第33話 幼馴染たちと遊びに行こう(3)
やはり茜さんは俺に合わせてくれていたようだ。
茜さんのペースに合わせるように、展示を見て回るペースを落とすと楽しそうに水槽を見ている。
茜さんは動物好きなんで、海の生き物たちも好きなようだ。茜さんにも楽しんでもらいたかったので、早めに気づけて良かった。
さて、そろそろ茜さんの好きなあの動物ショーの時間が迫っている。
「茜さん、あちらでショーが始まるようです」
「うん、行こうか。もちろんあのショーはチェック済だぞ」
やはり事前に調べていたようだ。
茜さんが好きな動物『ペンギン』のお散歩である。
館内を歩いていくペンギンの後を追って歩く茜さんが可愛い。
普段が凛とした美人なだけに、意外かもしれないが、茜さんは可愛いもの好きだ。
周りからクールな美人と見られ、茜さん自身も周りからの目を意識した行動を取るので、実は可愛いものが大好きな女の子であることをあまり知られていないのだろう。
そしてペンギンの館内での散歩が終わり、少し休憩しようとなり、休憩にも使えるカフェスペースで一息つく。
「そういえば俺、茜さんに聞いておきたいことあるんです」
「ん?何でも聞いていいぞ」
「知っておきたいんです。茜さんが俺を好きになってくれたきっかけを」
「……な!?こんなところでか。むぅ……いや、聞いてもらういい機会でもあるか」
茜さんが佇まいを正し、俺に向き合う。
「たいした話ではないかもしれんが、聞いてくれ」
――――――――――――――――――
小学生の頃の私は、髪も短く言葉遣いも行動もやや男のようだった。
女の子同士で遊ぶよりも、男の子と活発に遊ぶのを好んだ。
翼のことも、弟の大地を同じ弟のような存在と認識していた。
大地が私に構われるのを嫌がる分、慕ってくれる翼をより可愛がっていたように思う。この認識が変わるきっかけは些細なこと。確か小学6年の時か、本当に些細なことだった。
ある時、私は怪我をした。顔に小さな傷を負った。本当に小さな傷だった。
周りの子たちは、唾でもつけておけ。洗っておけばいい。そんな反応だ。
私もそうだった。でも、翼だけが違う反応を示した。
「お姉ちゃんの顔に傷が残ったら大変だよ。だからちゃんと手当しないと」
「ん?大丈夫、大丈夫。こんなもの傷が残ったところで、たいしたことないから」
「駄目だよ、お姉ちゃんは女の子なんだよ。しかも、とびきりの美人さん。
ほら、手当に帰ろう?」
当時小学5年の翼が、私の手をひき家へと連れ帰る。
私は自分が何を言われたのか、よく分からなかった。
初めて、生まれて初めて言われた言葉『とびきりの美人さん』
この言葉が脳裏から離れなかった。
私は周囲からも男のような扱いを受けていた。思えば親からも男である大地と私でさほど差のない扱い。まあ、小学生なのだからあまり男女差もないのかもしれないし、うちの家が大雑把だったのかもしれない。
そして、よく見てみると気づいたことがある。
周りにいる男友達では、翼だけが私を『女の子』として扱ってくれていたことに。
翼は明確に男女で扱いに差をつけていた。言葉遣いにも気の遣い方にも。
妹である天や幼馴染である楓、その他女の子の友達と、男の子友達では扱いに差があった。
翼が私を女の子として扱ってくれているのも、思えばずっと昔からだった。
少しずつ男女で差が出る年齢になる前から、私を女の子として扱ってくれていた。
私が自身を本当の意味で『女』として意識した瞬間が、翼の一言からだったのだ。
そして中学生になる。私は髪を伸ばし始めた。身だしなみにも気を使うようになった。そして、言葉遣いも女の子らしくなった。
あわせて身体つきも少しずつ女性の特徴が出てきており、小学6年と中学1年の私を比べると別人ではないか。そう思えるほどに容姿が変化した。
ここで周囲に変化が生じる。やはり男女を意識しだす年齢になってくるのもあるが、今まで私を男のように扱っていた周囲が、私を女として扱うようになった。
これまで接点もなかったような人たちが、私を女として扱い意識してくる。
今まで女として扱わなかった男の友人たちが『昔から好きだった』などと言ってくる。
