第32話 10時13分

 ホテルに、ご迷惑をかける。ということはこれでなくなったが。行くところもなく、適当に2人ぶらぶら歩いている。


 駅に行って電車乗って家に帰ればいい。とか考えたが、何が起こるかわからないと考えると。

 もしかしたら、駅で、ホームから落ちて……とかになってしまうと、後が大変ご迷惑をおかけするので――歩くを選択していた。案内人も特に何も言わず。俺の横を歩いてきている。

 今歩いているところは、普段来ないところなので、どこを歩いているか。すでにわからない状況だが……まあ、問題ないだろう。と、思っていると。後ろから声がした。


「ただ歩いているだけも、暇ですから、お話ししましょうよ」

「――話すようなことあったか?」

「じゃ、私が話すので、答えてください」

「答える?」

 

 隣を見ると、なんか楽しそうな顔をした案内人が、こちらを見ていた。


「いいですか?」

「なんかヤダ」


 雰囲気的に何か直感で感じた。ヤダ。


「まあ、聞きますが」

「……こいつ」

「本当に、忘れたんですかね?死ぬ前に、私のモヤモヤ解消してください」

「モヤモヤ?」

 

 案内人はそんなことを言い出した。

 

「好きだった子の名前、知ってますよね?今、私がなっている―――ー彼女。誰ですかね?ニヤニヤ」

「ニヤニヤをわざわざ言うな。っか、なんで、そこまで、お前が気にするんだよ」

「いいじゃないですか。気になりますもん」


 いい顔してやがる。この案内人。でも、俺の答えは、こうなるんだが――。


「……知らないんだよ」

「嘘ですね」

「……しつこいな」

「知ってますよね」

「いや、ホントだから」

「知ってますよね」


 グイっと近寄って来た。


「――怖っ」

「知ってますよね!」

「あー、わかったわかった。知ってるよ――苗字は」

「……苗字だけ?」


 案内人が拍子抜けの顔をする。


「そうだ――――長瀬。っていう苗字だけ知っている。これでいいか?」

「……」


 すると、そこから、突然案内人は静かになったというか。沈黙。気になって「どうした?急に黙って」と、案内人に声をかけたら。


「……こっち見たら、向こうの力で、あなたを殺します」

「はい」


 いきなり物騒なこと言われたので、案内人の方は見ないで、前を見て歩く。俺……何かNGワードでも、言ったのだろうか?でも、俺、そんな地雷みたいなこと何も話してないのだが――理不尽。


 すると、前には、保育園だろうか。幼稚園があり。子供らが元気いっぱいに暴れまわっていた。

 その子供を見ている先生ら、大変だろうな。とか思いつつ。その前を通過。今までなら、案内人が、何か言ってきそうだったが「小学生より前は?とか」が、特にそういうことはなく。まだ、何か考えているのか。後ろから見たら殺すオーラを感じているので、俺は前に歩く。ただ歩く。


 すると、次は公園が見えてきた。ベンチも空いてるし。歩いてきたから、ちょっと休めるか。とか思ったが。どうも後ろの人は……止まる気はないらしい。

 姿は見てないが。付いてきているのはわかるし。見るな。というオーラが、まだ、強いので、止まるのはダメか。と、勝手に、思い公園に入るのをやめる。

 今の空気をなんか変えたいのだが――後ろ見たら俺の人生終わる気がするし。そもそも、なんで沈黙が始まったのか。原因がわからないし――どうしたものか。と思いつつ。歩くと。

 ちなみに公園にあった時計が目に入った。その時計は10時13分を指していた。今日も10時間ほどが経過していたのだった。 

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