第56話 幼馴染と最低男⑦
そして俺も安堵している。思った以上に楓を人質にされていた事実は、俺の中では緊張感と焦燥を俺に与えていたようだ。
いまは問題の解決で緊張感が弛緩した影響か、全身から力が抜けてしまっていた。
今回の元凶である三枝光一は、あまりにも見事に一瞬で意識を刈り取られた影響もあるのか、まるで寝ているように静かに気を失っている。
「楓ちゃん、ちょっといいかしら?」
そこで叶さんから声がかかる。
「……はい」
俺の中で泣いていた楓が、呼びかけられたことで顔を上げる。
「自分が割と危険な状況だったこと、自覚はある?」
「……はい。ごめんなさい。自分ならどうにでもできると思ってしまって……
それから、ありがとうございました。本当に危ないところを助けて頂いて」
普段は自信に満ちた表情や態度の楓が明らかに憔悴し落ち込んでいる。
「……まあ、十分に反省しているようだし、私からのお小言はやめておくか。
その辺は翼くん、あなたがしっかりやりなさいね?」
「わ、分かったよ。叶さん」
慌てて首肯する俺。叶さんには頭が上がらないのだ。
「本当に助かりました。ありがとうございます。
俺と紅葉だけなら制圧はできたけど、もしかしたら楓に傷の一つも残していたかもしれない」
「まあ、将来の息子の頼みだもの。気にしなくていいわよ、フフフ……」
とても高校生の娘がいるとは思えない。女子大生くらいにしか見えない美人である叶さんが微笑む。
「お、お母さん。まだ正式に決まった訳じゃないんだから、もう恥ずかしいじゃないか」
気づけば叶さんの後ろに茜さんも立っていた。
「茜さんも来てくれたんだね。ありがとう(さっきの下りはスルーしとこう)」
「私を助っ人に呼んだのは翼だろうに。お母さんもその場に居たから、そのままお母さんも連れて来たけどな」
茜さんはその形の良い胸の下に腕を組みながら、少し不満げな表情だ。
「そりゃ、楓ちゃんもうちの門下生だった訳だしね。将来の息子の頼みなら私も喜んで協力しちゃうわよ」
一方笑顔の叶さん。茜さんは何で少し不満そうなのだろうか?
「あぁ、翼くん。茜はね、あなたの前でいいところを見せたかったのよ。
でも、緊急事態だったでしょ?だから私がこの子の見せ場を奪っちゃったのよね」
自分の耳元を見せながら叶さんが茜さんが少し不満そうだった理由を教えてくれる。
叶さんの耳元にはワイヤレスイヤホン。つまり今も繋がったままのスマホからの音声でちゃんと状況を把握したうえで協力してくれたのだ。
「ところで天は?茜さん達とは一緒じゃなかったの?」
「あぁ、天なら彼女を呼びに行ってもらってる。彼女も当事者だろう?
それにこの男の件は彼女の前で決着をつけるのが良いだろう?」
そうだな。この三枝光一にとっては全てとも言える彼女。
この場に居てもらうべきだろう。
「あ、そうそう紅葉ちゃん」
叶さんがすすり泣いていた楓の頭を撫でている紅葉に話かける。
「ふえ?」
ここで話かけられると思っていなかった紅葉が少し驚く。
「紅葉ちゃん、背後から近づく私を見て反応しそうになったでしょ?
おまけにたまにチラチラと私に目線を向けるし、気づかれたら危なかったわよ?
ちゃんと翼くんみたいにあわせてくれないと」
「ご、ごめんなさい。お、おばさんが確かに見えてるのに、気配が全くしないのでビビってしまいまして……」
「おばさん?」
「ヒィッ!!!!!!か、か、叶お姉さん!!!!!」
一瞬放った殺気で完全にビビった紅葉が俺に抱き着いてきた。かなり震えているようだ。
「そうそう、叶お姉さんよ?
間違えちゃダメ?いい紅葉ちゃん」
光速で首を何度も縦に振り続ける紅葉であった……
そして、少し時間が経過した。
ようやく楓も落ち着いてきたところだ。
スマホである程度聞こえていたとは言え、情報交換を交わす俺達の元へ彼女が現れた。
「お兄ちゃん。お待たせしました」
妹の天が一人の女性を伴って現れた。そして目が合った俺へと彼女が俺へと話しかける。
「はじめまして。
慌てて駆けつけたのだろう。息を切らせ、少し汗を滴らせた妙齢の美女が天の隣に立っていた。
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