第57話 幼馴染と最低男⑧
俺は天と帰宅して、いまは自宅の部屋で休んでいるところだ。
色々あった1日だった。今日は楓や紅葉にとっては因縁に決着がついた1日として、恐らくずっと記憶に残るに違いない。
まあ、今日の出来事を記憶から抹消したいと楓は思うだろうが……
ふと今日の出来事を思い返す。
今回のある意味中心人物だった女性「
「はじめまして。
慌てて駆けつけたのだろう。息を切らせ、少し汗を滴らせた妙齢の美女が天の隣に立っていた。
「はじめまして。
俺達の前に現れたのは、今回の件では外すことはできない。ある意味では一番の中心ともいえる女性だ。
久遠美里さんは俺の挨拶に息を切らせながらも頭を下げ応える。
「妹さんから事情は伺っています。本当にご迷惑をおかけしました」
久遠美里さんはそう言いながら、俺達に頭を下げ続けている。
「久遠さん頭を上げてください。
はじめまして。私は
私も事情を聞いてこの場に駆けつけたものです。
いままでの詳細を聞いていた訳ではありませんが、今日の顛末は概ね把握してます。あなたに非のある事ではないでしょう」
叶さんの言葉にゆっくりと顔を上げる美里さん。そして楓に向き合う。
「……楓さん。良かった無事で……天さんからお話を伺った時には、本当に心配でした。でも良かった……本当に」
そして彼女にとっては新しい家族になった娘である楓に近づき抱きしめる。
「み、美里さんっ!く、苦しいっ、そんなに強く抱きしめなくても」
されるがままに抱きしめられている楓だったが、苦しいのか悶えているようだ。まあ、微笑ましいので放っておくとしよう。
そして、そういえば大人しいなと、ふと隣にいた紅葉を覗き見る。
「……」
何だろう?紅葉が汗をダラダラと垂らしながら、顔を背けつつ遠くを見ている。
「紅葉どうした?」
「!!!!!」
俺の言葉に紅葉がビクッと反応した。
「……紅葉?」
俺の言葉に楓を抱きしめていた美里さんがこちらに顔を向ける。
「あ、夏美さんも?あなたも楓さんを心配して来てくれたのね。ところで紅葉さんってどちらに?」
「!!!!!」
紅葉がビクッと身体を震わせている。何か動揺してるようだが?
「……ん?ところで夏美さんって誰のこと?」
俺がふとさっきの美里さんの呼びかけた名を尋ねる。
「「!!!」」
何故か楓も紅葉と一緒に激しく反応している。……なんだ??
楓と紅葉が2人で視線を交わしつつ何やら視線で意思疎通をはかっている。あの姉妹はあれで会話が成立するのだろうか?
「ねえ、楓さん。紅葉さんってあなたの妹さんのお名前よね?剛さんから伺ったことがあるの。紅葉さんもここにいらっしゃってるのかしら?」
美里さんが楓に問いかける。
「(お兄ちゃん。これ何なんですかね?)」
「(俺にも意味が分からない。何の話だ?)」
「(ねえ、翼くん。これどうなってるの?」
「(なあ、翼。夏美って誰だ?)」
天も俺も、そして叶さんも茜さんも何だこれ?状態である。
そして楓と紅葉が視線で何かしらの意思疎通をはかっていたが、紅葉が意を決したようにこちらに向き直る。
「美里さん……実は私が紅葉です。改めてご挨拶を……
私の旧姓は
頭を下げ美里さんに向き合う紅葉。
「え!?あなたが紅葉さん!?……さ、三枝!?」
紅葉の挨拶に固まる美里さん。何かしら事情があるようだ。
確か楓と紅葉は一緒に会ったことがあると軽く聞いてはいたけど、何かしら知らない事情もあったようだ。あと俺が聞いていたのは、美里さんが三枝光一と接点があったと紅葉に聞いていたぐらいだ。
そして紅葉から語られたのは、美里さんと偶然に遭遇した際に姉である楓と一緒のところを知られるのは、お互いの家庭の事情的には良くないと、咄嗟に偽名を名乗ったことの説明だった。
これに関しては美里さんも事情を酌んで気にしないとのことだった。
「それにしても、あなたが紅葉さん……しかも三枝性になってるなんて
おまけに光一くんとあなたが新しい家族になってるなんて、正直いろいろ情報が多すぎて混乱しています」
そして美里さんは倒れたままの三枝光一を見ている。
「そういえば気絶したままのこの男はどうする?」
ここで茜さんが皆へ尋ねてきた。
「「警察に突き出しましょう!」」
楓と紅葉が口をそろえて同じことを言う。
「そうねぇ、未遂とはいえ結構な悪さを企んでいたことだし、このままお咎めなしというのもねぇ」
叶さんの発言も楓や紅葉寄りの意見のようだ。
「お兄ちゃん。どうします?」
「ん……まずは被害にあった楓。あとは未遂とはいえ被害にあうところだった美里さんのご意見を伺って決めるのはどうだろう?」
「少し光一くんと話をしたいのですが、良いでしょうか?
私自身に対して何をしようとしていたかは、さきほど天さんからスマホからの音声を聞かせて頂いたので知ってはいます。でも、それよりも楓さんへの暴行未遂については看過できない気持ちです」
ここで全員の視線が綺麗に気絶している三枝光一へ集中する。
「じゃあ、三枝光一の意識を戻して話をしようか。この男の処遇については楓や美里さんに委ねるべきだろう」
個人的には即刻警察に突き出したいところではある。例え未遂とはいえ楓にやろうとしていた卑劣な行為は許せるものではない。
「では、この男を起こすが良いな?」
叶さんが倒れている三枝光一の顔に向けて
「パッパァン!!!!」
なかなか強烈な往復ビンタを三枝光一の頬に見舞った!
「ぬぁーーーーーーっ!!!!」
衝撃で目を見開き三枝光一が飛び起きた。
「ここは何処だ!?俺はいったい……」
あまりのショックで周りが見えていないのか、全員に囲まれている状況でもこちらが見えていないようだ。
「お久しぶりですね、光一くん」
そして目が据わり気味の今までの穏やかな気配から怒りを帯びた雰囲気に転じた久遠美里さんが三枝光一に語り掛ける。
「なっ!!!!!!」
驚き固まる三枝光一。こうして三枝光一と久遠美里さんの対話がはじまった。
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