第37話 15時08分
長瀬の母親?が本を開くと、そのページには「忍海君へ 読み終えたら、感想聞かせてほしいかな。あっ、図書委員としてね」という。きれいな文字で書かれていた、小さなメモが出てくる。
隣の案内人は「……恥ずかしい。忘れてた……」と、つぶやいていたので、心当たりがあるという事は――やはり……案内人が本人なのか?と俺は思いつつ、そのメモをもう一度見る。
「忍海君――――か」
そこには、そう書かれていた。確か、中学では、俺と同じ苗字は居なかったはずだ。つまり、これが本当に長瀬の文字だとしたら――うん?長瀬が自殺する前に、本を借りる話をした。もし、本当に自殺なら死ぬ前にこんなメモ残すだろうか……と俺が思っていると――。
「これ……あなた宛てだったのかしらね」
女性がぼそりと。懐かしそうに本とメモを見ながら言った。
「――そうかもしれません。この本を借りる約束は――確かにしました」
「あなた、
「あっ、えっと――すみません。俺……長瀬さんはホント数回だけ。図書室とかで話しただけで――――そして、たまたま、本を貸してくれると、言ってくれた次の日に――長瀬さんがいなくなったので」
「……そうだったの。あの時、奈桜の巻き込まれた事故――いろいろ噂があって」
「――噂?」
「はじめ目撃者がいなくてね。私もまさか奈桜が巻き込まれていたということも、少しするまで、わからなかったの。そして、運転手の人たちの聞き取りができるようになるまで――本当にあそこで何があったかわからなかった。その間に奈桜が――飛び出して、自殺したんじゃないか。と、いう話もあったわ。でも、それはすぐにトラック運転手の居眠り運転とわかったのだけど――学校に連絡した際は、まだわからなくて、先生たちと話して、奈桜だけ、急遽実家に行くことになった。という形で、転校ということにしてもらったの。それに――あれから1年くらいは、この家も留守だったけど。事故もちゃんとわかって、私たちも落ち着いたから、戻って来たの。ここには――奈桜が居る気がして」
女性はくるりと室内を見渡す。よく見ると家族写真などが置かれている。とっても暖かい家庭というのがよくわかる。
「だから……」
もしかして、先生らのあの話も、まだ状況が確定する前の噂だったのか。と、聞いていて思った俺。
多分、その後に、ちゃんとした情報が出たのだろうが。俺は気にもしてなかったから。自殺したと。思い込んでいた。そういうことか。
それから、しばらく俺は長瀬の母親から話を聞いた。隣に居た案内人は――途中で、退席した。俺にしか見えないから、女性は気にもしてないだろうが。部屋を出ていった。
◆
「忍海君。よかったら、この本持って行って」
「えっ――でも。これは――」
「いいのよ。奈桜が貸したかった本なんだから」
「あ――あっ、はい。では――」
帰り際。俺は長瀬の母親から本を受け取った。ちなみに1時間ほど、長瀬の家に居たらしい。リビングを出る際。時計を見ると、15時08分を時計がさしていた。かなり長い間長瀬の話を聞いていたようだ。
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