第38話 16時07分

 長瀬の母親に見送られて俺は長瀬の家を後にした。そして、長瀬の家の前には、案内人。長瀬が立って居た。


「……終わりました?ずいぶん、初めての人と話すのに、ゆっくりと、人の恥ずかしい過去聞いて――楽しかったですか?」


 あっ。これは――めっちゃ怒っている感じでした。どうしよう、俺、殺されるかも――案内人に。


「――お前が、長瀬と確定するのは、どうかと思うけど……長瀬なんだよな?」

「――そうです」

「じゃあさ、確認には、ならないと思うけど、長瀬は、明日、明後日の次の日なんて言う?」

「ささって、ですがなんですか?さすがに、人を馬鹿にしすぎてませんか?一応中学校までは、生きていたんですから。それくらいわかりますよ?」


 長瀬本人という案内人は、3日後をささって。と、考えることなく言った。つまり……。


「あー、とりあえず、お前が、このあたりの人ということはわかったわ」

「えっ?」


 どこで判断した?と案内人の顔が言っている。


「いやさ、全国的には、明日、明後日、しあさって。らしいぞ」

「えっ――嘘。そんな、冗談?」

「ホント。3日後を、ささって。っていうのは、ごくごく一部らしいから」

「……知らなかった」

「まあ、案内人さんは、この地域の人と」

「――――なんか。ちょっとした、衝撃が私の中でありましたが。誰かさんが。ペラペラ話していた――――初恋の人ですね。わかりました?」


 やばい。急にいろいろ恥ずかしくなってきたぞ?でも――冷静に冷静――。


「……すみません。その話題やめてください。精神的ダメージが――」

「ふん。と、とりあえず、ここで、話していると目立つので、近くの公園行きましょう」

「あ、ああ」


 それから2人で少し歩いた。しばらく歩くと、小さな公園があり。数人の子供たちが、遊んでいて親が近くでそれを見守っていた。

 俺と、案内人は空いていたベンチに座る。


「さて、どうしましょうか」

「どうする。って?」

「なんか。いろいろあって、わたしもう頭の中ごちゃごちゃで、過去のことも、思い出すとわけわからなくなっています」

「――まあ、俺も、っか――お前」

「――いろいろわかったのに、お前は、やめません?」


 確かにそうか。


「あー。案内人さん?」

「なんでそうなるんですか!?そこは――長瀬ながせ奈桜なおが私の名前なんですけど?」

「今、初めてちゃんと、聞いた気がする」


 これは本当。ちゃんと聞いたのは初だよな?本人?からはな。


「それは――私が勘違いで……自己紹介した気になってましたので――」

「まあ、いいが。あっ――じゃ、俺も言わないとか」

忍海おしみ桜太おうた――さん」


 いう前に言われた。


「……逆に、なんでお前は知ってるのか。って、さっき家の前で言ったからか」

「――いえ、生きている時から、知ってました」

「あれ?俺って――自己紹介した?」

「図書委員ならわかりますよ」

「――あ、本の貸し出し」


 少し考えたらすぐに答えは出た。貸出の時か。


「そうです。で、なんと呼んでくれますか?」


 試すような視線が向けられる。


「確か、俺の前に現れた時――えっと、なんでも自由にとか言わなかったか?」

「バレた後なので、昨日から先ほどまでのことは、なるべく思い出さないでください。恥ずかしくて、私がもう一回死にそうです」

「っか――知っていて俺は振り回されていたということか――」

「ストップ。次、私が来てからのこと言ったら、本当に、私の手で、終わらせますから」

「あっ、はい」


 ガチで首でも絞められて殺されそうになったので、俺は一度、長瀬が落ち着くまで待ってから、もう一度会話再開した。


「この本――渡されたけど――どうしような」


 本を見ながらつぶやく。


「メモは、早急に捨ててください」

「なんでだよ」

「――は、恥ずかしいじゃないですか」


 そんなことをいいながら、本から抜き取ろうとする、長瀬。が、それは俺は阻止する。


「まあ、しおりとして使うよ」

「馬鹿じゃないですか!?」

「馬鹿言われたよ」

「――まあ、いいですけど、どうせあと少しで死ぬ人ですから。その本は、こちらの世界に残りますから」


 意外とすんなり長瀬は引き下がった。


「あっ、そうなるか。じゃ、読むことはできないか」

「――あれ?読んでないのですか?続き」

「読んでないな。なんか、俺が借りるとなった翌日に居なくなった奴いたし、なんかこの本、手に取りにくくなったから」

「それは――なんかすみません。でも、まさか私の死因に、あんな噂があるとは」

「まあ、人って、そんなもんだろ。噂話好きというのか」

「――このまま話していると、本当に恥ずかしくて、あなた……忍海君を殺してしまいそうなので。どこか移動しませんか?」

「俺、やっぱお前――あっ、長瀬に殺されるのか?」


 その説、濃厚じゃね?


「……まあ、今はそれで許してあげます。とりあえず、行きますよ。ちょっと、人も増えてきましたから」

「だな」


 2人でベンチを立ち上がる。そしてふと、長瀬を見ると、そういえば、こいつ、俺が選んだ服――ずっと着てくれてるんだよな。と、なんか。いろいろわかってから、改めて見ると。ちょっとなんか変な感じがした。うれしいというか。なんというか。とにかく変な感じだ。


 そんなこんなで、公園の時計は16時07分を指している。

 そういえば、話していて忘れていたが俺。今日中に死ぬんだよな?もう今日あと数時間か。と、時計を見ながら思った。


 今までは、いつ死んでもと思っていたが。今はちょっともう少しだけ。もう少し。案内人。長瀬と居たいと思っていた。

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