第22話 幼馴染姉妹の邂逅(前編)

 side:三枝紅葉さえぐさ もみじ


 信じられない……こんな偶然があるのか……

 街を歩いていたら、偶然生き別れになった姉に遭遇した。


 しかも、成長著しい年代のわたし達は、容姿も数年と会わなければ、あっという間に別人のようになってしまうはずだ。

 事実、楓姉さんの容姿は、最後に見た小学生時代とは、雲泥の差がある程に成長を遂げている。

 幼少より綺麗な顔立ちはしていた。当然ながら美人として成長するのは分かっていた。そして、高校生になったいま、少女から大人の女へと、成長の合間に見られる儚さを持つ美人として、成長を遂げていた。


 だが、説明もつかない理由で、その少女を見た時に身体が震えたのだ。知っていると。家族であると。あれは姉であると、意識よりも身体が先に教えてくれた。

 それは向こうも同様らしい。わたしと目が合い、そして同じ理由で、わたしを認識したのだ。妹であると。


 ……2人して無言で見つめ合う。


(正直、どうすれば良いの……これ)


「あの」

「ねえ」

 わたしと楓姉さんが同時に口を開く


「……お先にどうぞ、楓姉さん」


「うん、やっぱり紅葉なのね。こんなところで偶然出会うとは思わなかったわ」


「そうですね、わたしも驚いてます。

 楓姉さんとは、一度会っておこうとは思いましたけど……流石に予想外ですね」


「私も今夜にでも、教えてもらったあなたのアカウントへ連絡を取るつもりだったの」


「完全にお互いに不意打ちですね。まあ、構えて会うよりも、偶然に任せて少し話をしますか?楓姉さん」


「えぇ、そうね。少し話をしましょうか」



 ――――わたしたちは近くの公園へと移動する。




 ……そして、久しぶりの姉妹の会話が始まる。


「楓姉さん、お久しぶりです。元気でしたか?」


「えぇ、それなりにね。ここ数日で、元気をなくしたけどね」

 疲れた笑顔でわたしに応える楓姉さん


「まあ、それはそうでしょう。あんなことがあって、それで元気だったら正気を疑いますよ?」

 おっと、少し毒舌が出てしまった。


「……ずいぶん久しぶりにあった姉に、あなた中々辛辣ね。

 まあ、返す言葉もないけどね」

 楓姉さんが、少し呆れた顔で言葉を返す。


 ――――軽い挨拶のあと、近況報告や、お互いに別れたあとのこと等を話をしていく……お互いに本当に話をしたいことを避けた会話。

驚いたのは、実父もこの春で若い女性と再婚しており、楓姉さんにもができたらしい。


 実父の再婚もホットワードではあるが、いまのわたしにはさほど関心はない。

そもそも、避けては通れない話題がわたし達には2ある。



「姉さん、そろそろいいでしょう?

 わたしに聞きたいこと、最低2つはあると思うんですけど」


 わたしの言葉に少し考えこみ、そして口を開く。

「……そうね、避けたところで仕方ない。まずはこれをはっきりさせたいの」


「はい。どうぞ?」


三枝光一さえぐさ こういち……あの男について」

 

 姉さんの顔がこわばる。いや、怒りをこらえている。義兄に対して、いいように翻弄された自分への怒りの両方なのだろう。


「まずは姉さん、義兄あにのことはどのくらい知ってます?」


「……あの男が聞きもしないのに、自分のことをしゃべっていたけど、基本的なことしか知らないわね。

 三枝光一さえぐさ こういち南西学院大学なんせいがくいんだいがくの四年生。バイト先は私が元働いていた《天神》のカフェ……

 あとは、いま『彼女はいない』って、どうでもいい情報くらいかしらね」

 その顔は思い出したくもない。そんな表情が伺えた。


「わたしと似たようなものですかね。

 そういえば最後に会った時に『こっぴどく彼女に振られた』とか聞きましたね。

 で、結論から言いますと、姉さんの知る情報以上のことは、まだ知りません。


 わたしも三枝光一さえぐさ こういちの名が、姉さんの話で出た時には驚きました。

 義兄が姉さんに近づき、唆したのが偶然なのか、狙ったのかそれは分かりません。

 内容的には、LIINEで聞くよりも直接、面と向かって聞くべき内容だと思ってます。

 できれば不意打ちで聞きたいので、直接会うまでは、おくびにも出さないようにしようと思ってます。絶対に誤魔化せないように。この件は、わたし自身もかなり気になるので」


(義兄の光一よりは、実姉の楓の方がわたしには思い入れは強い。しかも主犯は姉とはいえ、お兄ちゃんを傷つけた一端を担っていたのだ。偶然なのか、それとも意図したものなのか。それは確認しなければいけない)


「そう……あなたのいまの名字が『三枝』と聞いた時には、心臓が止まるかと思ったわ。

 悪いけど、少しだけあなたの関与も疑ったくらいよ。あなたにとっては、私や父さんは恨みの対象でしょう?」

 まっすぐにわたしの目を見る姉さん。まあ、そう考えるのも不思議はないだろう。


「まあ、別れ方があんなんでしたからね。そう思われるのは仕方ないですね。でも、姉さんと引き離すためにお兄ちゃんを苦しめるなんて、死んでもゴメンですよ。あり得ないです」

 わたしプンプンに怒りますよ?


「姉さんに対しては、突然引き離された淋しさはありましたけど、子供の頃に泣きわめく母を見て、姉さんや父さんへの気持ちよりも、母さんを支えないといけない。それが勝ってました。へは、いまも思うところがあるのは事実ですけど。

 わたしが姉さんへ嫌悪の感情を持ったのは、最近なんですよ?『お兄ちゃんを裏切った』あの時です。ここ最近はあまり思い出すことも、少なかったぐらいです。」

 わたしは子供の頃のことを思い出しながら、そして今の気持ちを口にする。


「……意外ね。翼の件がなければ、私はまだ恨まれてなかったのね」


「姉さんへの悪感情も、いまや派手に自滅して転落した姉さんへの感情が、よく分からないものに変わった気がします。

 ほら?壮絶に失敗した人を見ると、怒りの感情も薄れたりするでしょう?アレですよ、アレ。

 だからいまの姉さんにも『会ってもいいか』と、考えが変わったのです」


 わたしの台詞を聞き、何とも言えない複雑な表情を姉さんはしていた。



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 次回予告:姉妹の会話が続きます。

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