第23話 幼馴染姉妹の邂逅(後編)
side:
実妹からそれなりに失礼なことを言われた……
悔しい。反論もしたいが、昨日の今日ではぐうの音も出ない。
(本当にこの子と離れて、ずいぶんと年月が経つのね)
さきほどまでは、幼い頃と今の紅葉とのギャップ差に、少し戸惑いを覚えていたのだ。
ようやくいまの紅葉が、成長した妹の姿として、受け入れられるようになった。
きっと私だけではない。紅葉も戸惑いはあっただろう。私もかなり成長した。
ただし、自信を持っていえるのは容姿ぐらいか。内面は「やらかし」もあって誇れるものではないから。
しかし、さっきから紅葉が「私の胸を見て、勝ち誇った顔をしている」そう感じるのは気のせいなのだろうか。
「……みんな私をボロカスに言うわね。
まあ、いいわ。それは仕方ないから。
では2つ目をいいかしら?」
「もちろんです。どうぞ?」
きっと、私からの質問など予測済みなのだろう。さっきまでの余裕が、紅葉の表情から消えている。
これは私たち姉妹には避けて通れない話題。久遠家にとってタブーと言える話題なのだ。
「私とあなたが引き離された理由。父さんが離婚した理由を知ってるの?」
この話題を姉妹としては、避けては通れない。
「……知ってます。……と言いたいところですが、知らないです。でも、予想はつきますけどね。
理由は絶対に明かせない。そう聞きました。母からも祖母からも」
「そう……別れてからは、おばあちゃんのところへ?」
予想はしていた。お母さんが身を寄せるなら、祖母のところかと。
「そうですね。祖母のところで母としばらく一緒に。その後は、母の再婚を機にまた居を移したりですね」
「おばあちゃんの家か……もしかしてと思ってね。一度こっそりと会いに行こうと思った。でも行動には、移せなかったのよ」
引き離された当時のことだ。
突然の一方的な通告と共に、お母さんと妹と引き離されたのだ。
当時の私は、納得していなかった。理由も教えてもらえない。当然、離婚という言葉も意味も理解はしていた。でも、何故?なんで妹までも私の前から姿を消したのだ?
あの日は、父に誘われて2人だけで遊びに行ったのだ。そして家に帰ると、もうお母さんも紅葉もいなかった。
私に残されていたのは、お母さんからの手紙のみ。
手紙には理由も書かれていない「ごめんなさい。紅葉を連れて遠くへ行くことになった。もう会うことはできないだろう。そして元気で」そう書かれていただけ。
突然の別れ。意味が分からないからと、感情を父にぶつけた。でも、父は何も教えてはくれなかったのだ。父は私からの言葉にも、何かに耐えるように、苦しそうにしていた。
だから、しばらくして父にも強く当たるのを止めた。翼も気にしていたが、家庭の事情と翼にも触れないようにしてもらった。
そして私は、お母さんや紅葉が居るのは祖母のところじゃないのか?そう考えていた。
だから、翼と祖母のところへ行くことを、当時こっそりと計画していた。
しかし、子供の計画など、容易に大人にはバレるものだ。
「……父ですか?」
紅葉が口にする。
「えぇ、父さんよ。泣いてしがみつかれたの『おまえだけは裏切らないでくれ』おまえだけは……とね」
「うーん、それで何となく理由に想像がついたんでしょ?姉さんも」
「それは、あくまでも想像はね……これは触れてはいけないやつだ。私がお母さんと紅葉に会いに行くのは、父さんのことを考えれば動いてはいけない。子供ながらにそう思ったの」
父の言葉を聞いて、祖母の元を訪れるのを止めた。
その行為が父への裏切りのように感じてしまったからだ。だから、私は父の前で母さんのこと、紅葉のことを話題にするのを止めた。
私の言葉に、表情に怪訝さを浮かべた紅葉が言葉を返す。
「ここでわたしからも。実はですね、同じなんですよ」
「同じ?……どういう意味かしら……同じって?」
言葉の意味が分からない。同じとは何だ?
