第29話 幼馴染たちの想いで(妹・前編)

 side:西条天さいじょう そら


 七海さんの話を聞き終えた。

 なるほど、お兄ちゃんが拗らせていた頃の懐かしい話だ。ヤンチャだった頃のお兄ちゃんに、七海さんは撃ち抜かれたらしい。


 お兄ちゃんは七海さんの話を聞いて、まだ悶えている。どうやらお兄ちゃんには、黒歴史に近いエピソードだったらしい。

 あのエピソードが、個人的に中々ポイント高いと感じるのは、天自身もお兄ちゃんに惚れてしまったゆえかもしれない。


「あの…天ちゃん?」

 エピソードを語り終えた七海さんが、天の反応がないことを気にしてしまったらしい。


「あぁ、すみません。ちょっと七海さんの昔話が懐かしくて」

 さあ、次は天の番か。……やっぱりお兄ちゃんとの出会いですかね。


「天の話はいつ頃の話なんだ?」

 あ、お兄ちゃんが復活したようだ。


「そうですね、これは天とお兄ちゃんが初めて会った時の話です」



 ――――そして、私は語る。

 あれは母が再婚した小学1年の時……よりちょっとだけ時を遡る。


 天がお兄ちゃんに初めて会ったのは、再婚の顔合わせより、少しだけ前のお話。

 きっとお兄ちゃんは覚えていないお話。



 ママが再婚する。その話を聞いた時は「?」としか思わなかった。

 何故なら家族が増えると言われても実感が湧かないからだ。天にとって家族とはママだけを指す言葉である。

 ママはいわゆるシングルマザー。天は生まれた時からママしか知らない。最初から父親がいないから、家族が増えると言われてもピンとこない。


 反対だった訳ではない。あくまでも想像が追いつかないから、その話があった時にも無反応だっただけ。

 でも、無反応さがママを不安にさせてしまったらしく悲しそうな顔をさせてしまった。

 天は子供ながらに慌てて尋ねてみた「新しく家族になる人ってどんな人?」って。

 やっと反応した天に気を良くしたのか、いろいろと教えてくれた。


 名は西条司さん。そして、天と同じ年の男の子がいて名前は西条翼くん。

 うーん、実感が湧かないけど、同じ年齢の男の子がいるなら天はお姉ちゃんになるのだろうか?

 天は小さいながらもママの手伝いもしてるし、小学校のクラスで一番オトナだ。クラスのみんなは天から見ればまだまだ子ども。つまり同じ年なら、天がお姉ちゃんとして頑張らないといけないだろう。


 そして西条家はすぐ近くのようだ。つまり西条家に引っ越しても、小学校は変わらない。友達とのお別れの心配もない。それが一番ホッとした。

 西条家は同じ西区だけど、天が行ったことのない地区みたいだ。

 よし、引っ越しをする前に一度近所まで行ってみよう。家からも近いし、1人で行っても大丈夫だと思ったのだ。


 そして、再婚の話を聞いてから最初の土曜日に、皐月天さつき そらの「初めての西区ご近所探検」が開催された。



 ――――西区、西条家近郊。


「迷った……?」

 おかしいですね。その辺の小学1年ならともかく、天が迷子とかあり得ません。

 とりあえず目印になる小戸公園おどこうえんと言う名の公園には辿り着きましたが、ここから西条家へはどう行くのでしょうか?

 住所だけ聞けば行けると思っていた。さらにこんな大きな公園が目印としてあるのに。これで西条家へ辿り着けないとは思っていなかったのだ。

 こんな時にママが持ってるようなスマホがあれば苦労しないのだが、ないものは仕方ない。そもそも急ぐわけでもない。約束がある訳でもない。せっかくの広くキレイな公園なのだから、少しのんびりとしようか。


 しかし西区にこんな公園があるとは知らなかった。今度はママと来たい公園だなぁ~と、さわやかな潮風に吹かれながら、ゆったりと海辺の景色を眺めていた。

 よく見れば大人たちも海を眺めながら呆けている。つられて天も呆けて海を眺めている。


 それからいくばくかの時間が過ぎて、遠くから子どもたちの声が聞こえてきた。少し揉めているそんな感じの声だった。

「何だろう?子どもの声が騒がしい……(自分もお子様だけど)」

 海沿いではなく、声が聞こえるのはアスレチックなどがある公園の内側かな?


