第18話 幼馴染たちの計画(前編)

 えらい目にあった……

 楓と七海の「突然の宣言」に端を発した騒動で、一躍注目を浴びてしまった。

 さらに七海が口を滑らせたことで、義妹・生徒会長・幼馴染の妹までも誑かしたと、クラスの女子一同を敵にまわすところだった。

 七海にはかなり謝られたけど、義妹・生徒会長の介入で何とか落ち着いたようで、さきほどまで敵意を持たれていたと思ってたら、何故か今は優しい目で見られている。


 しかし、驚いたのは楓の行動だ。正直、あんな行動に出るとは思わなかったのだ。

 きっとあれは俺への宣戦布告だったのだろう。俺は楓に「君の気持ちをそのまま信じることができない」と告げた。

 だからこそ、楓は自分の本気を俺に示すため、その第一歩をあのような形でやったのだろう。俺もあそこまでされては、楓の気持ちが嘘とは思わない。

 まあ、楓に再び恋愛感情を持てるのかと言われれば、昨日以降で恋心が消えつつある俺には想像できない未来なのだが……

 でも、いまは楓に限らず、誰に対しても恋愛に踏み出す心境ではないのだ。


 俺は大地、楓、七海のフォローを受け、さらに天と茜さんからも庇ってもらったことで、いまも無事に学校を歩けている。ただし、何故かクラス以外でさえも生暖かい視線を感じる。さらに、気のせいかだろうか?教師からも微笑ましい顔を向けられる。

 一時は、クラスの女子一同だけじゃなく、学園の女子全体までも敵にまわすと思ったのだ。まあ、女子だけではなく男からもだが……

 だが、天と茜さんの介入で、何故か鎮静化が早かったのが救いである。

 まあ、あれだけの美少女たちに言い寄られてるのだから、不名誉な称号「」くらいは甘んじて受けるつもりである。



 ――――そして俺は、今回の件でいろいろとお世話になった「生徒会長 南雲茜なぐも あかね」の元を、訪れていた。

 今日は茜さんと一緒に帰宅する約束をしており、生徒会長室で待たせてもらっている。茜さんは急ぎの確認作業があるとのことで、俺は会長としての茜さんを、のんびりと見ているところだ。


 茜さんは不思議だ。俺が絡まない時には、まさに「」との表現がふさわしい生徒会長だ。

 学園でも男子、女子問わず、さらに下級生や上級生、教師からも絶大な信頼を得ている。そして、その容姿からも当然モテる。まさに完璧な美少女、いや美女女子高生の名は南雲茜なぐも あかねにこそふさわしい。

 さらに常に横にいることが多い、生徒会副会長 松井静香まつい しずかさんも、茜さんに劣らぬ美貌と立ち振る舞いから、特に女子生徒からの黄色い悲鳴が聴こえてくることが、この学園の名物でもある。


「退屈ではないですか?西条くん」

 俺が暇を持て余しているのではないかと、松井さんが心遣いをみせてくれる。


「は、はい。もちろん大丈夫です。

 すみません、忙しいところにお邪魔しちゃいまして」

 実際生徒会は忙しいのだ。

 そんなところにお邪魔してしまい、さらに松井さんの美貌に、しどろもどろになりそうになる。


「ふふ、気にする必要はありませんよ。

 あなたは会長の。どうぞ、ごゆっくりしていってください」

 松井さんがほほ笑む。その美貌だけに見惚れそうになる。


「おいっ、翼!おまえ、静香に見惚れているだろう?

 分かるんだぞ?男たちは、みんな同じような反応を見せるのだ。

 見惚れるなら、お姉ちゃんに見惚れろ!」

 茜さんが仕事をしながらも、ジト目でこちらを軽く睨んでいる。


「茜さんになら、いつも見惚れてるよ」

「!?……クッ!!!!

 お、おまえ~またそんなことを!!」

 茜さんの顔が真っ赤である。


 松井さんがクスクスと笑っている。

「会長と西条くんのやりとりは、やっぱり面白いですね?

 ……会長、そろそろ大丈夫です。西条くんもお待ちですから」


「そうだな……では、そろそろ帰ろうか翼」

 茜さんの仕事もひと段落したようで、片づけをしつつ帰り支度をしていく。


「静香、あとは頼む。今日はお先に失礼するよ」

 片付けた書類を松井さんに預け、茜さんはこちらに振り向く


「翼、待たせた。行こうか」

「松井さん、お邪魔しました」

 茜さんが俺の元へやってきたので、俺も立ち上がる。


「はい。お二人ともお気をつけて。

 西条くんも、また遊びに来てくださいね?」

 俺は松井さんへ礼をしつつ、生徒会室を茜さんと共に後にする。



 ―――――――――――――――

 

 ――――騒動当日の放課後

 幼馴染【修悠館学院しゅうゆうかんがくえん】グループLIINE部屋


 アカウント「xx@sora」が、アカウント「yy@kaede」を部屋に招待しました。


 楓:「この部屋は……今日のことかしら?それに紅葉はいないのね?」


 天:「流石に姉妹の再会がチャットでは嫌でしょう?だから高等部専用の幼馴染部屋を作ったのですよ」


 楓:「ありがとう。配慮に感謝するわ」

 

 天:「ところで楓ちゃん……今日のアレはどうして?」


 楓:「予定とは違ったけど、目的は達成できたでしょう?」


 七海:「確かに結果はそうですけど。私すっごく焦ったんですよ?久遠さん」


 楓:「中野さんのアレは予定通りだったのかしら?」


 七海:「いえ、少し予定と違います。つい久遠さんへの対抗ですよ。でも、嘘偽りない心からの訴えだったので、想定以上の反響でしたね」


 楓:「ありがとう。中野さん」


 七海:「何のことですかね?久遠さん」


 天:「楓ちゃん……まだまだ思うところはありますが、協力には感謝してます」


 楓:「翼と自分のためにしただけ。気にしなくていいわ。」


 茜:「だが、2人がやり過ぎたせいで、一時的に翼に女子たちの敵意が向いたのは焦ったぞ」


 天:「本当ですよ。お姉ちゃんと一緒に、みんなの印象を塗り替えてやりましたけどね」


 茜:「ふふふ……みんなの驚いた顔は見物だったな。予想よりも翼に好意的だしな、私達への反応も悪くはない」


 楓:「私たちもやり過ぎたかもしれないけど、印象操作はうまくいったと思うわ」


 七海:「そうですね、私と久遠さんでクラスはすぐに対応できました。これで少なくとも、翼くんへの印象もはかなり改善できましたね」


 天:「そうですね、天たちへの印象も想定通りですね。これで動きやすくなるでしょう」


 楓:「全員ライバルの認識だったのだけど、ずいぶん協力的なのね?みなさん」


 天:「お兄ちゃんのために協力する。それが何か変ですか?楓ちゃん」


 楓:「いえ、翼のためならば私も協力は惜しまない。もう失敗はしたくない。

 それにこの状況は、私にとっても有難い状況だからね」


 茜:「うむ、では私はそろそろ翼と約束があるから、抜けるぞ?」


 天:「はい。ではお兄ちゃんのことはお願いしますね」



 ――――この日以降、修悠館学院しゅうゆうかんがくえん内で翼は、生暖かい目で見られることになる。



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 次回予告:次回真相が明らかに

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