第26話 幼馴染対決 茜VS楓

 今は生徒会室に到着してランチ中である。

 ちなみに今日のメンバーは、西条翼さいじょう つばさ久遠楓くおん かえで南雲茜なぐも あかねの3人である。


 そして、俺の周りの幼馴染の中でも、

 久遠楓くおん かえで南雲茜なぐも あかね……この2人は「折り合いが悪い」のだ。

 原因はこれである……


「ほら?翼、次はこれを食べてみるといい。お姉ちゃんの手作りだぞ」

 そして俺へとお弁当のおかずを差し出す。俺の口元へと。

 いわゆるアレだ。「あ~ん」ってやつである。


 今日は茜さんから弁当を用意してくれると聞いたので、天からの弁当は持参していない。

 生徒会室に着いてランチを食べ始めたのだが、最初から一度も自分で食べさせてくれない。

 茜さんは俺にダダ甘モードになると、ひたすら甘い。たまにこのスイッチが入ると俺を甘やかす。このように。

 俺は逆らっても無駄なので、茜さんの手作り弁当(俺の好物だらけ)を食べさせてもらっている。茜さんは料理も上手い。料理だけではなく家事全般をそつなくこなす。勉強もできて運動もできる。さらに美人とまさに完璧超人と言える人だ。


 そんな俺と茜さんを射殺す勢いのジト目で見ているのが、久遠楓くおん かえでである。

 楓は昔から俺を独占したがるタイプだ。そして、俺に優先されたがるタイプである。

 俺を甘やかすモードに入った茜さんとは相性が悪い。

 少し前までは、俺が楓に惚れていたことを知っていたので、茜さんが遠慮してくれていた。楓と2人で居る時には、配慮してくれていたのだ。

 それは子供の頃に俺をめぐって大ゲンカになり、楓が泣きだしてしまったことがあり、それから茜さんも楓に遠慮するようになったのだ。


 そして、いまや茜さんには遠慮する必要がない。

 さらには楓も俺に対しては、昔のような強気にも独占的にはなれない。

 つまり茜さんが好き勝手にする条件が揃っているのだ。ここに天や七海がいれば多少は人の目を気にする人なので、ここまでダダ甘なお姉ちゃんモードにはならない。

 だが、今は俺、楓、そして茜さんの3人だけ。この日に限っては、副会長の松井さんもいない。つまり条件が揃ってしまったのだ。


 俺の意思はどうなのか?

 正直に言おう。少し恥ずかしいのだが、茜さんに甘やかされるのは嫌いではない。

 俺には妹はいても姉はいない。血の繋がった姉にこの歳で甘やかしてもらうのに抵抗はあっても、茜さんはそうではない。俺も家族特融の照れがなく、子供の頃からお世話になっている茜さんを抵抗なく受け入れてしまっていた。


 痛っ!

(机の下から、楓が俺の足を軽く蹴ってきた。……こいつ)



「茜さん、そろそろ翼も迷惑そうですよ?子供じゃないんですから、いつまでやってるんですか」

 ついに我慢の限界が近いのか、楓から一言苦言が呈される。


「ん?翼は嫌なのか?」

 そう聞き返す茜さん。


「……」

 楓はジト目で俺を見ている。

 目線が物語っている「いい加減に断れ」と。


「嫌ではないよ。でも、俺からも食べさせていい?」

 やはり一方的に甘やかされるのは悪い。たまにはお返しをしなくてはいけない。

 あとは先ほどの楓への意趣返しである。


「!!!!」

 茜さんは息を呑む。


「なっ!!!」

 楓は絶句している。


「じゃ、じゃあ、た、食べさせてもらうかな……」

 茜さんが真っ赤な顔でテレテレである。

 これを教室や学食でやれば俺のHPがなくなってしまうが、ここは密室の生徒会室である。他に見られる心配もないから、少し俺も大胆になってしまっているのかもしれない。


 ……俺は茜さんの弁当から、一つのおかずを選んだ。

 そして、可愛く口を開く茜さんに、俺は茜さん手作りの卵焼きを近づける。


 ……そして事件は起こった。


 俺が差し出した「卵焼き」が口に消えたのだ。


 おまえは何を当たり前のことを言ってる。そう思っただろう?

 卵焼きが消えたのは、差し出した「南雲茜なぐも あかね」の口ではなく、身を乗り出してかっさらっていった「久遠楓くおん かえで」の口の中に消えたのだ。



「久遠っ!いや、楓ぇ!!……おまえ、どういうつもりだぁ!」

 茜さんマジギレである。久しぶりにキレたのを見た……


「あら茜さん、どうしました?」

 こいつ、茜さんを怒らせておいて平然としてやがる。


「『どうしました?』だと!?

 翼から私へのお返しを!!それが『どうしました?』だとぉ!!!」

 さらに茜さんを怒らせた。


「あら、ゴメンなさい。つい翼が『俺からも食べさせていい?』って言ったのは私に向けてと思ったので」

 こいつ、とんでもないこと言い出したぞ。


「こいつ、屁理屈にもならんようなことを!!」

 茜さんが立ち上がる。


「あら?取られるほうが悪いんですよ。でも、美味しかったですよ?」


「ふん、それはありがとう。

 だが、当たり前だ。ろくに料理もできん楓と一緒にしないでもらおうか」


 あ……駄目だ。これは……


 「それを、それを言ってしまいましたね、茜さん……」

 楓も立ち上がり、至近距離でにらみ合う。



 ――――そして10分ほど、子供の頃から「あの時は……」「……いや、こうだった」と言った子供の時のことまで引っ張り出して、くだらない口喧嘩が繰り広げられた。


 まあ、内容的にはくだらない。

 それでも相手を傷つけるようなことをお互いに言わないからだろうか。少し微笑ましくなり、俺は我関せずで、茜さん手作りのお弁当を頂いていた。


(この2人はお互いに少し距離を取っていた。これはいい機会だろう……)



 お互いに距離を取っていたような間柄だった2人が、少し楽しそうに口喧嘩をしてるのを見ていて、俺はあまり悪い気分ではなかったのだ。



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 次回予告:あの間男に続報が!?

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