「いま姉さんの話を聞いて、訳が分からなくなりましたよ。
だって、わたしも母から、泣いてしがみつかれましたからね『あなただけは、わたしを裏切らないで』ってね。かなり母が泣きわめいてましてね」
……その言葉が父の言葉と重なる『おまえだけは裏切らないでくれ』
「……ん?意味が分からないわね」
正直、どう考えればいいか、私には分からない。
「どちらかが嘘をついてるか、あるいは両方が両方ともに黒とか……」
紅葉も首をかしげている。それはそうだろう。今まで何となくの理由を察してはいたが、これは絶対に触れられない禁断の内容に近い。それが逆の可能性があると言われても困る。はっきり言って私もどう反応すれば良いのか困る。
「ちょっと、悪いんだけどこれは手に負えないわ」
「同感です。お互いの手に余ります」
私が思わずこぼした言葉に、同じに紅葉も言葉をこぼした。
「気にならないと言えば嘘になるけど、踏み込みにくい話題ね。しかも申し訳ないのだけど、父さんは再婚したばかりよ。蒸し返したりできない」
「はい。こちらも再婚してますから、今更蒸し返ししていまの両親の生活を壊したくはありません」
妹も同じ結論に至ったらしい。そこは流石に姉妹なのか。
お互いに一緒に親と住んでるのだから。変に疑いつつの生活など、できたものではない。
「ふふふ……おかしいですね、わたしは父が浮気して、それで母と揉めた。そう思ってたんですよ」
思わず紅葉が笑ってしまった。でも、その目は困惑に満ちている。
「私は笑えないわ。母が不義を働き、あなたとは半分血が繋がらない。そう思ってたのだもの」
今回の話で一気に疲れた。ここ数日、心労がたたってそのうち倒れるんじゃないか?そう思った。
「わたしは、不義の末生まれかもしれないと思われていたの?……でも、あり得るのか?
あれ?わたしの方がダメージが大きいぞ……
まあ、わたしは母との生活が長い分、母との血の繋がりがある以上、あまりショックはないのかもしれないけど。
でも、母が不義を働いたかもと言うのは、あまり想像はしたくない。
やはり、この話題しばらく考えるのをやめよう……」
楓も混乱してるのだろう。私に話しかけてるというよりも、ほぼ独り言に近い。
「まあ、お互いに苦労しましょう。でも、会ってるのは内緒で」
妹がそう持ち掛けてきた。
「えぇ、そうね。それは私も賛成。波風をたてる必要はないでしょう」
私も応じた。妹と会うのは禁止されている。むやみに触れる回る必要などないだろう。
「流石に今からお兄ちゃんの家に突撃する気力はなくなったなぁ。今日は帰るかぁ……」
紅葉がボヤいている。そういえば紅葉は、翼の家にアポなしで行くつもりだった。と言っていた。でも流石の紅葉も、いまので気力を使い果たしたようだ。
そういえばこれを聞いておこうか。
「そういえば紅葉、あなた今どこに住んでるの?」
「あぁ、気にしてるかもしれませんが、バッタリとこの辺で、母に会ってしまうとかはないと思いますよ?母もこの近辺には、間違いなく近づかないでしょう。ちなみに《春日市》です」
「微妙に遠いわね……」
ここから電車を乗り継いでも1時間以上はかかる場所だ。
そして唐突に紅葉が言い出した。
「姉さん。わたしの結婚式には呼んであげますよ。わたしと『お兄ちゃんの結婚式』にね」
私の目つきが変わった。それが自覚できた。
「本当にあなた……ずいぶん会わない間に、いい性格になったわね……いや、そうでもないか。
あなた昔からそんなところあったわね。
でも、ドン底から逆転する姉の逆転劇を、その目で見てなさい!紅葉」
今日のクラスでの宣言を現実のものにする。そう決めたのだ。困難なことは百も承知だ。
こうして姉妹久しぶりの再会は、終わりを告げる。
最後はやはり「翼」の話題で締めるのが、姉妹にとっても相応しいだろうと思ったのだ。
お互いに爆弾を抱え込んだが、これは子供が踏み入れてはいけない領域だ。いや、踏み込んでしまうと、どうなるか想像がつかないのだ。
だからお互いに触れないと決めた。
まだ完全には元の姉妹のように、戻るのは難しいだろう。私たちの置かれた状況は、予想以上に複雑なようだから。
でも、元の姉妹のような関係を、少しだけでも築くことができるといいな。私はそう思っていた。そして、紅葉も同じだといいな、そう思った。
この平穏な生活はお互いが黙っていれば壊れない。そう2人は思っていた。
しかし、この平穏に楔を打ちこもうと画策している人間がいることに2人はまだ気づかない。
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次回予告:幼馴染姉妹たちの過去話?
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