第33話 11時12分

「……こっち見たら、向こうの力であなたを殺します」


 そう言い。とりあえず、彼が、こちらを見ないようにはしました。まあ、そのような力はないのですが。そして、彼に、付いていきながら、私は、昔の記憶を思い出していました。


 忍海君には悪いが。今顔を見られると、大変恥ずかしいので、いや、予想は、していましたが。久しぶりに、会ってからというか。ドーナツとか。私に、かかわるようなこと言ったりと。もしかして、私の事好きだったの?と、思っちゃったりしてたのですが。まあ、初恋の話聞いて、私の姿言われたときは――――まあ、うん。ちょっとうれしかったです。


 そして、先ほどやっと、私の苗字が出てきたところで、ちょっと脳がパンクしました。確認が取れて。いや、私は、忍海君のことが……気にはなっていたというか。本のこと、話したかっただけで……そんな――うん。それ以外は、ありません。

 ないはずです……が。このドキドキは――何でしょうか。向こう側に行ってからも……頭のどこかには、忍海君の担当には、なりたくない。みたいなことは、ありましたし。少ししか、一緒に居ませんでしたが。同級生だった、同じ本好きの知り合いの最期を――というのは、嫌だったので。

 というのが。まあ、今私が考えていた。思い出していた事の1つなのですが。もう1つ考えていたことがあります「私……自己紹介したかな――?」と。

 忍海君は、私の苗字しか知らないと、今答えました。嘘をついている?と思っていましたが。どうもそれは本当みたいです。忍海君は、もちろん私の名前も知っていると思っていたのですが――そういえば、本を貸す約束した時は、バタバタしていて、連絡先も聞かず……あ。そうか。そして、その後、私死んじゃったんだもんね「忍海君ごめん。私の勘違いで、いろいろ意地悪な感じに質問しちゃったかも」と、前を歩いている背中に言ってから。一度息を吐いて。少し落ち着いてきたので、もう、忍海君に見られても大丈夫かな。と、思った時です。


 ……あれ?あれ?って、ちょっと待って。本……本。えっ――本の事すっかり忘れてた!


 私。なんで忘れていたんだろう。そうだよ。忍海君に、本を貸す約束して……で、死んじゃったんだ。

 他のことは、ちゃんと覚えていたのに……このことだけは、今の今まで忘れていた。事故の直前過ぎて、記憶があいまいだった?でも、こっちの世界に、来てからは、記憶はちゃんと残るというか。忘れてないと思っていたのに――と、でも、今、本のこと言うと。私の正体をばらすようなことになるので……それは恥ずかしい。

 なので、ちょっと、いろいろ考えてから。忍海君に声をかけました。


 そういえば、忍海君、本当にこちらを見ずに歩いています。そして、あれから、かなり歩かせちゃったような気がするのですが……ちょうど、コンビニの横を歩いていたので、中を見ると。11時12分。かなりの時間、考えながら歩いていたみたいです。なんかごめん忍海君。

 

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