第20話 幼馴染の楓と七海
学園近くの公園に、見た目麗しい美少女が2人会話を交わしていた。
奇しくもこの場所は、昨日「
黒髪をセミロングにした大人びた顔立ちの美少女であり、妹である紅葉が可愛い美少女、姉の楓は美人と形容されるタイプの美少女である。
尚、スタイルに関しては、楓が年齢的には標準的なものに対して、妹の紅葉は一部が年齢に似合わない破壊力を持つことから、妹>姉となってしまう。
但し、お互いに何年もの空白期間があるために、お互いにその事実は知らない。
もう1人の美少女である
「2人だけで会話を交わすことは、子供の頃を含めてもあまりなかったですね」
「えぇ、そうかもしれない。私たちは翼を中心にして集まっていたような感じだから」
子供の頃を思い出しながら、楓が応じる。
「今日はいい機会だから、久遠さんといろいろ話がしたいと思ったんです。
ほら?私たちだって幼馴染でしょう?」
「もちろんいいわ。あなた達のおかげで、昨日は翼とも本音で話すことができた。
それと改めてお礼を。中野さん、ありがとうございました。
私も覚悟を決めてクラスの人たちに、自分の愚かな振る舞いを伝えた。そして、翼が悪くないことを伝えようと思ったのだけど、あなたがすぐに私に被せるように告白したことで、私の愚かな行為まで変な方向へ印象が上書きされてしまった」
「まあ、結果的にそうなっただけです。でも、久遠さんに対してある程度は厳しい見方をされる方は当然います。陰ながら悪く言う人もいるでしょう。そこは久遠さんが受け止めてください」
楓は改めて七海に頭を下げる。
「ありがとう。それは承知してるわ。もちろん自分のやった事だからしっかり受け止める」
そして楓は公園を見ながら呟く。
「……あれから、まだ1日しか経っていないのね。
この場所で、ちょうど昨日の今頃だったわ。私と翼が話をしていたのは」
楓が昨日を思い出しながら、翼と座りお互いに言葉を交わしたベンチを見ながら呟く。
「この場所だったのですね……辛いなら、場所を変えます?」
「大丈夫よ。昨日のことは辛い出来事だったけど、なかったことには出来ない。それに、前に進むと決めているわ。
楽しいことも、昨日の辛いことも、私と翼の思い出の公園から、私が逃げ出す必要はないから」
「そうですか。それで久遠さん」
「楓でいいわよ。七海さん?」
「ふふ……そうですね。では楓さん。
あなたは本気で翼くんにもう一度振り向いてもらう為に戦うんですよね?」
「もちろんよ。クラスで宣言したことに嘘偽りなんかないわ。本気よ。本気でもう一度翼を惚れさせてみせるわ。
私が一番不利なのも理解してるけど、そんなの諦める理由にはならないでしょう?」
楓はしっかりと七海の目を見て答える。
「えぇ、ならないですね。諦めない。それが私たち『幼馴染同盟』の理念ですからね。
諦めない気持ちは理解できるつもりです」
「『幼馴染同盟』……天ちゃんには聞いたけど、また妙なことになっていたのね。しかも、あんな計画を立てて、公然と翼に攻勢をかける環境まで作った。
天ちゃんや茜さんかしら?こんなこと考えつくのは」
「その通りです。でも、楓さんにも悪くない環境かと思いますよ?」
「分かってるわ。私は、翼のイメージ回復の方が主目的だったけど、こんな環境になったことには、私も感謝してるわ。
でも、翼につけられた「ハーレム野郎」ってやつはどうなのかしらね」
「実際はハーレムなんかじゃないけど、私達がやろうとしてるところは『1人の男を複数の女が奪い合う構図』そう言われても仕方ないでしょう。
翼くんには、これだけの美少女たちに奪い合いされるんですから、我慢してもらいましょう」
「翼には全員断られたのに、全員いい神経してるわね。もちろん、私がその筆頭なんでしょうけど。
私はこの中で唯一、翼を裏切り浮気をした女。本来なら翼に顔向けなんて、出来ないはずなのに」
「浮気……ですか?でも、まだ正式には付き合ってもないですし、想いを伝え合ってた訳でもなかったから、まだ浮気ではないんじゃないですか?
まあ、当日嘘をついてドタキャンしたり、他の男と会ったりはどうかと思いますけどね」
「……人に改めて指摘されるとキツいわね。私がしたことは。
私はちゃんと翼が好きで恋人になりたい。それを自分の誕生日に、しかも約束までしていた好きな人を嘘で裏切った。こんなの相手にとっては、十分に浮気だったと思われても仕方ない行為よ。
翼は、浮気とまでは言わなかったけど、浮気されたように思ったと少し溢したわ。なら、やっぱりあれは、裏切りの行為で浮気なのよ」
昨日のことを思い出しながら、楓は続ける。
「逆の立場になって私がしたことを、翼にされたと想像してみたわ。ゾッとした……翼を傷つけたことをよく理解できた。こんな簡単なことさえ、あの日の私は気づかなかった」
その姿は、あの日犯した過ちを悔いて、普段は堂々とした雰囲気を出している楓を、少し小さく見せていた。
「私だけが翼を独占している。翼の気持ちは私だけに向いている。確信はあったはずなのに、なかなか告白されない。それだけで不安に駆られてバカをやったわ。そんなに不安なら、自分から告白すれば良かったのよ、くだらないプライドを捨てられず、自爆した馬鹿な女よ」
「楓さん……雰囲気が変わりましたね。
子供の頃も、実はクラスで再会した時も、私の第一印象はあまり良くないんですよ。私から見た楓さんって」
それを黙って楓は聞いている。
「何故だか分かります?
楓さんって、翼くんに好意を向けそうな女の子には、意識的なのか無意識なのか、とりあえず威圧するんですよね『この男は私のものだ』手を出すなって。子供の頃から、楓さんって『女』なんですよ。
翼くんに対してだけ。翼くんが絡まないと接しやすいし、明るく優しい優等生の美少女。
でも、翼くんが絡んだ途端に、独占欲の塊になるの。不思議と翼くんの前では『噯にも出さない』
だから、翼くんも楓さんのそんなところには、気づいてないのかもしれませんね。
私は楓さんのこと、二重人格なのかと疑いましたよ。
でも、翼くんへの独占欲だけが、ちょっとおかしいだけで、翼くんも楓さんのこと好きだったし、これは翼くんの為にも、諦めるしかないなぁと思ったんです。
たぶん他の幼馴染のみなさんや、きっと他の女の子も同じだったと思います。もしかして自覚なかったりします?」
「自覚はあったけど、そこまで痛い女だった自覚はなかったわ。でも第三者から言われると、かなりヤバい女ね。
あくまで『翼は誰にも渡さない』私が考えてたのは、シンプルにこれだけよ。本当にそんなに好きなら、何で自分から告白しなかったのかしらね。告白したら負けとか思ってたのかしら……
いえ、たぶん好きって感情を、ちゃんと理解できてなかったのよ。翼は誰にも渡さない。ただそれが感情として勝ってたのでしょう。……我ながら酷いわね。
本当の意味で好きと理解できたのは、翼に『絶縁』を言い渡されたあとね」
「フフフ……いまの楓さんの変わりようを見たら、幼馴染のみなさんも驚きますよ」
「それは変わるわ。私にとっては人生が一変したようなものだもの。
昨日、翼と本音で言葉を交わして、言葉を交わさないと分からないこともあると知ったわ。普通では当たり前のことでも、近すぎた私たちには、この当たり前が分かってなかったの。
厳しいことも言われたけど、あれこそが翼の本音で、私が傷つけた傷そのもの。
あの傷は私が癒す。初恋は失ったけど、次の新しい恋では失敗しないわ」
(これは強敵かも……でも、負けませんよ)
「楓さん、私も負けません。
私も断られたので、初恋は叶わなかったのですが、胸に宿る恋の炎が消えないのです。
今までは恋愛対象とすら見られてなかった。でも気持ちは伝わり、楓さんしか知らなかった翼くんの恋心を、私への恋心に塗り替えてあげますよ」
七海が手を出して、楓に語りかける。
「今日は楓さんと話せて良かったです。楓さんが何を想って翼くんを諦めなかったのか、あなたの気持ちを知ることができて嬉しかった。
翼くんを巡っては
楓も手を差し出して返す。
「私も七海さんと話せて良かったわ。
翼を巡っては
――――このあと2人は一緒にクレープ屋へ行った。
その姿は、同じ想い人を奪い合うような仲には見えない。仲の良い友達にしか見えなかった。
―――――――――――――――
次回予告:久しぶりの後輩ちゃん
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★3を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援、わたしのユーザーフォロー大歓迎です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます