第41話 19時04分

 階段の上には、小さな神社があった。賽銭箱のところだけ、電気がついていて少し明るいが今いるところは暗い。高さのそれなりにある木々で囲まれているからだろうか。本当に暗いというかもう、夜の時間か。


 長瀬は、そのまま神社の賽銭箱前の段差に腰かけた。無人のような感じの神社なので、ボロっているとか思ったのだが、近づいてみると――ちゃんと手入れがされているらしく。床も綺麗だし。賽銭箱も拭き掃除を誰かしているのだろうか。綺麗だった。


「長瀬は、ここよく来たのか?」

「まあ、数回ですよ?ここ、夕方になると、きれいなんですよ」

「綺麗?」

「今は、もう真っ暗ですが、今、上って来た階段の先に夕日が沈む時期があって」

「なるほど、女子は、そういうのよく知っているな」

 

 話しながら俺も長瀬の隣に少し空けて座った。ちょうど、神社の手洗い場。名前なんだっけな……出てこない。まあいい。そこにある時計。正しい時間を指しているのか微妙だが――19時04分を今は指していた。


「まず食うか」

「ですね。ドーナツ食べずに、向こうに戻ることになると嫌なので」

「多分――お前が、俺を階段から突き落とさない限り。ここでは、死ぬ要素がなさそうだがな」


 あと、ないとは思うが建物が崩れたりしない限りな。


「なかなかひどいこと言いますね――本当にしましょうか?」

「怖い怖い」


 俺は少し距離をあける。


「ちょ、しませんからね!?」


 とまあそんな話しつつ。笑いつつというのか。買って来たドーナツを、箱から出す。そして、飲み物を長瀬に渡す。


「ほい」

「ありがとうございます」


 そして、しばらく2人はぼーっとというのか。無言でドーナツを食べた。好きなもの食べていると無言になるんだよ。


 多分、これが俺の最期の食事だろうと、ちょっと思いつつ。そういえば、朝も思っていたが、まだ、体に変化はない。というか。歩いてきて、疲れたくらいで――何もない気がするんだが……マジで死ぬの?突然死ってこんな感じなのか?知らんけど。

 いやでも本当に俺何もないってか。もう何度も思っている気がするが。俺――死ぬの?本当に?まあ、食事中はそんなこと思わなくていいか。と、隣を見て見ると。


「――はむ」


 ちょうど、ドーナツにかぶりついた長瀬がいた。横顔だが。多分、あれは――めっちゃ幸せそうな顔しているんだろうな。と、ホント好きなんだな。と思いつつ見ていると。見ているのがバレた。


「なっ……なんですか」


 少し照れながら長瀬がつぶやく。


「いや、言い食いっぷりだなー。と」

「――また、太るっていうやつですか。好きなものくらい好きなだけ食べさせてくださいよ」

「別に何も言ってないぞ?っかさ、その姿が本当のお前なら。かなりの量食べてもいい気がするがな。細いし」

「――なるほど、太らせたいんですか?」

「そんなことは言ってないが――美味そうに、食っている姿見るのは、悪い気がしないなと」

「――忍海君……なんか私に対して接し方がその軽くなったというか。変わりました?」

「慣れた」

「なんかひどい!」

「いや、いい意味だろ。人と接することが、ほぼなかった人間が、話しやすい言ってるんだぞ?」

「それ、私的に良いこと。メリットあります?」

「――――――――聞き上手的な?」

「めっちゃ考えましたね。でも。うーん。って、なんで、私が恥ずかしい思いばかりしているんですか?」


 いや、俺ちゃんと考えたぞ?回答なしよりいいだろ?


「話がそうなるからな。いやなら、また、昨日みたいに、俺の過去話聞いたら、悲しく暗くは、慣れると思うが?」

「その話は――いいです。なんか。悪いので」

「いや、事実だしな」

「逆に、よく話せるなー。って、今私思ってますよ?嫌な過去というか。そういう話をできることを」

「だから、慣れだよ。慣れ。それが普通だったんだから」

「……じゃあ、私が中学の時、図書室で話した時も――もうあんな感じ?」

「っか。小学校からだからな?言ったと思うけど、まあ、たまたま図書室では、そういうのがなかったというか。それだけだな」

「図書室は、私語禁止ですからね。一応」

「まあ、そういう事だろう。っか、放課後は、部活がみんな忙しかったんじゃないか?」


 そんなことを話しているうちに、最後の一口を食べ終えた。ごみはどうするか。と、思ったのだが、境内にごみ箱が――置いてあるんだよな。捨てていいかな?あるんだから……いいよな?と、思いつつ。長瀬も食べ終えるのを見てから、ごみをもらい。一緒にごみ箱に捨てた。


 そして、ごみを捨てた後、多分もうこれは使わないだろうと。俺は、財布を取り出した。


「どうしたんですか?最後にお参りですか?」

「いや、金持って、死んだら誰か持ってくかもだろ?だから、ごみ捨てさせてもらったから、この神社に、渡そうかと。もしかしたら、ここで死ぬかもだろ?」

「そこまで、気にしなくてもいいと思いますけど――」

「いいだろ、俺の勝手だ」

「ご自由にです」


 長瀬と話した後。俺は手持ちのお金を、すべて賽銭箱に放り込んだ。

 そして、おまけではないが。ひっくり返した際にカード類も賽銭箱に入ってしまったが……まあ、大丈夫だろう。クレジットカードとかは持ってないし。ポイントカードくらいだったはずだから。ちょっと俺の個人情報が神社に漏れただけだ。

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