第32話 幼馴染たちと遊びに行こう(2)
マリンワールドは、館内に魚類の他にイルカ、ゴマフアザラシ、ラッコ、ウミガメなど多彩な海洋生物が多く展示されており、イルカやアシカのショー、巨大なシロワニが泳ぐパノラマ大水槽が有名な福岡が誇る水族館である。
金髪美少女をナンパ野郎から助けたりして、時間はギリギリになってしまったがようやくマリンワールドへ到着した。
入口で待ち合わせと聞いていたが……みんなの姿はまだ見えないようだ。
……あれ?どうしたのだろう。
約束の時間までにはあと5分ほどあるのだが、みんなの性格的に誰も来てないとは思えないので、場所を間違えたのだろうか?
俺が天に連絡を取ろうと考えていると、
「待たせたな、翼」
呼びかけに振り返ると、トレンチコートを羽織り、可愛らしいサテンスカートで決めた少し大人びたファッションに身を包んだ茜さんが、輝くような笑みを浮かべて立っていた。
「……」
「ど、どうした?翼、じっと見つめられると私も困るのだが……」
「あぁ、ゴメン。あまりにも茜さんが可愛くて見惚れてしまったんだ」
「なっ!!……バ、バカもの。年上をからかいよって」
「いや、心からの本心だよ。本当に可愛いよ、茜さん」
「……あ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
元々凄い美人さんの茜さんが、ほんのりと朱に染まる笑顔を見せると破壊力がすごい。実際に周囲に被害が出始めている。カップルも多数いるが、茜さんに見惚れる男たちが続出している。それにともない連れの彼女さんたちから、責められる人が各処に見受けられる。
「ところで、みんなの姿が見えないけど遅れてるのかな?」
周囲を見ても茜さん以外は見当たらないようだ。
「あぁ、最初は私なんだ。他のみんなは既にマリンワールドの中だよ」
「……え?どういうこと?」
「今日の予定はな、翼……」
ここで茜さんから本日の特殊ルールとやらの説明を受けることになった。
聞いた内容を要点でまとめるとこうなる。
本日は全員で行動する全員パートと、個人と俺の2人だけで行動するデートパートの2パターンがあるらしい。
女の子たちの方で入れ替わったり、集合したりするので、俺はあまり気にしないで楽しんでほしいとのことだ。
「……えっと、とりあえず理解はしたんだけど。
俺は接待を受けてるようで落ち着かないんだけど……」
「すまん。完全に私たちの都合でこうなった。
悪いのだが、今日は私たちに付き合ってもらえないか?」
「……みんなはそれでいいの?せっかくみんな集まってるのに」
「あぁ、私たちがそう選んだんだ。やっぱり少しはデートもしたい……だ、ダメだろうか?」
茜さんが不安そうに上目づかいでこちらを見てくる。その上目づかいは破壊力が高いのでやめて欲しい……
「いや、今日はみんなと楽しく過ごしたいと思っていたんだけど、みんながそれが一番いいと言うのなら俺はいいよ」
まあ、俺もそれぞれとゆっくり話をしたいと思っていたし、それでみんなが喜んでくれるなら、変な感じではあるけど付き合おうと思った。
「そうか!ありがとう。
では、さっそくだが行こうか?」
茜さんが笑顔で手を差し出すので、俺はその手を握る。
俺はデートとは意識しないようにしていたが、今日1日はデートとして意識することになりそうだ。
――――マリンワールド内
俺たちは手を繋ぎつつ館内を見て回る。
楓以外とこのようなデートと言えるようなことをするのは、初めてなので少し落ち着かない。妹の天と2人で遊びに行くことはもちろんあるが、あれは俺からすると兄妹で出かけている感覚だったので、デートと意識するとやはり落ち着かない。
失恋の直後にこれでいいのか?と思わなくもないが、嬉しそうな茜さんを見ればこれでもいいかと思えてしまう。
俺はこの後も茜さん以外の女の子とも、いわゆるデートをすることになる。正直やってることは比喩でも何でもなく「ハーレム野郎」と罵られても文句が言えない。
しかし、今日の主役は俺ではなく、彼女たちだと思ってるのでクズと思われようとも、俺はみんなに付き合おうと思っている。
ここで少し気になることがあるので聞いてみようか。
「ねえ、茜さん」
「どうした?」
薄暗く九州近海に生息する魚たちの泳ぐ水槽を見ながら尋ねてみる。
水族館はほのかに薄暗く、周りは水に反射した光がカーテンのように揺らめき、暗さも相まって神秘的な雰囲気だ。
水族館はムードもありデートスポットとしてはピッタリの場所だなと思っている。
「思ったんだけど、他の人と見て回るところって被らないのかな?
俺はいくらでも付き合うんだけど、全員このマリンワールドだけで行動するなら、見て回る展示も被るなぁと思って」
「それは大丈夫だ。それぞれ翼と一緒に行く場所は予め打ち合わせ済だ。
それにランチを食べる時にみんなと合流するが、今日はマリンワールドだけじゃなく、この海浜公園全体を遊び尽くすつもりだ」
「なるほど。じゃあ、他のみんなもマリンワールド内に居るの?」
「あぁ、私たちと見て回る順路が被らないように、いまも館内を回ってるんじゃないかな」
ずいぶんとみんな用意周到のようだ。でも、それだけ楽しみにしてくれてるのは嬉いものだ。俺も彼女たちに報いるためにも楽しんで欲しい。
そのためには、彼女たちに合わせるだけじゃなく、俺と彼女たちが一緒に楽しめるように気持ちを切り替えよう。一方通行の想いでは駄目だと理解したばかりなのだから。
確か茜さんの好みだと……
ゆっくりのんびり見て回るのが好きなはず。あとはここだと「アレ」が好きなはずだから、あそこは長めに時間をとろう。
意識を切り替えてみると、茜さんは俺のペースにあわせて展示を見ている。常に主が俺になっている。彼女たちに合わせるはずが、まるっきり逆じゃないか。何を見てるんだよ、馬鹿か俺は!
「茜さん。ゆっくり、のんびりと見て回りましょう。2人で楽しみながらね」
「!……あぁ、そうだな。うん、そうしよう」
茜さんは、とびきりの笑顔で応えてくれた。
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次回予告:茜さんパート続きます
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