第9話 集まる幼馴染たち

 side:中野七海なかの ななみ


 今日は忘れられない1日になるだろう。

 初恋の彼と、を果たしたのだ。


 私はこの春から、修悠館学院しゅうゆうかんがくえんの高等部に入学した。

 そこで久しぶりの出会いに、を感じたあの日のことをよく覚えている。


 ――――初恋の幼馴染、西条翼さいじょう つばさくん

 私は、小学校3年の時に父を事故で亡くし、母の実家に引っ越すことになった。夏休みに実家へ帰省中の事故で、慌ただしいままに、夏休み中の急な引っ越しが決まってしまった。

 その時、翼くんは兄妹で短期留学のため日本を離れており、結局会えないままにお別れすることになる。

 結果、他のクラスメイトのみんなとも、お別れができないまま転校してしまった。


 私は新しい環境に慣れるために、子供ながらに必死だった。翼くんたちにもいつか会えたらいいな。そんな思いはあったが、新しく慌ただしい生活に追われるなか、少しずつみんなのことを、思い出す機会が減っていった。


 高校の同じクラスで偶然『西条翼』その名を見た時は、本当に驚いた。

 すぐに話そうと思った「私だよ?小学生の時によく一緒にいた『大久保七海』だよ」って……でも言えなかった。

 彼の隣には彼女がいたからだ『久遠楓』さん。翼くんの初恋の女の子。そして久遠さんも、翼くんを好きなんだと知っていたから。

 子供の頃と変わらずに、ずっと一緒にいる相思相愛の2人。黙って消えてしまった私が、いまさら幼馴染として接することが、酷くいけないことのように感じてしまったのだ。


 一度遠慮してしまうと、なかなか距離を縮めることはできない。仲睦まじい2人を見ていると、次第にモヤモヤとした感情が私の中に生まれていく。

 気づくと翼くんを、目で追いかけることが多くなっていた。胸がざわつく。私が彼に恋をしていた感情が、忘れていた感情が、胸にしまっていた記憶が、私の中で少しずつ、少しずつ火が灯っていくのを感じた。


 ――――気づけば同じクラスになって、2ヶ月余りも経過してしまっていた。


 そして、今日衝撃の出来事が起こる……

 翼くんが教壇にたち、クラス全員に向けて突然告げたのだ。


「もう面倒くさいから、ここで言っておく!!

 俺は、久遠さんと幼馴染を解消して、昨日絶縁した!

 俺は、あっさり振られたので、潔く身をひくことにしたんだ!!」


 頭が真っ白になった……何が起こった?

 翼くんが振られた?そんなことあるのか?それに絶縁した?久遠さんと?

 そもそも何で絶縁ってことになったの??

 私は翼くんの眼を見た……あれはただ嘘をついている眼じゃない。ふざけている眼でもない。あれは何かに耐えている人の眼だ。たぶん、何かがあったんだ……


 私は、中野七海は、酷い人間なのかもしれない。

 本当に久遠さんと縁が切れているなら、本当に翼くんが「振られた」のなら……翼くんと「幼馴染」に戻れるんじゃないかと。私の「初恋」を思い出してもいいのではないか。もう久遠さんに遠慮する必要はないんじゃないかと。


 そんなことを午前中の授業中、ずっと考えていたからだろう。

 ついに一歩を踏み出してしまったのだ。


「……えーと、西条くん。申し訳ないのだけど、手伝ってもらえるかしら?」

 この言葉から私と翼くんは、幼馴染として再会することになったのだ。


 ――――そして、翼くんと短い時間だったけど、たくさん話すことができた。お昼ご飯も一緒に食べた。そして謎の中等部の女の子と翼くんが、保健室に運ばれるアクシデントもあった。……いま考えてもアノ事故だけは意味が分からないけど。

