第14話 初恋の幼馴染が語る真実(前編)
2日連続で眠れなかった……
一昨日は明け方近くでようやく眠れたが、昨日は全然駄目だった。
今日の放課後に楓と話をする覚悟を決めた。真実を知り、関係が決定的に変わってしまうこの日がきた。
結果が自分の想像通りだろうとも逃げない。そう決めたのだ。
――――今はAM6時を少し過ぎたところ、眠れないのならいっそ起きるかと思ってたら、俺の部屋のドアがゆっくりと開いていく。
……なるほど、昨日もこんな感じで忍び込んできたのかな?こっそりと音をたてないように、ゆっくりとまるで夜這いをかけるかのような慎重さで、妹の天が近くづいてきていた。
(寝てないと分かれば心配かけるか……俺は目を閉じたまま動かない)
「お兄ちゃん……寝てますか?」
非常に小さな声で確認を取ってくる。これは起こすのではなく、あくまで起きてるかの確認なのだろう。寝ていれば起こさないようにと、慎重に配慮された声量である。
「よし……今日は唇を奪ってしまいましょう。身体に直接刷り込んであげますよ。クッフフフ……気づけば天が近くにいるだけで、ドキドキが止まらないようにしてあげますよ、お兄ちゃん……」
(……妹よ、なんて恐ろしいことを考えている……今日は流石にそんなことで喜べる心境じゃないんだけど……どうする?流石に寝たふり中にキスまでされるのは……どうすれば???)
悩んでいるうちに時間切れだったようだ……唇に何か柔らかなものが押し当てられる。
(!!!……ん?あれ?本当に唇か?)
唇に柔らかなものが触れているのだが、少し動いているのだ。まるでなぞるように。
「駄目でした……唇はやはり起きてる時に奪ってもらいましょう。今日は触るまでにして、時間までは添い寝でもしましょうか……」
なるほど、指かなにかで唇を触られただけか、少し残念とか思っていると、ゆっくりと天が布団の中に潜り込んでくる。何だろう……天に癒される……あれ?眠気が……俺はそのまま……少しだけ寝てしまっていた。
――――兄妹の朝の心温まるやりとりから、いくばくかの時間が経過、登校の時間が近づいてきた。
天には先に話をしておくべきだろうな。
そして俺は天に昨日の出来事を伝える。今日の放課後に決着をつけてくると。そして天は、
「分かりました。予想では1週間ぐらいはかかると思ってましたが、かなり早くに決断しましたね。今日戻ったら話を聞かせてくださいね?」
優しく笑いながら、俺を後押ししてくれた。さあ、行こう……
―――――――――――――――
side:
2日連続で眠れなかった……当然だろう、一昨日から昨日までは絶望しかなかった。
でも何もできず絶望するだけの昨日とは違う。今日は覚悟を決めて、真実を全て話す日だ。
結果がどうなるかは分からない。でも、幼馴染として過ごした12年もの歳月を、これで終わりにはしたくない。
さあ、行きましょう……
――――そして運命の放課後を迎える。場所は2人がよく遊び、何も用がなくても何となく足を運んでいた公園。ここで私は全てを明らかにする。
静かにその時を待つ、いつも2人で並んで座ったベンチ。そこに座り私は待った……時間にして10分経ったかどうか。そして彼は来た。
「待たせたか?楓」
そう私に問いかける彼の声。いつもなら優しい声で私に声をかけてくれる。いつもなら優しい笑顔で、私に笑いかけてくれる。でも今日の彼は、その見慣れた声音も表情も私には向けてくれない。
「いいえ、さっき着いたばかりよ。今日は時間をくれてありがとう。翼」
そして私は覚悟を決める時がきたのだ。幼馴染の絆を取り戻す。強い決意を持って話し出す……あの日何があったのかを。
「翼、聞いてくれる?あの日のことを……」
――――まず前提として、私は不安だった。翼の気持ちが分からない。私のことが好きだと思っていた。でも、本当にそうなのだろうか?私は幼馴染としか思われていないのではないか?そんな不安から、春から始めたバイト先の先輩に、恋愛相談をしてしまった。それがいま考えれば「しくじり」の始まりだった。
先輩の名は、
以前からよく話かけられていた先輩だった。
私は目立つ容姿もあってモテる。だからこそ男性に対しての警戒心は強いほうだ。先輩に対しても一線をひいていた。
だけど、同年代ではない私よりも年上の意見を、少しだけ聞いてみたかった。それがいけなかった。つい、愚痴を溢してしまったのだ。
幼馴染がなかなか告白をしてくれない。私のことが好きじゃないのかもしれない。私のことは「だだの幼馴染」としか思われてないのではないか。
最初はただ愚痴を溢しただけ。でも、三枝は私の愚痴に付き合ってくれた。それが嬉しかった。
相談したかったと言うよりは、ただ愚痴を溢して、それを聞いてくれるだけで良かったのだ。
愚痴を聞いてくれる。私はそれが純粋な善意だと思っていたのだ。
三枝は大学生だ。高校生の私の愚痴なんか、「後輩に対して面倒を見ている一環のようなもの」と考えてしまっていた。
最初はバイト終わりに休憩室で、ちょっとだけ雑談をするくらいだった。
それがバイト終わりに、もう少し話を聞こうか?とファミレス等に誘われ、断りにくさもあって少しだけならと、たまに一緒に行くこともあった。
それから休日にも誘われるようになるまで、さほど時間はかからなかった。
