第17話 幼馴染たちの決意表明

 楓の誕生日から続いた激動の日も、今日からは平穏に戻るのではないか?そう俺は考えていたのだ。この日学校に行くまでは。


 昨日はようやく少し眠れていた。

 俺から振ったとはいえ、初恋が終わった直後で……俺は神経が太いのだろうか?


「お兄ちゃん、おはよっ」

 天の呼ぶ声に意識が覚醒していく、そして気づくと、また妹が俺のベッドに潜り込んでいた。

 柔らかなものが押し当てられていた。さらに鼻腔を刺激するのは、同じシャンプーにリンス、ボディーソープを使ってるはずなのに、何故か俺と匂いが違いすぎる妹の甘い香り。

 もうこのまま起きなくていいのではないか?そう思った。だって楽園だしここ。


「だって楽園だしここ」

 あれ?妹が何故か俺の心の声を口にした?


「お兄ちゃん、途中から声が漏れてたよ?そうかぁ~楽園なんだ?」


「それは否定しない。間違いなく楽園だろう?美少女の妹に抱きつかれて起きるとか、お金払ってもいいレベルの楽園だろ?」


「……天の予想では慌てふためくお兄ちゃんを見て、ニヤニヤする予定だったんだけど……なんか違う」


 あ、天が起き上がりベッドから出てしまった!俺から離れていく……


「ほら、お兄ちゃん起きて!朝ごはんできてるよ」

 そしてスタスタと部屋を出て行ってしまった。……たぶん天のあの行動も俺が考え過ぎたり、落ち込んだりしないような配慮が多分に含まれた行動なのだろう。面と向かって言っても誤魔化される気はするが、感謝はちゃんと伝えよう。

 言葉を尽くさないと、分からないこともある。これが俺が学んだ大切なことなのだから。


 初恋の幼馴染は、幼馴染へと関係が変わり、俺の初恋は終わった。

 俺への気持ちを明らかにしてくれた天や茜さんとも、今後は関係が変わっていくのだろうか。

 そして、縁が切れてしまったと思っていた七海や紅葉とも、再び幼馴染としての縁が繋がった。

 みんなの告白をお断りしたのだが、距離感は気にしない方が良いのだろうか?正直、分からない。

 そんなことを思いながら、俺は天の待つリビングへと足を向けた。


 慌ただしくも朝の準備を行い、通学の準備をしていく。そして、朝食を食べ終わり、2人で通学するために家を出る。



 ――――玄関から出るとそこには……


 玄関の前に居たのは、元初恋の幼馴染である久遠楓くおん かえで

「翼、天ちゃん、おはよう」


「おはよう、楓」

「おはよう、楓ちゃん」

 俺たちはそれぞれ挨拶を返す……ん?楓ちゃん?天と楓の距離感が少し戻ったのか?


「また楓ちゃんと呼んでくれるんだね?天ちゃん」

 少し緊張したような表情を見せる楓


「自爆して、玉砕したから、さぞ反省したでしょう?

 お兄ちゃんとちゃんと話をして、ケジメをつけたことだけは評価してあげます。

 さて、少しお話をしましょうか。楓ちゃん」


 天が俺の方へ顔を向ける。

「お兄ちゃん、ゴメンなさい。ちょっと女同士の話があります。

 今日は一人で先に行ってもらえますか?」


「……分かった。じゃあ、先に行くよ。遅刻しないようにな?」

 俺は天と楓を残し、先に学校へ向かうことにした。きっと、俺がいてはできない女同士の話があるのだろうから。




  ――――特にイベントもなく学校に到着。そんなにいろいろあっては身体が持たないのだが、紅葉辺りが待ち伏せしているのではないかと思ったのだ。


 校門の前には、生徒会長 南雲茜なぐも あかねや生徒会の人たちが門の前で挨拶をしてるのが見えた。


「茜さん、おはよう」

「翼、おはよう」

「今日も綺麗だね、茜さん」

「うむ……なっ!?おまえ何を言い出すんだ!!熱でもあるのか?」

 真っ赤な顔をして、バタバタ取り乱すお姉ちゃんが可愛い。

 普段の凛々しい美人生徒会長の姿しか知らない人は、いまの茜さんの姿はいわゆるに映るのだろう。見ている男子だけではなく、女子たちまでも顔を赤くしている。


「お、お姉ちゃんをからかうとは悪い男だ。まったく」

 そう言いながらも嬉しそうだ。この辺りはいつものやり取りなんで、意識して変えなくていいだろう。


「翼、みんなが見てるから早く行くといい」

「うん、じゃあね。茜さん」

 優しく送り出してくれるので、そのまま校舎に入っていく

 ……実際は周りからの視線が痛いので、逃げ出したとも言う。


 

 そんなやりとりの後、俺はクラスへ到着。

 HR開始までは、恒例の南雲大地なぐも だいち城嶋茂じょうじま しげるとの雑談に興じていた。

 そして……HR開始までの間隙をぬって事件が起こる。



 事件の始まりは、ある女子生徒が教室に入ってきたことが幕開けだった。


 入ってきた生徒の名は、久遠楓くおん かえで

 楓を見たのは、あくまでたまたま。大地や茂と話をしながら、なんとなく目がいったのだ。そして、教室に入ってきた楓と目が合い、そして楓は頷いた。


 (ん?なんだ?なんか既視感が…)


 楓は自分の席ではなく、教壇まで歩みを進める。次に教室を見渡しながらみんなに呼びかける。


「みんな、私の話を聞いてください!」

 突然の楓からの呼びかけにみんなが注目する。


(え!?なにこの展開??)


