第31話 幼馴染たちと遊びに行こう(1)

 楓との絶縁に端を発した激動の1週間が過ぎた。

 そして翌週。今週は平穏無事な学園生活を送れている。

 既に金曜日の登校も終わり、明日はいよいよ幼馴染たちと遊びに行く日となった。

 このメンバー全員で遊びに行くのは初めてのことだ。しかし、今回遊びに行くメンバーに楓は入っていない。これは本人の申し出によるもので、今回は辞退となったそうだ。

 まだ遠慮があるのかもしれない。あの出来事から2週間も経っていないのだから。



 ――――そして翌日

 ついに遊びに行く当日となった。

 何故か天とは別行動である。一緒に行けば良いのに現地で待ち合わせをしたいらしい。

 これは現地でデートの待ち合わせをする再現をしたいそうなのだ。

 みんながデートとして楽しみにしていると聞いてるので、日ごろの感謝も込めて俺も彼女たちが楽しく過ごせるように、彼女たちが望むなら徹底的に付き合うと決めている。


 遊びに行く場所は「マリンワールド」

 地元民自慢の水族館である。

 俺は水族館が好きだ。あの清涼な雰囲気と、様々な海洋生物の展示も見ていて飽きない。

 さらにイルカショーをはじめとする各種イベントなどもあり、1日中楽しめるスポットなので楽しみにしていた。


 マリンワールドへは交通アクセスも良い。俺は天神からバスに乗るべく、天神の街をバス乗り場へ向けて歩いて行く。

 この街はコンパクトにまとまりつつも、最先端のショップも多い。東京に行かずとも天神さえあれば福岡県民は困らないのではないか、俺はそう思っている。


 ただこういう繁華街には人も多く集まるため、変な輩も自然と増えてしまう。

 ……



「なぁ、俺たちと少し遊ぼうぜ?」


「ワタシは行くところがあるのです。これ以上ワタシに構わないでください」


 見れば凄まじいレベルの美少女が、2人の男たちに絡まれている。


「俺たちに付き合えば、その行きたいところに連れてってやるぜ?」

「その前に俺たちと休憩しちゃうかもしれないけどなぁ」


「ふざけないで!アンタたちに用なんかないのよ!」

 あの美少女もうんざりしてるのか、言葉が荒くなってきた。


 ……あぁ、周りの連中も見てるだけか。いい加減誰か入らないと危ないかもな。

 ここで俺は介入を決意した。ナンパ野郎も断られたら諦めろよなぁ……あの美少女のレベルが高すぎて諦めきれないのかもしれないが。


 その美少女は外国の女の子である。

 輝くような金髪に綺麗な碧眼。さらにスタイルまで抜群、その整った顔立ちはまるでモデルさんのようだ。まさに美人としか表現できない絶世の美少女である。将来的には傾国の美女とも呼ばれるようになるかもしれない。

 金髪をツインテールにしており、怒りのあまりツインテールも荒ぶって見える。


「なぁ、お兄さんたちその辺にしときなよ?そこの女の子も嫌がってるだろ?」

 女の子とナンパ野郎たちの視線が俺に向く。


「おい兄ちゃん。女の子の前だからってカッコつけてないで消えな」

「そうそう、お呼びじゃねえんだよ」


 女の子は困惑したように俺を見ている。

「君、あとは俺が受け持つから、行って大丈夫だよ」


「……えっと、大丈夫なの?アナタ」


「心配しなくていいよ、大丈夫だから」

 俺は女の子に立ち去るように促す。


「おいっ!何勝手なことしてやがる」

「てめえ、痛い目にあいてえのか」



 ……割愛するが、ナンパ野郎たちには穏便に立ち去って頂いた。

 軽く、軽くあしらってあげただけ。流石に勝てないとわかったうえに衆人環視の中、周りの視線にも耐えられなかったらしい。

 連中はもう、天神ではナンパなんかできないだろう。



 ――――さて、バス乗り場へ行くか。確か郵便局前だったか。



「……ねえ」

 歩き去ろうとしたところ呼び止められた。

 さっきの美少女が、結局立ち去らずに近くで様子を伺っていたらしい。


「ありがとう。アナタのように勇敢な人もいるのね。

 ワタシの美貌に見惚れたナンパ男ばかり寄ってくるから困ってたです」

 美少女が頭を下げてお礼をしてくれる。


「あぁ、大丈夫だよ。ただの通りすがりだからね」

 気にしないでと手振りで伝える。


「それで悪いんだけど、アナタにデンシャを尋ねたいの。いいかしら?

 ……ニホンのデンシャはフクザツね」


「いいよ。何処に行きたいんだい?」


「ダザイフテンマングー(太宰府天満宮)に行きたいの」


 あぁ、それならと、

 電車での行き方を教えて福岡駅のホームまで送ってあげる。


「サンキューね~」

 美少女は手を振りながら電車に乗り込んで行った。


 そういえば自己紹介もしないままだったけど、もう会うこともないだろう。

 しかし、美少女に慣れた俺ですら驚く美少女だった。



 ……あ、やべえ。意外と時間に余裕がなくなってしまった!

 俺はバス停に急いで移動、マリンワールドへ向かうバスに慌てて飛び乗った。



 ――――そして、翼を追ってバスへと乗り込む人影が一人。目深に被った帽子で表情を隠し、その表情を伺うことはできない。




 ――――――――――――――――――

 

 side:???


 オトコはみんなワタシに下心をもって近づいてくる。

 ワタシが美しすぎるのが原因だ。それは分かっているがうっとおしい。これは祖国でも、このニホンでも同じだ。

 ニホンのオトコはもう少し硬派と思っていたが、さっきのナンパ男はサイアクだった。

 思わず手が出そうになった……ニホンでは清楚なイメージで通す予定が、早くも崩れるところだった。


 だが、さっきのカレはなかなか見どころがあった。ワタシの連絡先も聞かなかったし、誘っても来なかった。

 これは大変に珍しいことだ。大抵のオトコはワタシと繋がりを持とうと必ず誘いをかけてくる。

 名前すらも聞かず、下心も見せなかった。これはワタシに関わる異性の対応としては異例だ。


 ワタシが通うハイスクールにもカレのような人ばかりだといいのだけど……



 ――――――――――――――――――

 次回予告:ようやく水族館編です。

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