第24話 幼馴染姉妹の初恋

 side:久遠楓


 わたしと『つばさ』が手をつなぎ、歩いている。

 ここは何処だろう?

 そうだ。何処なのか、分からないのだ。

 だって、わたしは迷子なんだから。


 わたしは一人でわんわん泣いていた。

 お母さんも、お父さんも、何処かに行ってしまった……

 わたしがちょっとお店を見ていたら、どこかに行ってしまった。


 わたしは一人でわんわん泣いていた。

 大人たちは、心配そうに見ていた。でも、声をかけてはくれない。


 わたしは一人でわんわん泣いていた。

 心配そうに知らないお姉さんが、わたしに話かけてくれる。


 でも、わたしは一人でわんわん泣いていた。

 だって、わたしは人見知りなのだ。知らない大人は怖い。

 お姉さんが、目線をあわせて、頭を撫でてくれる。

 落ちついてきた……でも怖い、寂しい、お母さん、お父さん、もみじ、……『つばさ』


 お姉さんが、手を握ってくれた。

 あれ?すごく、落ち着く……あったかい。

 あれ?手が小さい?

 わたしは自分の手を見た。わたしの手を握ってくれたのは、お姉さんじゃない。

 『つばさ』だ!『つばさ』が来てくれた!『つばさ』が、わたしのところへ来てくれた!


「探したんだよ?『かえで』ちゃん」

 そういって笑いかけてくれる。『つばさ』はいつもわたしに笑いかけてくれる。

 いつもわたしを助けてくれる。いつもわたしの側にてくれる。『つばさ』はわたしのヒーローだ。


 そのあと、お姉さんがお母さんのところへ連れて行ってくれた。

 『つばさ』が、おかあさんが待ってるとこまで、案内してくれた。だから、すぐにお母さんに会うことができた。


 もみじがお母さんと一緒にいた。

 ……もみじがわたしを見つけた!

 もみじが勢いよく抱きついてきた!……あれ?あれ?もみじが、抱きついたのは……わたしじゃない……『つばさ』だ。


「おにいちゃんー」


 あれ?なんで、もみじが泣きながら抱きついてるの?もしかして……

 あ!もみじは……やっぱりウソ泣きだ。『つばさ』に抱きつきながら、わたしにニヤッとしたのだ!

 こいつ!!わたしの『つばさ』を盗るつもりなんだ!「どろぼうねこ」ってやつだ!


 わたしがいつから『つばさ』を好きなのか?そんなのわからない。

 だって子供の頃から、『つばさ』が好きじゃない時がなかったのだから。

 わたしは知っている。この感情の名は「初恋」と呼ぶって。いつから「初恋」が始まったのか、それはわからない。


 だって最初から始まっていたのだから。



 ――――私は目を覚ます。

 懐かしい夢を見た。そんな気がした。



 ――――――――――――――――――

 side:久遠紅葉


 わたしは『お兄ちゃん』に甘えるのが好きだった。

 もちろん『お兄ちゃん』は好きだ。でも、たぶんお姉ちゃんが『お兄ちゃん』を好きなのと、好きが違う気がする。


 『お兄ちゃん』は、わたしを甘やかす。それでよく、そらお姉ちゃんと喧嘩になる。


「もみじ!『そらのお兄ちゃん』に、をつかわないで!」


「そらお姉ちゃんには、が足んねえ。そう思うんですよ」


「こいつ!意味分かんないくせにっ!」


 かえでお姉ちゃんは『お兄ちゃん』が絡むと怖い。だから、そらお姉ちゃんの方が何でも言えるから楽なのだ。

 かえでお姉ちゃんに同じようなことを言ったら、たぶん……キュッとシメられるちゃうから。

 お姉ちゃんは、すでに「おんな」なのだ。『お兄ちゃん』が絡むと。あの人たまに怖いのだ。あれ「やんでれ」ってヤツだ。テレビでやってたもん。


 わたしと『お兄ちゃん』の関係は、甘えたいわたしと、甘やかしたい『お兄ちゃん』の「うぃんうぃん」の関係というやつだ。


「もみじちゃん、危ないから手を繋ごうか?」


(『お兄ちゃん』が、わたしを子ども扱いする……)


