第8話 後輩ちゃんも幼馴染だった
「……マジか。あの紅葉ちゃんか……立派になったな(特に胸が……)」
思い出されるのは、子供の頃の記憶……
彼女は、久遠楓の妹。当然ながら、俺や天とも面識があり、子供の頃にはよく遊んでいた仲なのだ。
確かに、よく天と紅葉ちゃんは、一緒にお兄ちゃん、お兄ちゃんと、俺を慕ってくれた。当時は家族になったばかりの妹の天と、天使のような紅葉ちゃんにデレデレだった記憶がある。
その後小学4年頃だったか、久遠家も両親が離婚。姉の楓は父に引き取られてここに残り、妹の紅葉は母に引き取られて遠くの地へと、姉妹は離れ離れになっていたのだ。
子供の頃、突然紅葉ちゃんがいなくなったのに戸惑った。
詳しい事情は、姉である楓も教えられていなかったそうで、楓にも急な別れになったそうだ。
両親同士では前から話があったのかもしれない。でも子供には唐突すぎる別れだった。その別れからずいぶん経つが、俺はこの子を知っていた。扱い方も知っていたのだ。だからこそ、心地よいやり取りができたのだ。
でも、姉と絶縁したその翌日に、その妹と再会って凄いな……
流石に姉である楓と絶縁した件は、話をしておかないと駄目だろう……ちょっと言いにくいが、避けては通れない話題だから仕方がない。
「あ~紅葉ちゃん、実はな……」
俺は昨日あった出来事を、包み隠さず話すことにした。どうせ姉と会うことがあれば容易に分かることだからだ。
……静まる保健室。軽快なやり取りで生じた緩やかな空気感は、きれいになくなってしまった。
「……なるほど、楓姉さんもロクなことしないですね。
例え何かしらの理由があっても、わたしは楓姉さんに同情はできません。
まあ、絶縁とは思い切りましたね。でも、お兄ちゃんの気持ちの問題なんで、わたしが何か言うことではありません。
これからは、わたしが幼馴染として癒やしてあげますよ、お兄ちゃん?
(お兄ちゃんには残念だったかもしれないけど、もう楓姉さんに遠慮しなくていいですよね?あなたが悪いんですからね。もう、わたしの気持ちは、抑えなくてもいいんですね……)」
最初は考え込んでいた紅葉ちゃんが、段々ニヤニヤと悪い笑顔になってきた。あれ?予想と反応が違うのだが……
「紅葉ちゃん、俺と楓が絶縁してショックとかはないの?」
予想外の反応に、俺は少し戸惑うのだが……
「完全にとは言えませんが、お兄ちゃんが気にする必要はないですよ。
そもそも楓姉さんとは、あれから会ってませんしね。
ちょっと、両親の離婚の時にひと悶着ありまして……別れた父と姉とは、ずっと疎遠なんです。
……わたしと母は、父に捨てられたんですよ。楓姉さんが悪い訳ではないですけど、やっぱり思うところが全くない訳じゃないと言うか、つまり楓姉さんとわたしの関係は、いまは切れてしまってるんですよ。
何の説明もないまま、突然に姉妹を引き離されました。しばらくはロクな説明もないままでしたよ。
あの時は、母と一緒に少しのあいだ遠くへ行くだけ。と言われていたのです。だからお兄ちゃんとも、ちゃんとしたお別れができなかったんですよね」
手を振りながら気にしないでいいと、態度で示す紅葉ちゃん。
急な別れになったけど、久遠家も色々あったらしい。
大抵は大人の都合に子供が振り回される。子供には拒否権もないから、子供の人間関係などは、基本的に大人にはガン無視される。
「そういえば、わたしがお兄ちゃんの上に落ちてきた話をしてませんでしたね?
あれはね、お兄ちゃんを探していたのですよ。高等部の校舎に入る訳にも行かないから、2階にある1年のクラスを、木に登ってお昼休みに見張っていたのです。」
紅葉ちゃんは中庭の方を見ながら話を続ける。
「わたし、この春から中等部に転校してきたんですよ。
母と再婚した父の仕事の都合で、またこの街に来ることが出来たんです。
お兄ちゃんと天お姉ちゃんには会いたかったので、落ち着いたら探そうと思ってたんですけど、この前高等部のテスト結果が貼り出されたでしょう?
お兄ちゃんと、天お姉ちゃんの名前を見つけたので、探す手間が省けました。
(ついでに楓姉さんの名も見つけたけど、そっちは言わなくていいですね……)
まさか、まさかの同じ学校とは驚きました。これは運命に違いないと!
そうなると、やっぱりお兄ちゃんを一目見たいじゃないですか?
だから、わたしは木に登ってしまったのですよ!そこに木があって、登れば1年のクラスが見えるのですから、そりゃ登るでしょう?
しかも初日で奇跡の再会!これこそ運命ってやつですね!結婚しましょう、お兄ちゃん」
フンスと、鼻息荒くドヤッとしている。
「う、うん。結婚はよく考えようか、紅葉ちゃん
……しかし、それで俺の上に落ちてくるとは、凄い偶然だな?
でも、紅葉ちゃんに怪我がなくて良かったよ、俺がクッションの役割を果たせたのなら良かった」
「本当にありがとうございます!お礼に結婚しましょう!
実際、お兄ちゃんのおかげで、わたしは怪我もなかったんですから」
嬉しそうな笑顔でお礼を言う彼女を見たら、怪我がなくて良かったと本心から思う。彼女も俺の大切な幼馴染だから。
しかし、紅葉ちゃんは、ガンガン攻めてくるな?まあ、嬉しいけど……
その後、俺たちはLIINEを交換。
そろそろ俺は家に、紅葉は中等部に戻ることに……
「あ、そうだ!お兄ちゃん、わたしのことは紅葉と呼び捨てにしてください。
私はもう中3、つまり立派な淑女。ちゃん付けは卒業なんですよ」
(いや、いや、中3で淑女って……何を言ってるの?)
「えーっと、そうだな。じゃあ紅葉、これからもよろしくな」
「はいっ!今度お兄ちゃん家に遊びに行きますね!天お姉ちゃんにも会いたいしね」
「あぁ、是非来てくれ。じゃあ、またな」
こうして俺と紅葉は久しぶりの再会を果たしたのだ。
今日は幼馴染の七海とも再会したし、幼馴染との再会ラッシュだ。
もしかして、まだまだ再会あったりしてな?
そんなことを考えながら、恐らく七海が用意してくれたのだろう。ベッドの脇に置いてある鞄を手に家に帰ることにした。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★3を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援、わたしのユーザーフォロー大歓迎です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます