第36話 14時09分

 現在の俺は、全く知らない家の前に立っている。隣に、居る案内人に、手を掴まれてここまで来たが。なんだというのか。


 あと、先ほど長瀬のことを話し出した案内人。なぜか、俺の知っている過去と違うことを言っている。確か……長瀬は表向きには、転校した。が、先生たちの中では、自殺――という話をしていたのを、聞いたはずだ。違うのか?


 先生らの話を盗み聞きしてからは、あの時のことを思い出さないようにしていた。というか、俺と接点がほぼなかった図書委員の生徒が、本を急に貸してくれると言った翌日いなくなる――自殺と。

 俺は、何もしていないはずだが。何かしたのではないかと。思ってしまう自分がどこかに居た。そして、それからはさらに――というか。それまで以上に、1人でいるようになった。幸いその後は、俺に話しかけてくる奴はいなかった。だからか、図書委員……長瀬の噂はそれ以降、聞いたことはなかった。


「――――うん?長瀬」


 俺がそんな昔のことを思っていた時。案内人が連れてきた家の表札に、目がいった。間違いなく――今俺が考えていた人と同じ名前の表札がある。


「そうです……私の家です」

「私って、お前の見た目のやつのな?」

「――――そうですね、言い間違えました。とても……悲しい場所だったので」

 

感情移入と言いうのか。そこまでできるのか……。


「勝手に、あっちの世界の力使って、余計なこと調べるからだよ。って――本当に長瀬の家?」


 先ほどの事故現場と、案内人が言ったところから、少ししか離れていない。そして、中学校の校区を考えると……間違いではない気がする――いや、でも、長瀬という苗字くらいたくさんあるかもしれない。と、思っていたのだが。


「……どちら様ですか」


 急に横から、女性に声をかけられてしまった。そりゃそうか、人の家の真ん前に2人で立っているのだから。目立つし不審者だわな。


「…………お母さん」


 すると、案内人からそんな小さな小さな声が漏れた。俺には今――って、あれか。感情移入しているんだっけ?


「――あの」

「あ、すみません。おい、行くぞ」


 再度声をかけられたので、俺は慌てて案内人に言うが。案内人は、女性の方を見ている。というか。その時俺は、あることに気が付いた。迷惑そうに俺たちを見ている。女性。多分……雰囲気というか。とりあえずこの家の人だろう。なのだが……さっきから、視線が俺にしかない。俺にしか向かないのだ。隣に案内人が居るのに……。


 まさか、だが、こいつ――――姿消している?と、俺が慌てて隣を見ていると。


「あの、警察呼びますよ」


 さすがにそんなことを言われてしまったので、俺は慌てて――。


「あっ、その――俺、忍海おしみ桜太おうたと言います。その――なんというか」


 って、なんで、いきなり俺は自己紹介をしているのか「何でもありません。失礼しました」。とかで立ち去れば、ちょっと怪しまれるくらいで済んだかもしれないのに。わざわざ自己紹介して、はい。さようならでは、警察に通報されたとき、こう名乗った人。とか言われてしまうかもしれないじゃないか。慌てすぎ俺。


 しかし、俺の前に立っていた女性は――俺の思っていた反応と違った。


「おしみ――――あ、あの、漢字は、どのような漢字でしょうか?」

 

 急に少し食いつくように?聞かれたのだった。なぜ、そのようなことを知らない女性から聞かれたかは、わからないが。立ち去るという選択肢は、無理みたいなので、俺は答える。


「えっと、、忍者の忍に、海ですが……?」


 俺がとりあえず答えると――女性の表情が変わった。


「――――な、奈桜なおのお友達?で、いいかしら?」

「あ、えっと……長瀬のお母さん?」

 

 はっきり言って、俺はの名前には、心当たりがなかったのだが、隣で、姿を消している奴の雰囲気と。ちょっとこれは賭けだったのだが。今目の前に居る女性のことを長瀬のお母さん。と、言ったら。あたりだったらしい。


「…………あなたのことだったのね――」


 女性は何か引っかかり?が取れたように安堵?した表情になった。


 ★


 それから、数分後の事。俺は、先ほどの家の中に居た。何故そんなことに?なのだが――そうなったのだから仕方ない。


 いや、でも本当に――どうしてこうなった!?とは言っておこうか。


 俺は今、リビングに通されて、案内人と2人で、座っている。というか――案内人は、先ほどからだが全く認知されていない。

 女性が飲み物を出してくれた際に、グラスが1つしか出てこなかったからな。俺も女性が居たので、案内人に話しかける。ということをしてなかったのだが。

 今は、案内人と2人になった。女性は飲み物を出してから「少し待っていてください」と、いい。リビングを出て行ったからだ。


 なので、俺は小声で隣に座っている案内人に声をかけた。


「おい、案内人――お前姿消してるよな」

「…………はい」

「なんでだよ」

「……私は、死人です――知っている人に、姿を見られるのは……」

「……知ってる――いや……まさか」


 そこで、俺は少しずつこの2日間のことがつながった気がした。いや、偶然というか。勝手に脳内でつながったような気がした。突然だったのに長瀬の姿をすぐにできた案内人。そして――先ほどからの事も――感情移入?見た?のかはわからないがなんかそんな感じで話していたが。それが経験談。実際の事だったら――と、いろいろパズルが勝手にはまっていく感じだった。


「――――なあ、案内人。お前…………まさか――だと思うが。長瀬。本人――――――とか言わないよな?」

「――――――――そうです」


 小さな声で案内人は答えた。


「………………マジ?」

「――――はい。先に、謝っておきます。向こうの力とか言いながら、話していたことはすべて……知っていたからです。あっ、向こうから、来ているということは、本当です。だから、あなたが死ぬのも。それと、あなたの担当になったのは、ホント偶然です。私が何かしたとかではなく――」

「――――いや……えっ?」

「本当は……言わないつもりだったんですけど、先ほど、あなたは、私の死因を間違っていましたので――何故か…………正しいことを言いたくなって」

「っか、俺が、この家に招かれた理由は――――」

「それはわかりません。お母さんには、あなた――――忍海君のことは話したことないのですが」

「だよな……俺――長瀬っていう名前。図書の先生から聞いたくらいなんだから。奈桜って名前は知らなかったんだが。長瀬のお母さんで、なんか通じたみたいでよかったよ」

「あっ、やっぱり――私、自己紹介してなかったんですね。ごめんなさい」

「いや――別に謝られてもな」


 俺がそんなこと言った時、足音が聞こえてきたので案内人が黙った。


「――――お待たせしました」

「あっ、いや――大丈夫です」

 

 女性が運んできたのは、本だった。その本は、見覚えがある。

 中学の時に、図書室に通いだしてから、本を読まずに図書室に居るのは――と、思い。探した時に偶然見つけた本で、何冊かのシリーズになっているものだ。

 そういえば、この本は、途中で読むのをやめてしまった。理由は、貸し出し中で、続きが読めず、図書委員の人。長瀬が貸してくれると言った本。なのだが……結局あれから長瀬に会うことはなく。その後、自殺したやらのことを聞いてしまってからは、何故かその本から遠ざかっていた。貸出から戻ってきて、本棚にあるのも知っていたのだが。読んでいなかった。


 そして、今、長瀬に借りるはずだった、その本が目の前に置かれた。


 隣に居る、案内人もなんで?という顔をしている。これは予想外のことらしい。って、本当に今何が起きているんだ?


 俺はこの後どうするべきなのかわからず、固まっていると、女性が本を開いた。


 すると、隣から「あっ」と、いう声が聞こえた。その声につられて俺がふと、リビングの時計を見た時。デジタル時計がちょうど14時09分を指したのだった。

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