第34話 12時11分

 歩き出してから、1時間ほど、無言のまま歩いている。特に、どこに行くとかではなく。後ろからプレッシャー、いや。言われた時よりかは、はるかにオーラ?みたいなのはなくなって気がするが。それでも俺は、とりあえず、お許しが出るまで、黙々と歩いていたのだが。さすがに1時間以上たった。もう――つらい。一度休憩。と思ったときに。


「――もう大丈夫ですよ」


 そんな声がした。多分1時間ぶりくらいに振り向くと。まあ、案内人が居る。何だろう、何をしていたのかは、知らないが。顔が赤い?気もしたが、いや、ずっと歩いていたからか。と、思うことに。余計なこと言うと、怖いからな。


「……何してたんだ?めっちゃ歩いた気がするが」

「――――それは、その、考え事してました。そして、わかりました」

「何が?」

「どこも、行きたいところないんですよね?」

「ああ、ないな」

「じゃ……彼女のところ行きましょうよ」

「――――彼女?」

「はい。今の私の姿の人のところに」

「はい?」


 ……念を送る念を送る――俺。

 いや、あっちの世界の方。神様か知らんがいないのか?これ3回目……まあ、聞いてないのか。この案内人暴走しまくりなんだが。1時間以上無言かと、思っていたら。何を言い出すのか。ホント、暴走してますよ――?聞こえないのだろうけど、言ったからな。そろそろ対応ないのか?まあ、無いか。


「……頭打ったか?」

「どこで、そんなことがありました?」

「――ないよな」

「はい。じゃ、行きましょう」

「行くって。どこに」

「だから、彼女のところに」


 手を掴まれた。そして引っ張られる。


「おい」

「時間がもったいないです」

「――誰だよ1時間以上無言で歩かせたの」

「行きますよ」

「――こいつ…・…聞いちゃいない」


 俺、案内人に、引っ張られながら、どこかに向かっている。どこに向かっているのだろうか。いや、彼女?彼女って――長瀬の……ところ?えっ?


 それから、俺は、知らない土地を……いや、先ほどまでは、知らなかったが。

 いつの間にか、ぐるっと回ったのかは、わからないが。中学の校区内というのか。ある程度、聞いたことのある地名が看板などに出てきた。

 これは――見覚えのある、公民館?も見えてきた。そして、公民館にある時計が12時11分を指している。いやいや、2時間くらい歩きっぱなし。

 っか、この案内人、疲れないのかな。と、俺が体力ないだけなのだろうか。ずっと手握られているが、その力もしっかりしている。本当に――あっちの人?


 すると、とあるコンビニのところで、案内人は止まった。普通のコンビニだと思う。そこで止まったのだった。

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