第3章 幼馴染と最低男の決着

第41話 幼馴染たちと過ごす日常

 みんなと遊びに行ってから早くも2週間が経過した。あれからは特に大きなトラブルもなく学園生活を送っている。


 俺にとってあの日は直接心を殴られたような衝撃を受けた1日になった。

 彼女たちは、俺が弱い心を護る為に纏った鎧を容赦なく剥がしにきた。そして彼女たちは言ったのだ『そんなものは必要ない。私たちが側にいるのだから』と、俺は彼女たちの真摯な想いに応えるために、立ち止まることをやめて前に進むことを決意した。


 まず好意を向けてくれる幼馴染たちを、恋愛対象の女の子として意識してみることにした。

 本来なら意識してやることではなく、自然にできることなのだろう。でも俺には意識を変えると言う手順が必要だった。

 全員を女の子として、魅力ある女の子として意識はしていたが、恋愛対象からは外していたから。今となっては楓に対しての恋愛感情も少し歪なものだったことが分かる。


 俺が楓に対して抱いていた感情が、彼女にしたいと願っていた想いの正体が『家族になって欲しい』との願いだったことに気づかされた。

 恋愛感情のようで、その実は少し違う感情に気づいたことが本当の意味で『初恋を終わらせる』ことに繋がった。


 茜さんに対しては、姉のような女の子から『頼りになる年上の女の子。でも可愛いものが大好きで、本当はとても怖がりな、時には俺が守ってあげたくなる魅力ある女の子』として。


 七海に対しては、幼馴染の友達から『抱擁力があり同年代ながら弱いところを見せることができる女の子。でも本当は本音を曝け出せず我慢してしまう彼女を、俺も支えたくなる魅力ある女の子』として。


 紅葉に対しては、初恋の幼馴染の妹から『遠慮なく心に踏み込んでくるくせに、俺への気遣いを忘れない優しい女の子。でも甘えたがりでマセているようで本当は誰よりもピュアなちょっとだけ計算高い魅力ある女の子』として。


 天に対しては、家族になってくれた妹から『誰よりも俺に寄り添って俺に愛情の全てを捧げてくれる女の子。家族愛だけだと思っていたけど、恋愛感情も人一倍全力で捧げてくれていた。家族をそんな目で見てはいけないと戒めた感情を超えて、恋愛対象の魅力ある女の子』として。


 ただ楓だけは、感情の整理がつかない。

魅力ある女の子かと問われたら迷わずそうだと答える。家族になりたいかと問われたら、かつてそうだった感情は否定できない。でも、彼女にしたいかと問われたら、答えはでない。

 今の楓が以前のような独善的な性格でないことも、俺の信頼を得るために必死で自分を変えようと努力していることも知っている。

 でも、茜さん・七海・紅葉・天に告白して彼氏彼女の関係になるイメージは持てても、楓に対してはそのイメージがまだ持てないのだ。恐らく怖いのだ唯一裏切られた彼女に対して。


 これが今の俺から彼女たちへの気持ちだ。この気持ちが今後どうなっていくのか分からない。でも、あの日を境に俺の気持ちに起きた変化は、俺にとっては心地よいものだった。


 気持ちにはいろいろな変化が訪れたが、学園生活は落ち着いたものだった。

 お昼は生徒会室でお昼をみんなと一緒にすることもあれば、友人と過ごすこともある。

楓だけは俺が生徒会室でお昼を過ごす時には必ず一緒に来るが、他のメンバーは友人との付き合いもあるので、2日に1回ぐらいの頻度になる。


 楓だけは俺に合わせているが、楓の友人たちは楓がもう一度俺の信頼を取り戻すことができるよう応援している。友人が協力的なので、俺の都合に合わせて楓は動けているようだ。


 そして、放課後はみんなで集まる機会が増えていた。俺たち学生にとって夏休み前の最後の重要なイベント期末試験に備えるためだ。

 幸いこのメンバーは成績が良い。だから図書室で集まり試験勉強をする際には、お互いに教え合うことが出来て、全員が効率の良い試験勉強が出来ていた。


 俺たちが集まれば当然ながら注目を集めてしまうのだが、周りが俺たちに慣れてきたのか、注視されたり会話や行動を気にしたりする動きはなくなってきていた。

 最初は色眼鏡で見られていた俺たちの関係だが、暖かく見守られているようなものに変化していた。




 ――――そんな日常が過ぎていき、期末試験もようやく終わった。


 今日で試験も終わり帰路に着いている。

 一緒に帰宅の途についているのは、俺・天・七海の3人。


「はぁ〜やっと終わったか。これであとは夏休みを待つだけだな」


「そうだね、お兄ちゃん。お疲れさまでした」


「フフフ……本来なら試験結果が気になるところでしょうけどね、試験勉強でやったところばかりでしたから手ごたえありましたね」


 それぞれ試験から解放されてホッと一息つけた。


 帰り道が同じ方向のこの3人に楓を加えた4人で帰る機会が自然と増えていた。誰も部活に入っていないので、用事がなければ一緒に帰る機会が多いメンバーである。


 茜さんは生徒会長として放課後も忙しく、紅葉は中等部なのもあるが、住んでいるのが福岡市内ではないので帰りも一緒ではない。

 ただ紅葉もそれは寂しいのか、週2ぐらいは家に遊びに来る。天にとっても妹のような存在なので、喜んで迎えいれている。

 そして紅葉が来る際には楓も一緒に来る機会が多い。あの姉妹は両親の都合で引き離されていた期間を埋めるかのように最近は仲が良い。

 今日楓がいないのも、紅葉と2人で会う約束をしている為だと聞いている。


 そして、幼い頃によく来た小戸公園の前を通りがかり、よく知る後ろ姿を見かけることになる。

 楓に紅葉、そして大人の女性を含めて3人が公園で話し込んでいる姿を見かける。

 2人なら話しかけるところだが、大人の女性も交えて話す様子を見て俺たちは話しかけることもなく、家路につくことにした。


 まさか楓と紅葉、そして大人の女性たちとの出会いが、久遠家と三枝家を巻き込む騒動の始まりのきっかけになるとは思っていなかった。



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 次回予告:姉妹たち回です

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