第25話 幼馴染たちの騒動のあとで


 木曜日。今日は平和だった。何もなかった。

 事件もなく、生暖かい目で生徒からも、教師からも見られることだけ。

 クラスのみんなも特に変わることなく、楓がクラスで悪目立ちすることもなく、七海が変な追及を受けたりもしない。普通の日常であった。

 これは俺たちが学園のみんなに対して、最初に騒がせた以外では迷惑をかけていないこともあるだろう。

 俺たちの一種異常な関係はあくまでも、俺たちの中だけで完結しているのであって、他の生徒へ干渉することもない。

 またそれぞれが学業や運動、生活態度に至るまで、ある程度の模範的な生徒であったことも大きいのだろう。


 そうだな、一つだけ変化があったことは、「ランチ」だろうか。

 今までは、クラスで大地や茂と食べる機会が多かったのだが、楓や七海から一緒にお昼を食べたいと誘いを受け、さらには妹の天や生徒会長の茜さんからも、お昼を誘われる。

 そこで昼休みには生徒会室で全員ランチとなったのだ。

 茜さんよりこれからも都合がつけば、お昼はここで集まりみんなでランチにしようとのこと。もちろん各々別の付き合いもある。あくまでも、任意参加である。

 もっとも、木曜日は全員が生徒会室でのランチとなったのである。


 このメンツが集まると常に注目を浴びてしまうことになり、正直お昼ぐらいは周りの目を気にしたくはない。

 だから、茜さんの申し出は渡りに船であったのだ。

 ちなみに生徒会顧問からも許可されているので、教師からも黙認されている状況なのだ。


 ここに関係者一堂が揃ったところで、俺はみんなに伝えなくてはいけない。


「みんな、昨日は俺のために、自分が泥をかぶるようなことをさせてすまなかった。そして、ありがとうございました」

 俺はみんなに頭を下げる。妙なことにはなったが、俺のためへの行動でもあった以上は、お礼をちゃんと言うべきだ。


「気にしないで良いぞ、翼のこともあるが、あくまでも私たちの都合を考えて動いただけだ」

 茜さんから気にしないで良いと言われる。


「そうですよ、お兄ちゃん。

 こちらの都合で振り回しているんですから、気にしないでください。

 お兄ちゃんに関しては、まだクラスの中ぐらいの範囲でした。なので、楓ちゃんと七海さんの宣言だけで解決しましたから、お礼言われるようなことじゃないですよ」

 天からも同じく気にするなと言われる。


「元々は私が原因。それを私が正すのは当たり前でしょう?」

「そうそう、翼くんは気にしないでください。元々私たちが動く為の環境作りとセットで動いたの。どちらかと言うと、翼くんには別の迷惑をかけるんですからね」

 楓と七海からも同じような返答だった。


「分かったよ。みんなの都合もあったんだろうけど、それでもありがとう。

 正直、いまの状況には思うところがない訳ではないんだけど……もう手遅れなのも分かるし、実害はへんな称号だけだしな」


 同席していた「生徒会副会長 松井静香まつい しずかさん」も楽しそうに俺たちを見ていた。


 このあとも、木曜日は他には特にイベントも発生することなく終了。俺には久しぶりの平和な日常であったのだ。


 そして金曜日。ようやく今週の学園生活も今日でおしまいだ。

 土日は少しのんびりしたい。そう思っていた。

 今は昨日と同じくで、生徒会室でランチを頂こうとしている。つまり生徒会室に向かっているのだ。


 俺と一緒に歩いてるのは楓だけだ。七海は女友達と一緒にランチだそうだ。

 楓に関しては、七海の告白被せで暴露した内容の印象が薄れたものの、やはり多少悪く言われたりもすれば厳しい目で見られもする。今まではクラスでもいわゆるトップカーストに位置していたが、現状では七海の一強状態だ。

 その七海が楓と仲良くしてることもあるが、楓本人が自分の行いを認め、真摯に俺に向き合う姿勢を見せているので、支持する層もいる。彼女を取り巻く環境はいまそんな状況である。


「ねえ、やっぱり私と2人は気まずい?」

 少し楓は不安そうな顔をしている。


「う~ん、前と同じようにとは言わないけど、楓も普通に接してくれていいよ。

 でも、君を含めて他のみんなの気持ちに応える心境ではまだないんだ。

 だから、俺だけに固執しないで視野は狭めないで欲しいんだよ。それぐらいかな?いま俺が言えるのは」


 正直これが一番の悩みだ。みんなとは変わらず仲良くやりたいとは思う。いろいろあったとはいえ、それは楓ともだ。

 でも、初恋が終わった直後の影響なのか、新たな恋愛に踏み出そうとは、すぐには考えられないのだ。

 もちろん、いずれは新しい恋愛をするだろう。俺も誰かに恋をするのだろうとは思う。それが、俺に想いを寄せてくれる彼女たちの誰かに、応えられる形なら尚良いのだろう。

 でも自分の気持ちに期限が切れる訳でもない以上、彼女たちの好意に甘えて引き伸ばし、彼女たちを縛る理由にはしたくないのだ。


 だから、俺のスタンスは明確にしておかなければならない。今度みんなで遊びに行く時にでも、改めてちゃんと伝えよう。


「そういえば、あれからも紅葉とは話をしてるのか?」

 水曜の帰り道で、偶然にも紅葉と遭遇。そこで数年ぶりの姉妹再会となったと聞いていた。

 最初の紅葉の反応が、それなりに姉への拒絶感が見られたので心配していたのだが、幸いにも険悪な雰囲気にもならず、今後も定期的に会うことになっていると聞いて安心した。


「そうね、昨日もLIINEで話をしたわね。最初はぎこちなさもあったのだけど、すぐに普通に話ができるようになったわ。心配かけたかしら?」


 ……絶縁宣言した時には、このような普通の会話を交わせる関係に戻れるとは思わなかった。前とは関係性も変わったかもしれないが、ずっと一緒だった幼馴染なので、こうして一緒に過ごせるのは嬉しいと思ってしまう。

 こうして、ここ数日では珍しい普通の雑談を交わしながら、生徒会室へと向かっていた。今日は茜さんと楓、そして俺の3人でランチとなっている。


 ……そういえば茜さんと楓は折り合いが良くないが、大丈夫だろうか?



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 次回予告:お姉ちゃん VS 楓?

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