流石にそれは断った。休日に男の人と2人で会うことに抵抗があった。私は翼以外とそのようなことをしたことがないから。
元々は、私から愚痴を聞いてもらっている。それが少しだけ負い目になっていたから、バイト終わりに誘われる場合は、断りにくい時には誘いに応じることもあった。
最初は私からの愚痴をただ聞いてくれる。それだけだったのが、次第にプライベートなことを聞かれたりするような会話が主な内容になっていく。私から話すと言うよりは、三枝の話に私が付き合うような時間に変わっていった。
それは私には退屈な時間だった。三枝になど興味はなかったのだから。
この時点で距離をとれば良かったのだ。でも、私から恋愛相談を持ちかけ、愚痴を聞いてもらったと言うのに、私から一方的に距離をとることに少しだけ罪悪感を覚えたのだ。
次第にそれとなく誘うような言動が増えていく。でも私にその気はなかった。でも明確な拒否を示すことはしにくい。
バイト先の先輩だし、元は私が愚痴を溢したことがきっかけ。いま考えれば「そこにつけ込まれていた」ことも分かる。
三枝は強引にくることはなかった。だからこそ私も危機感をあまり感じなかったし、迷惑とは呼べない程度の微妙な感じもあって、ズルズルと三枝との関係を断てないままにしてしまった。
そして三枝から、
「はっきりしない幼馴染は君に甘えてるだけ、いつでも君が側にいることが当たり前で、彼は危機感を覚えないんだよ。少しだけ危機感を感じたら、彼も変わるんじゃない?」
翼をそれとなく下げる発言をしているのに、おかしいのは私ではなく、翼なのではないか?と、思わされるようになった。
私は少し焦っていたのだ。
私は15歳の誕生日に翼に伝えていた言葉がある。
「16歳の誕生日を、初彼氏とお祝いしたい」
その言葉は意気地なしの私から、翼への精一杯の勇気を出した一言だった。
私を彼女にして、私の誕生日を祝ってほしいと。
そして三枝から誘いを受ける。
「当たり前のように誕生日に一緒に過ごせると思ってる幼馴染に、少し危機感を覚えてもらったほうがいいよ」
「どう?俺とあえて誕生日を過ごしてみないか?きっと彼は焦るはずだよ」
「もし本当に彼が君のことを好きなら、慌てて告白してくるはずだよ」
本来なら即答で断る内容である。でも「慌てて告白してくるはずだよ」その言葉が、頭の中に響き渡ってしまった。
……いま思えば何故、その誘いに乗ったのだろうか。
でも危機感を覚えれば、翼も焦ってくれたら告白してくれるのか?
そもそも誕生日間近なのに、何故いまだに告白してくれないのだ?
――――これは意趣返しだ。いつまでも告白をしてくれない翼に。私が無条件で側にいることに翼は慣れてしまったから。そう、翼に反省してもらおう……
なんて馬鹿なんだろう。焦っていたとはいえ、何で三枝の口車にあっさり乗ったのだろう?誕生日当日まで悩んだ結果、私は最悪の連絡を翼にしてしまう。
誕生日当日に嘘の理由をつけたドタキャンの連絡を
そして、この嘘が最悪の事態を引き起こすことになる。
私は能天気だった。私の嘘がどれほど翼を傷つけていたのか自覚がなかった。
私は能天気だった。私は誕生日に翼と会わない選択肢などなかった。夜にでも会えれば、お祝いをしてもらえるはずだと思っていた。
私は能天気だった。きっと夜には焦った翼が、その場で勇気を出して私に告白してくれるに違いない。そう思っていたのだ。
――――まさか嘘がバレていた。まさか三枝と会っていたところを見られていたなんて。
そして私にとっては、絶望が始まった。
翼は言っていた。誕生日に告白するつもりだったと。それを自分の選択で台無しにした。
焦って混乱した私は、愚かにも彼を煽るような発言までして、さらに怒らせる。
翼だけではない。彼の妹の天からも絶縁を叩きつけられた。いい訳すら聞いてもらえなかった。
完全な拒絶。もはや私の声は彼に届かなかった。そして、私は大好きな幼馴染と、大切な幼馴染の2人を失った。
――――ことの重大さに気付いたのは、全てを失った後だった。
私は慌てた。まずは誤解の元になった三枝へと、すぐさま連絡をとった。
自分が悪いのが分かっていた。分かっていたのに、自分の責任なのに、全ての怒りと憤りを三枝にぶつけた。
一方の三枝は、私からの言葉にも淡々と言葉を返す。
「君も今日は楽しそうだったぞ?」
「強制はしてないよ?全部、君がやったことだ」
「幼馴染くんと終わったなら、俺と付き合うかい?」
――――愚かな自分への怒りで自分を殴りつけたくなった。
「私に二度と関わらないで」と、私は三枝に言葉を叩きつけるのが精一杯だった。
そして、そのままバイト先へ赴き、迷惑になるのは重々承知のうえでバイトはやめさせてもらった。二度と三枝には関わりたくない。
そして家に帰り泣いた。泣き続けた。もうどうすればいいのか分からなかった。
どうすれば翼に許してもらえるのか……それだけを考えていた。
――――翌日の夜、まだLIINEがブロックされてないなら、メッセージなら見てもらえるのではないか?
そう考えた私は翼に連絡を取り、会話をする機会を得た。
そして今に至る……
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次回に続きます。
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