「翼がここでみんなに話した内容だけど、本当は違うの!

 振られたのは翼じゃなく、私よ。久遠楓が振られたの……全部私が悪いの、翼は何も悪くない!私が彼の信頼を裏切って、全てを台無しにしました!」


(え!?楓、突然どうした!!)


 当然ながら教室がざわついていく。


「(なぁ翼、久遠さんのアレは予定にあったやつなのか?)」

「(いや、俺も分からないんだよ、なんで楓があんなこと言い出したのか……)」

 ぼそぼそと大地が俺に問いかける。でも、俺にも答えられない。


 信じられないことに、少し内容はボカシはしたが、概ね誕生日にあった顛末を楓が語ってしまった。

 俺に当日ドタキャンをして、別の男と会ったことなどを……何でそこまで……


 「……でも、私はここで宣言する。また彼に好きになってもらえるように、全力で翼に挑むわ、そして必ずまた振り向かせてみせる!

 これは私の決意表明……私と翼の関係性は以前までと違うと思うけど、みんなにも見守ってほしい。

 ……お騒がせしてゴメンなさい。以上です」

 楓はみんなに向かい頭を下げ、そして静かに自分の席へと戻っていく。


「……」

 ざわついていたクラスが静まり返っている。そしてクラスのみんなの視線が俺と楓を行ったり来たりしている。


(えっと!?俺どうすればいいの???)


「翼、この空気おまえどうするの?」

 大地が聞いてくるが、俺が聞きたい。どうすればいいのだ??


(と、とりあえず……何か言うべきなのか?)

 どうすればいいか分からないけど、明らかに次のアクションを俺に求められていることだけは分かる……俺が動こうとした時に別の人が先に動いた。



「みなさん、私の話も聞いてもらえるかしら?」

 そう言いながら、教壇へと歩いていくのは、クラス委員長 中野七海なかの ななみだ。


「……」

 ここでまたクラス中の視線が七海へと向かう。


(もう何が起きてるのか、俺にも分からない……)


 「……私もここで宣言するわ。私、中野七海は西条翼さいじょう つばさくんが好きです。私は、彼とそして久遠さんとも実は幼馴染なのです。

 そして初恋の人が翼くん。翼くんには先日告白をしたのだけど、私も一度断られてます。でも、一度断られたくらいでは、私も諦めないと決めました。

 だから私も決意表明します。……私は久遠さんにも負けない。翼くんを振り向かせて、私をお嫁さんにもらってもらいます。みなさん、どうか私の戦いを見守ってください。

 ……お騒がせしました。以上です」


「!!!!」


 ……みなが息を飲み、一瞬の静寂が教室を包み込む。そして……


 ――――クラスは爆発的な喧噪に包まれた。俺は当然ながら質問責めにあう。

 当然、俺が先に宣言した内容にも質問が殺到した。俺だけじゃなく、楓も七海も同様だ。この騒ぎは担任が教室に来るまで続いた。


 本来なら楓の暴露で、クラスの関心は楓の語った内容に向くはずだった。それが、直後の七海の行動で塗り替えられてしまった。だが、その結果……


 俺には「二股野郎」なる不名誉な称号がつきそうになった。

 クラスでも影響力のある大地から「しっかりと翼は断っている。それでも諦めずにいるのは久遠さんと中野さんのほうだ。だから、キープしているような二股野郎ではない」と、フォローが入ることで事なきを得る。


(俺は断っているのに、酷い話だ……)


 さらに楓、七海と女子の中でも中心的な役割の2人が揃って俺を庇ったことで、俺のクラスでの立ち位置は守られた。


(結局、楓の立場も悪くはなってないのか?……七海の行動で潮目が変わった気がする。これを狙ったなら七海は……いいヤツなんだろうな)


 しかし、詰め寄られた七海が、ポロリと溢したことで、「義妹」「生徒会長」「楓の妹」にも言い寄られている事実が明らかになった。

 ここで完全に「女の敵」として生命の危機に陥りかけた。だが、騒ぎを聞きつけた「義妹」と「生徒会長」の尽力もあり、なんとか事なきを得る。


(七海!!!!おまえ俺をどうしたいんだよっ!!!!)


 ただし、「」と呼ばれるようになったのだけは、誰にも防ぐことはできなかった。


 ……おかしい。俺は全員の告白を断ったはずなのに。

 俺がこの騒動の真意を知るのは、もう少しだけ後のことだった。



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 次回予告:今回の真相(前編)です。

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