第5話 委員長も幼馴染だった

 朝の大暴露以降は、痛いヤツと思われた俺に久遠さんの話題を振ってくるヤツは少なくなっていた。

 どちらかというと被害者に見える楓には、迷惑はかからないだろう。

 俺はフラれた道化として、笑いに変えるほうに仕向けた。他の人からは俺が道化扱いでいいのだ。根掘り葉掘り聞かれたのでは、こちらの精神がもたない。

 まあ、落ち着けば俺への悪評は増えるだろう。それは甘んじて受ける。

 振られたあげくに幼馴染に絶縁を言い渡した自分勝手なヤツ。それぐらいは受けよう。一方的に絶縁したのは間違いなく俺なのだから。

 今の俺に楓と向き合う覚悟がないから、絶縁して逃げたのは間違いなく俺なのだから。


 でも、楓を見ていると……少し心が痛む。

 流石に1日で切り替えなんかできるわけがない。

 楓……受け入れなきゃいけないのは分かってる。真実を受けいれなきゃいけない時が来る。でも、もう少しだけ時間が欲しい。

 もう少しだけ、必ず今度は逃げずに、きっちりと話をして「初恋」に決着をつけるから。


 それまでは……すまん。

 楓との幼馴染だった絆は、いまはなかったことにさせてくれ。



  ――――そして授業は進んでいく。

 まもなく午前中最後の授業も終わりだ。

 つまり昼休みだ……天の手作り弁当を食べて、学校くらいは明るい翼を演じるとしようか。


「よし、今日の授業はここまで。

 委員長、課題のプリントを集めたら、職員室まで持って来てくれるか?」

 午前中最後の授業が終わり、数学教師からクラス委員長へお仕事の依頼である。


「はい、わかりました。先生」

 クラス委員長の中野七海なかの ななみさんだ。

 おさげ髪に眼鏡をかけており、制服を押し上げるほどの豊かな胸をお持ちの優等生。ちょっとエロい美人委員長である。(こんなこと考えてるのバレたら、ぶっ飛ばされそうだけどね)


「みんな、後の人から課題のプリントを、前に回してもらえるかしら?

 一番前の席まで回し終わったら、あとは私がまとめます」

 委員長からの呼びかけに対して、みんなが課題のプリントを回していく。


「ありがとう。プリントは前まで集まったようね?

 ……えーと、西条くん。申し訳ないのだけど、手伝ってもらえるかしら?」

 なんと!?委員長からのご指名だ。


「はい!喜んで」

 あれ?居酒屋の店員さんみたいな返事しちゃった……


「フフフ……何それ?

 居酒屋の店員さんみたいね?ありがとう、西条くん」

 艶やかに笑う委員長。この委員長……本当に同級生?色気出し過ぎでは?


「翼、いいなぁ〜委員長のご指名だぞ」

 大地がからかってくる。


「ふっ、委員長のご指名いいだろ?変わってはやらんぞ」

 さて、課題のプリントを半分回収してこよう。

 1人5枚ずつある課題のプリントだから、クラス全員分となるとそれなりの量だ。


 ……よし、これで回収っと。

「中野さん、集まったよ。プリント多いし、職員室まで一緒に手伝おうか?」


「西条くん、ありがとう。

 フフフ……じゃあ、お願いしようかしら」

 マジこの委員長……同級生なのだろうか!?高校生の色気とは思えないんだけど……


 ――――職員室に向けて、2人並んで歩いていく。


 なんだろう?この感じが、何と言うかドキドキが止まらない……

 何か昔もこんなことが、確かにあったような気がする……


「……何かいいよね?こうして並んで歩いていく感じ。懐かしいよね?翼くん」

 妖艶な笑顔で、先ほどまで考えていた内容と同じようなことを、中野さんが言い出した。


「偶然だね。何か俺も昔こんなことあったなぁ〜って思ったんだよ。七海……」


「えっ!?」

「えっ!?あ、あれ?俺いま、何を言ったんだ?」


(な、七海?……あ、あれ?なんで呼び捨てに)


「もしかして……思い出してくれたの?翼くん」


「え……な、七海?あれ……?」


(確か小学生の時のあの子が……七海って……)


「ヒント!私ね、名字が変わったの。父を小3の時に事故で亡くしてね。

 ……さて、私の以前の名字を思い出してくれたら、ご褒美あげちゃうよ?」


 翼くん、懐かしいその声で、その名を子供の頃に呼ばれた記憶が……

 そして、蘇る子供の頃の懐かしい想い出たち。

 小学生の時に仲の良かった幼馴染の女の子。何事にも一生懸命で、クラスの委員長なんかを積極的に引き受けたりしていた。委員長タイプなのに、不思議とクラスのみんなにも、慕われている存在だった。


 そして、俺もクラス委員長や図書委員等を、一緒に引き受けたりもした。

 一緒の時間を過ごした幼馴染。お父さんを事故で亡くしてしまい、お母さんと実家のある遠くの地へと転校してしまったと聞いたのは、夏休みが明けて新学期が始まったあとだった。それからは、連絡もできなくなってしまった幼馴染の女の子。

 翼くん、翼くんと、優しく俺に語りかけてくれていた彼女の名は……


「……あの時の君なら、名字は……大久保、大久保七海ちゃん。俺と小学生3年までよく遊んで、一緒にクラス委員もした大久保七海ちゃんだ!まさか、君なのか?」


 その時、俺の頬に柔らかなモノが押し当てられた……


「な、なな、七海!?(えっ、俺チューされた??)」


「フフフ……正解!私の旧姓は、大久保七海よ。母が再婚して、いまは中野七海なかの ななみよ。あなたの幼馴染の『七海』よ。やっと、やっと思い出してくれたのね、翼くん」

 中野七海が、いつもの妖艶な笑顔とは違う、柔らかな笑顔を見せて微笑んでいた。



 ―――――――――――――――

【読者の皆様へお願い】

 作品を読んで『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★3を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援、わたしのユーザーフォロー大歓迎です!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る