 でも、このアクシデントが元で翼くんの妹、そらちゃんとも再会できた。


 もっと、もっと翼くんと話したい。天ちゃんとも話がしたい。

 だから迷惑も顧みずこんなことを言ってしまった。


「天ちゃん……今日お家にお邪魔しちゃ駄目かな?」

 今考えれば、大事をとって早退した翼くんに迷惑な話だったと思う。


 でも……天ちゃんは、

「もちろん、いいですよ。七海さんなら大歓迎です。

 七海さんと、話をしておきたい大切なお話もありますしね」

 天ちゃんが笑顔で了承してくれた。


 嬉しい。……また、幼馴染に戻れたんだ。

 あの頃にように一緒に居てもいいなら、私は……



  ―――――――――――――――



 side:南雲茜なぐも あかね


 ――――放課後の修悠館学院「生徒会室」


 私は生徒会長を務める2年の南雲茜だ。

 放課後は生徒会長として、生徒会室で様々な雑務に従事することが多い。

 生徒会は、学校生活を送る上での問題点や課題などを改善・解決することを、生徒の立場から自発的・自主的に行うことができる。

 このような活動経験を、学生の立場で経験できる機会は貴重だ。だからいずれこの生徒会に翼や天を引き入れて一緒に活動したいとも考えていた。


 そして、今日も日々起こる様々な学校内での出来事が、生徒会へ報告として持ち込まれる。


「副会長、何か報告はあるだろうか?」

 私は生徒会副会長の松井静香まつい しずかに報告を促す。


「会長、今日の報告は1件ですね。

 昼休みに中庭で、中等部の女子生徒1名と、高等部の男子生徒1名との接触事故があり、保健室へと運ばれたそうです。

 一応両名共に、大事は無かったとの連絡を受けています。

 少し休んだ後、女子生徒は中等部へ戻り、男子生徒は大事をとって早退と聞いていますが、あくまで大事を取っただけのようです」

 副会長の静香からの報告に耳を傾ける。


「ふむ……大事がなくて良かったな。

 しかし、中等部の女子と高等部の男子で接触事故?何があったんだ?」

 やや事務的に聞いたのだが、それが静香の報告で一変することになる。


「中等部の女子生徒ですが、名を三枝紅葉さえぐさ もみじ、高等部の男子生徒は、名を西条翼さいじょう つばさとのことです。

 三枝が何故か木に登って、高等部の知り合いを探そうとしたらしく、そこで誤って木から転落。その下の自販機で飲み物を購入していた西条と、上から落ちてきた三枝が接触した事故だった模様です」


 私は途中から気が動転して、頭に入って来なかった……

「さ、西条翼だとっ!!!!ぶ、無事なのか!?」

 慌てて椅子から立ち上がり、静香に詰め寄る。


「し、静香どうなんだ!?」

「い、いや、会長、少し落ち着いて。だから大事ないと申し上げたでしょう」


 ……はっ、確かに。

「す、すまない。静香、少々取り乱してしまった。

 その、西条翼は知り合いでな……」


「会長の取り乱す姿は、初めて拝見しました。

 あぁ、会長が昔から可愛がってる後輩が、あの翼くんですか?確かに前から聞いてましたが、彼がその翼くんでしたか……」


「う、うむ。実はそうなんだ。大切な幼馴染なんだ……

 ここで確認だが、『男子生徒は大事をとって早退した』そう言ったな?」


「はい。そう聞いております」


「分かった。では私もこれで今日は失礼する。急用ができたのだ」

 私は素早く帰り支度を済ませ、足早に生徒会室を後にする。


「お疲れ様でした。会長(……茜も、あんな乙女な表情をするんだな)」

 生徒会副会長の松井静香まつい しずかは、生徒会長の南雲茜なぐも あかねの親友である。親友の乙女な表情を見れてホッコリとしていた。



 ――――私は急ぎ、西条家に急いだ。

 翼、待っていろ。お姉ちゃんがすぐ行くぞ



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