顔も名前も知らない男から、告白を受けるようにもなった『好き』ですと。
私は思った。所詮容姿だけかと。私の本質ではなく、見た目の容姿に言い寄る男たちに私が応えるはずもない。
大地ですらも、私を女として扱う意識が変わったように思う。
そんな中で、今も昔も変わらず私を『女』として扱ってくれた唯一人の人、それが翼だった。
彼だけは男っぽい私も、女らしくなった私も区別しない。最初から女の子として扱ってくれた。女の子として見てくれた。
そして周囲の変化をきっかけにして私は翼への想いが、弟から男へと私から翼への意識も変わっていることに気づいた。
翼を目で追う機会が増えた。何の意識もしなかったのに手を繋ぐ、抱きしめる、翼と話をするだけで、いままでとは違う気持ちが溢れてきた。
その想いの正体、これが『初恋』と言うものかと漠然と分かった。
でも私は『初恋』の想いを封じた。翼には楓がいたから。翼が楓を好きなのは分かっていた。楓もあれほどの独占欲を示すのだから、当然翼が好きなのだろう。
だから私の『初恋』は封じられた。いつか私も誰かに恋をするのだろうか?そう思いながら気づけば高校2年。私の『初恋』は色褪せずにそのまま。そして運命のあの日に私は『初恋』の封印を解いた。
もう我慢するのはやめよう。この想いと向き合おうと決めた。
そして私は翼に告白して今に至る。
――――――――――――――――――
「まあ、こんなところだよ。私が翼を意識したきっかけは。
女の子として扱われたことが嬉しくて、私は女としておまえを男として意識するようになった。
一度意識すると、おまえの優しさや気遣いが嬉しくてな。例えそれが私だけに向けられたものでなくても、とても嬉しかったんだ」
「……昔から疑問に思ってたんだよ、何でみんな茜さんを男のように扱うのか。
出会った時から、茜さんは素敵な女の子だった。
本当は可愛いものが大好きで、本当は可愛い服を着たがっていたとか、本当は虫やオバケが苦手だったり、あとは友達でも男に触られるのが嫌いなこととかね。
俺は子供の頃から茜さんより弱かったけど、それでも女の子として男の俺が何かあったら守るんだって思ってた。だから茜さんが嫌なことを我慢してそうな時は何かできたらと思ってたんだ」
「あぁ、最初は気づかなかったよ。
私が翼へ向ける意識が変わってから、さりげなく私が嫌だと思ってる時は守ってくれてたな。
子供の時、男の友人たちが私に触ろうとしてる時や、虫なんかが寄らないようにしてくれたり。
あとは、昔オバケ屋敷の中でもずっと守ってくれたな」
茜さんが俺に振り返り告げる。
「翼は、私を『女』として意識させた初めての異性なんだよ。
今も昔も唯一人の異性なんだ。私にとっては特別なんだ。私を守ってくれた優しいおまえが好きだ。
今も昔も変わらずに、私はおまえが大好きだ」
そのまま茜さんに抱きしめられる。
「ほら?私の胸のドキドキが伝わるか?
……うっ、は、恥ずかしいものだな」
茜さんが顔を真っ赤にして離れてしまった。
俺はその台詞を聞いてから、抱きしめられてから、茜さんの顔を見てからドキドキが止まらない。
そうか、俺は姉のように慕っていたけど、俺も茜さんを女性として意識してたんだな。
なんだ同じじゃないか……いつからなのか、最近なのか、前からなのかは分からないけど、確かに俺は茜さんを女性として意識している。
(……あ、あれ?この感じは……)
「……ありがとう。本当にありがとう。
ずっと、ずっと俺を想い続けてくれてありがとう」
「おや?すぐに断りはいれないのか?」
「……嬉しくてさ、初めて告白された時も嬉しかったけど、何かいまは受け入れられないって言葉ではなく……真剣に考えさせてほしい。
いま俺から返せる言葉はこうかな」
「……フフフ、みんなには悪いがお姉ちゃん一歩リードかな?」
そう言った茜さんは輝くような笑顔で、俺に笑いかけていた。
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次回予告:次は委員長の出番です
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