 そちらへ足を向けたのは、あくまでも「」だったが、天にとってはその時その場に足を向けたことを、”ぐっじょぶ”と自身の判断に感謝することになる。


 ――――小戸公園アスレチック広場


 そこには茶色かかった髪の小さな女の子と、小学2年くらいの男の子が怒鳴り合いながら、もみ合いになっていた。しかもお互いに引くことない互角の取っ組み合いだ。


「!!」

 あんな小さな女の子に男の子が!どちらに加勢するかなど明らか!


「こらぁー!!!やめなさいっ!!!」

 もちろん女の子に加勢する。当然だ。


 幼稚園くらいの女の子なのに、小学2年くらいの男の子と対等に渡り合うとは将来有望な子だ。そもそも年下の女の子をいじめるとは酷い話である。


「ひ、卑怯だぞ!2対1なんてっ!」

 そう言いながら男の子は、天を見ると慌てて駆けて行ってしまった。


 男の子が駆けて行ったので、女の子に向き直る

「あなた大丈夫?」


 女の子は満面の笑顔で返す。

「きょうりょくにかんしゃです!」


 すると女の子は一目散にアスレチックで遊びだした。この子は一人で遊んでいるのかな?

 しかし、幼稚園くらいの子が一人では危なくないだろうか?


「ねえ、一人で来たの?家族の人とかは一緒じゃないの?」


 アスレチックで遊びながら女の子が振り返る。

「お兄ちゃんと、お姉ちゃんが一緒です!2人はいま公園でーと中です。

 ちゃんと空気を読んで、わたしがここに残ったのですよ」


「ちょっと意味がわからないのだが……

 えっと、でも一人で危なくない?」


「大丈夫ですよ、ここの公園は人気ひとけもありますし。

 わたしもここを離れません。『ゆうかいはん』が来たら、大声を出す準備もできてます」


「そ、そう……(連れの人が戻るまで天が近くにいればいいか)」

 天は女の子の側にしばらく居ることにした。


 ――――それから10分ほど経った頃だった。



「お兄ちゃん!あいつらだよ、僕をいじめたのは!」


 ん?あの男の子はさっきの子か……

 そして横には小学3~4年くらいの男の子が側にいた。


「おいっ!俺の弟をいじめたのはおまえか!」

 さっきお兄ちゃんと呼んでいたので、兄弟なのだろう。

 でも、ここで引く訳にはいかない。あの女の子もいるんだから。


「あなたの弟がいじめたんでしょ!ちゃんとこの子に謝りなさいよ」


「ん?……おい、さっきまでそこにいた『ちっこいの』どこへ行った?」


「ん?」

 ……あれ?さっきまでアスレチックで遊んでいたあの女の子がいない!?


「……」

「……」


「まあ、いいや。おまえも弟をいじめたんだろ?

 よくも弟をいじめてくれたな……」


 え!え!え!?なんで天がピンチみたいになってるの!?

 ちょ、ちょっと、流石に2対1で小学1年の女の子に何する気!!


「覚悟しろ!こいつめ!!」


「きゃー!!!!おかされるぅー!!!!!」

 確かママに危ない時はこう叫べと言われている。意味はわからないけど。


 天は慌てて逃げる。男の子2人が追いかけてくる。

 最悪だ。小学1年の女の子を男が2人がかりなんて!この国に未来はないのか……

 


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 次回予告:妹編続きます。

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