第30話 幼馴染たちの想いで(妹・後編)

 しばらく逃げ続けるも、天は追い詰められる……こ、こうなったら、やってやる!


 天はイチかバチか相討ちを狙って、玉砕する覚悟を決めた……その時


「お兄ちゃん、あの子たちだよ!!」

「よし、任せとけ!」


 男たちは天に襲い掛からんとしている。そこへ一人の男の子が、いや王子様が颯爽と現れた。


「おまえら!俺の妹分をいじめたな!!」


 その王子様は、走ってきた勢いのままに体当たり。身体の大きい小学生を吹き飛ばしてしまう。

 それからはあっという間だった。2対1で身体も小さいのに相手の子たちはあっという間に王子様に追い散らされてしまった。


 それからは夢の中にいるように、ぼぉーっとしてしまった。

 まるで絶体絶命のピンチに王子様が颯爽と現れて、天をお姫様のように救ってくれたのだから。

 胸がドクドクいっている。ドキドキする……こ、この高鳴る高揚感はなんだろう。


「いやぁ~『ききいっぱつ』でしたね、お姉さん」

 いつの間にかいなくなっていたが戻ってきていた。

 きっと、この王子様を呼んでくれたのだろう。いつの間にか一人で逃げたな!と疑ってしまった。


「大丈夫みたいだね?気をつけなよ。

 君みたいなを追いかけていじめるなんて、あいつら最低だな」


 !!その言葉に有頂天になってしまう。


「じゃあ、かえでちゃんを待たせてるから、俺は行くね?」

 あ、王子様が去って行ってしまう!!!!

 で、でも、でもこの公園に来たらまた会えるのではないか?そう思った。


 さっそくまたもアスレチックで遊び出したちびっこに聞いてみる。

「ねえ、さっきの王子……ん、男の子はよくこの公園には来るの?」


「お兄ちゃんですか?来ますよ~わたしとお兄ちゃんとお姉ちゃんの3人でよく来るのです!」

「そ、そうなのね(よし、またこの公園に絶対に来よう)」

 天は王子様との再会を決意した。

 でも、今日はいろいろ疲れたから、お家へ帰ろう。


「お姉ちゃんは帰ろうと思うけど、あなたは一人でも平気?」


「大丈夫ですよ~もうすぐお姉ちゃんも戻ると思いますしね

 じゃあ、お姉さん。いろいろとありがとーございました」

 ペコリと頭を下げてお辞儀するちびっこ。


「じゃあ、またね!」

 きっと、この子ともまた会えるだろう。そう思って「またね!」と挨拶を交わして、天はその場を立ち去った。



「ふぅ~今日1日ここはわたしの『かしきり』なのに、さっきの子にも困ったものです。1回だけ遊ばせてくれだなんて。ダメに決まってるじゃないですか。『かしきり』の意味も分からない『おこちゃま』はこれだから困るのですよ」


 立ち去り際に「不穏」な言葉が聞こえた……

 あれ?天は正しいことをしたのだろうか?ま、まあ、子どもが深く考えても仕方がない。気にしない、気にしない。

 そう言い聞かせて、王子様との再会を期待しながら小戸公園をあとにした。


 皐月天さつき そらの「初めての西区ご近所探検」は終了。王子様との素敵な出会いに舞い上がり、当初の目的を忘れていたのだった。




 ――――そして1ヶ月後に奇跡の再会を果たした。


 天にお兄ちゃんができた記念すべき日。

 そして淡い初恋は、数日後に久遠楓を紹介された時に一旦幕を閉じることになる。

 そして、腹黒なちびっこ久遠紅葉とも再会したのだった。


 それから天は姉ではなく、妹としてずっと、ずっとお兄ちゃんと一緒にいる。

 ちょっとエッチだけど、優しく強く家族思いのお兄ちゃんのことが変わらずに天は大好きだ。最初に会った時からずっと。



「……えっと、天ちゃん。チョロいですね?」


「何言ってんですか?女が恋に落ちるなんて一瞬もあれば充分でしょう?」


 七海さんが失礼なことを言ってきた。

 まあ、きっかけは些細なものでも、お兄ちゃんと今も続く絆によって、天の初恋はずっと、ずっといまも続いている。

 だって初恋は閉じただけ。一度もなくした訳じゃないんだから。


 お兄ちゃんが天に向けてくれたのは、紛れもなく家族愛なのだろう。妹として家族を全力で大切に守ってくれた。そして信頼してくれた天も、ママのことも。全力で家族として受け入れてくれた。

 お兄ちゃんにとっては、全力で家族を愛してくれただけなんだろう。でも天は女の子として、それを受け止めてしまった。

 初恋を諦めたからって、恋が終わるわけじゃない。そんなに愛情を好きな人に注がれたら、それが家族愛だって、こちらの恋を燃え上がらせる燃料になってしまう。お兄ちゃんにはそれが分からないから、天の恋は燃え上がるしかなかったんだよ?お兄ちゃん。




 ――――翼は驚いた。

 顔合わせ前に天に会っていたなんて……でも、いまの話をきっかけに思い出した。

 確かにあの公園で小さな女の子に出会ったことを。紅葉が慌てて呼びに来て、助けた女の子。


 

「本当にあの時、天に何もなくて良かった。

 大切な家族になる妹を助けることができて、そして天の思い出も笑顔も守れて良かった」


 天を見ながら感謝を伝える。

「天、俺の妹になってくれてありがとう。俺と家族になってくれてありがとう。

 そして、俺を好きでいてくれてありがとう」


 俺はどうしても天に感謝を伝えたくなった。



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 次回予告:ようやく遊びに行きます!

 もしかしたらゲスト参戦あるかも?

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