第55話 幼馴染と最低男⑥

 楓の顔に向けられるスタンガンと思わしきもの。

 三枝光一を抑えることは簡単だ。でも、今の状況では流石に動けない。


「クッククク、動くなよ、動いたらどうなっても知らんぞ?」

 ジリジリと楓を抱えながら、俺と紅葉と距離を取ろうとする三枝光一。


「なあ、やめておけよ。もうあんたは詰んでる。

 これで楓にもし何かあれば、おまえはもう取返しがつかないことになるぞ」


「光一義兄さん……いえ、義兄と呼ぶ必要もないですね……

 おいっ、光一!」


「な!?おまえ俺を呼び捨てに!!!」

 紅葉からの呼び捨てに、三枝光一は激高する。


(沸点の低い野郎だな、さて、どうしたものか……ん?)


「あっ!?」

 紅葉が思わず声が出そうになる。


「(紅葉)」

 俺は小声で紅葉に呼びかける。小さく頷く紅葉。意図は伝わったようだ。


「ん?何をコソコソしてやがるおまえ等ぁ!!!」

 スタンガンを楓に押し付け、俺達に怒鳴り散らす三枝光一。


「っ!!!」

 楓が思わず怯える。普段の勝気な表示はすっかり消えてしまっている。この状況では当然だろう。


「大丈夫だ、楓。俺を信じろ」

 俺の言葉に小さく頷く楓。さて、少し三枝光一の気をひかないといけない。


「なぁ、三枝さん。あんたに聞きたいことがある」


「なんだ?」

 胡乱げな目でこちらを見つつ警戒する素振りを見せている。


「いや、あんた結局、楓に何するつもりだったんだ?

 ほら?あんたの目的ってさ、久遠美里さん……いや、千堂美里さんを取り戻すことだろう?」


「!!!……クックク、おまえ分かってるじゃないか。

 美里さんの本当の名前で呼ぶとは、おまえ分かってるじゃないか」

 久遠美里さんへ執着してるからと、試しに旧姓で呼んでみたら予想以上に反応がいい。


「分かってるおまえに少しだけ話をしてやろう」

 気分がいいのか、得意気な様子で三枝光一が俺に語り掛けてくる。


「俺の目的は美里さんを解放すること。

 あの男から美里さんを取り戻すことだ。あの男が俺と美里さんの仲を引き裂いた。

 あの男が卑怯な手を使い、美里さんの人生をめちゃくちゃにしたに違いないんだ」


「(……えぇ、想像以上にこの人やばいんですけど……)」

 俺にしか聞こえない声で紅葉の呟きが聴こえる。

 まあ、俺も同感だが……こいつ、これでよく今まで逮捕されなかったな?


「久遠剛……あの卑劣な男とて、娘は大切だろう?

 娘に何かあれば、そう傷モノになると言えば美里さんを解放する。そう思わないか?」


「お、おまえ、まさか楓に乱暴する気か?楓を犯す気とでも言わないだろうな?」


「「!!!」」

 息を吞む楓と紅葉。


「バカを言うなっ!!!!!!

 何故僕の、僕の神聖な童貞はじめてをこんな誰にでも股を開くようなクソビッチに捧げなければならないっ!!!!

 そんなこと頼まれても、金を積まれてもゴメンだぁ!!!」

 顔を真っ赤にして怒り狂う三枝光一。そして抑えつけられている楓も顔を真っ赤にして怒り狂っているようだ。


「私だって翼以外には股なんか開かないわよ、アンタみたいな粗末なものこちらこそ冗談じゃないわ、この××野郎っ!!!!」


「お、おまえぇーー!!!!」

 怒りのあまりに手が震えている三枝光一。スタンガンを楓に押し付けようとしている。


「お、おいっ、落ち着け2人共。

 で、あんたはどうやって千堂さんを解放しようとしたんだ?」


「お、おまえ。解放と言ったか?

 クックク、分かってる。分かってるな、おまえ。

 よ、よし、教えてやろう」


 単純なヤツで良かった……俺は楓を見ながら焦っていた気持ちを少し落ち着けた。今は時間を稼ぎ、こいつの注意を引きつけないといけないからな。


「何簡単な話さ、久遠剛とて娘はかわいかろう?

 だからこの久遠楓の裸の写真や動画でも送りつけてやれば、僕の言うことには逆らえないだろう?

 娘の裸をネットに学園にばら撒くぞ?それが嫌なら美里さんを解放りこんしろ。とな」


「……(え?こいつマジで言ってんのか?)

 えっと、つまりだ。あんたは楓の裸なりの写真をネタにして、剛さんを強請り、離婚を迫ろうとした。それで合ってるのか?」


「まあ、そう言うことだ」

 我が意を得たりと、したり顔で頷く三枝光一。


「な、なあ?それで例え形式的に離婚したとしても、それで千堂さんがあんたと結ばれるとはならないんじゃないか?」

 俺は三枝光一に問い掛ける。


「はぁ?おまえ、これで終わりな訳ないだろう?

 当然、美里さんが久遠剛に愛想を尽かすように工作は考えていたさ。

 同時に久遠剛の不貞の証拠なりを捏造して、美里さんの目を覚ます算段だったからな。

 目を覚ませば美里さんが俺と結ばれる障害はもはやない。どうだ?完璧だろう?」


「……(どうしよう。何と言えばいいか。予想以上に稚拙なヤツだな)」


「ん?完璧すぎて言葉も出んか?」

 三枝光一は気を良くしてるのか、油断しきっている。

 実際俺と紅葉とは少し距離がある。俺達では一瞬で近づき、三枝光一を抑えるとはいかない。


「クッククク、だからおまえ達は少し大人しくしてもらうぞ。

 気は進まんが、この久遠楓を剥いてあられもない姿にした写真と動画を撮るまではな」

 高笑いしつつ俺や紅葉を見る三枝光一。

 だが、勝った。もう終わった。


「はい。残念でした。

 三枝光一の背後からスッと伸びた手がスタンガンを持つ三枝光一の左手を掴み捻り上げる。


「!!!!!」

 突然のことに驚愕する三枝光一。そして……


 背後から現れたその女性に左手を捻りあげられ、そしてそのまま首を抑えられ一瞬で三枝光一の意識を断つ。


 俺はその女性が三枝光一の左手を持った瞬間に走り出していた。楓の元へと。


「楓!!」

 そして楓を抱きしめる。


「翼ぁ~怖かったよぉ」

 楓もしがみついてくる。その身体はかすかに震えている。


「ほい、制圧完了。翼くん、お疲れさま。

 あなたがうまく気を逸らしてくれたから、無事に楓ちゃんを助けれたわね」

 そして笑いかけてくれた女性の名は南雲叶なぐも かなえさん。

 そう、茜さんの母にして南雲柔術道場なぐもじゅうじゅつどうじょうの師範だ。

 俺の知る限りは最強の女性。もしもに備えて天に頼んでいたのだ茜さんの助力を。

 そして来てくれたのだ。叶さんが。


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