「そんなこと言って、もみじと手を繋ぎたいだけでしょ?しょうがない『お兄ちゃん』ですね~」

 そう言ってわたしは『お兄ちゃん』の手を握ろうとする……

 すると、わたしの手を、そらお姉ちゃんが握ってきた。


「『お兄ちゃん』は、そらと手を繋ぎましょう。と手を繋ぐから、大丈夫よ!」

 わたしは、そらお姉ちゃんの手を解き、『お兄ちゃん』の手を握る。


「お構いなく。そらお姉ちゃん」


「~~~~~」

 そらお姉ちゃんが涙目である。かわいいお姉ちゃんだ。


 そして、言い争いになった2人を『お兄ちゃん』が仲をとりもってくれるのだ。

 それがわたしたちの「にちじょう」だ。


 ――――その日、わたしと『お兄ちゃん』は2人だけだった。

 そらお姉ちゃんと、かえでお姉ちゃんは、2人で遊んでいる。


 違う。わたしがそう仕向けたのだ。『お兄ちゃん』と2人だけで遊ぶために。

 もみじは「さくし」と言うヤツだ。そらお姉ちゃんも、かえでお姉ちゃんも、わたしの「てのひらでおどっている」そう……そんな感じだ。


「もみじちゃん、どうしたの?」


「なんでもないよ〜」

 おっと、考えごとしてた。いけない、いけない。


 いまわたしは『お兄ちゃん』とゲームをしてる。

 2人横に並びながら、肩を寄せあいながら。まるで「ふうふ」のようではないだろうか。


 おままごと気分?そんなものは「そつぎょう」してる。わたしは「りありすと」である。意味はちょっとわからないけどね。


 幼稚園でも『もみじ』はモテる。おとこたちを惑わせてしまっている。

 みんながおままごとをしようと言ってくる。おとこたちは、みんな『もみじ』をお嫁さんにしたいらしい。

 だけど、わたしはされたくないのだ。

 わたしがお嫁さんになりたいのは、『お兄ちゃん』だけなのだ。なんでだろうか?


 わたしにとって『お兄ちゃん』は特別だ。わたしが物心ついた時には一緒にいてくれた。楽しい時も、悲しい時も、寂しい時も、家族以外で、家族以上に一緒にいてくれる。お母さんがいないときも、お姉ちゃんが構ってくれない時も、『お兄ちゃん』はわたしを気にしてくれる。

 だから、わたしも『お兄ちゃん』を誰よりも気にするようにしたのだ。


 わたしは聞いてみた。お母さんとお父さんに。この好きはどんな好きなの?って。

「紅葉は翼くんのお嫁さんになりたい好きなのね」

「ハハハ、紅葉と楓で翼くんを取り合いになってしまうな」

 お母さん、お父さんがそんなこと言ってる。……そんなこと言うと……ほら?


「……うぅ〜」

 ほら?かえでお姉ちゃんがめちゃくちゃ睨んでる。


「お姉ちゃん、わたしは『お兄ちゃん』のことは大好きだけどってやつですよ」

 わたしは嘘をついた。何となく家族愛ではないのだろうとわかってる。「おんな」として『お兄ちゃん』が好きなんだろう。わたし「ようちえんじ」だから、よくわかんないけどね。


 この気持ちに気づいたのは、他の男たちと、『お兄ちゃん』では、言葉は上手く説明できないけど、好きが違うのだ。

 仲良しのたかしくんや、しんじくんとは一緒に遊んだりするのは大好きな好き。

『お兄ちゃん』は、ずっ〜と一緒にいたい。わたしがしてあげられることはないんだけど、何か『お兄ちゃん』にしてあげたくなる好きなのだ。


 ん?よく分からない?あなた「ようちえんじ」に人生の真理を説けとか、あたま大丈夫ですか?


 ん?わたしは誰にケンカを売ったのだろうか??


 わたしは『お兄ちゃん』が好きだ。でも、かえでお姉ちゃんが『お兄ちゃん』を好きなのと、好きが違う気がする。

 ……そう、わたしは自分の気持ちに嘘をついた。同じ好きなくせに。

 これが「初恋」って言うんだと、わたしは知っている。




 ――――「……はっ!」

 わたしは目覚めた。何かとんでもない昔の夢を見た。あれはまだわたしが、久遠紅葉くおん もみじだった頃の記憶。


 ……きっと久しぶりに姉さんに会ったからだろうか?懐かしい夢を見た。あの時に封じた想いは、もう隠すことも諦める必要もなくなった。


「さて、今日は何が起きるのかな?」


 今日も三枝紅葉さえぐさ もみじの日常が始まる。



 ――――――――――――――――――

 次回予告:騒動後の日常に触れます。

 ――――――――――――――――――

【読者の皆様へお願い】

 作品を読んで『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★3を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援、わたしのユーザーフォロー大歓迎です!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る