り、楓まで巻き込んでしまった。
「すまん楓、あとで必ず埋め合わせする。紅葉っ!楓を確保しろっ!」
「はいっ!」
俺に遅れて到着した紅葉が状況を確認。倒れこむ三枝光一と楓の2人を確認する。
「な、紅葉だとっ!!!!」
三枝光一が紅葉を見て、さらに驚く。
「観念してください!光一義兄さん
ネタはあがってますよ」
「クソっ、このまま終われるかぁー」
三枝光一が手に持っていたスタンガンらしきモノを構え……
「動くなっ!!!!」
「「!!!」」
俺と紅葉は動きを止める。止めざるを得なくなった。
三枝光一が楓の顔にスタンガンを当てているのだ。
「う、動くなよぉ、こ、こいつの顔に傷はつけたくないだろ?」
動けない俺と紅葉。
いつもの勝気な瞳が、いまは不安げに揺らいでいる楓。
そして、ひきつった顔で勝ち誇る三枝光一。
「お、おまえらが、おまえらが悪いんだ。おまえ達のせいでこうなったんだ……」
その瞳に黒い感情を宿し、震えながら、三枝光一が笑っていた。
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