第46話 彼のいなくなった世界
もう、叶わない目標だと思っていた。けれど、先ほど、小さな目標が、達成できた。だからだろう。私は、ちょっとテンション高め。注意を怠っていた。
ちなみに、私は私がすでに死んでいる側の世界では2回死ぬことはない。1回だけだ。
前に私はとある人の最期の就活をしている時。謝って、ある程度の高さから落ちてしまった――が、痛みはあった。けれど……普通に生きていた。というか。普通に起き上がり。その時の担当者のところに戻る。と、いうことがあったから。あれはあれでなかなかの経験だったか……って、そうじゃなくて。
なので、忍海君にも、そのことを言っておけばよかった。と、今すごく。すごく後悔している。
先ほど私は、足元をちゃんと見ていなかったので、階段のところで、足を踏み外した。
自分でも、あっ、これ、落ちる。死なないけど――かなり痛いやつだ。そして、忍海君を驚かすかも。と、思いながら。傾く自分の身体に、身をゆだねる。というのか。死なないから大丈夫。と、特に、何かすることはなかったのだが。
私以外の人が動いてしまった。
忍海君が、慌ててこちらに駆け寄って来て、私の手を掴んだ。あっ、初めて、忍海君から手繋いでくれた。とか、悠長なことを、ちょっと、思ってしまったけれど、私の身体は、結構傾いている。このままじゃ2人とも落ちる。
――と、思った時。忍海君が叫びながら――私を引っ張った。何するの?と、私が思うと同時位に、私の身体は、急に、重力というのか。落ちていく方とは、反対の力が生まれて、そのまま、忍海君の手の温かさが離れた。と、思ってすぐ。砂利の上に、こけるというか。滑り込んだように倒れた。
恥ずかしいことに、不意打ちみたいな感じだったので、顔から滑り込んでしまった――これはこれで――とっても痛い。特におでこと、鼻がとても痛い。まるで、昔のように、ドッチボールで、顔面キャッチをした時のように――いや、それより痛い。
その時、グシャ。ではないが、何かの音が遠くなっていく。
何かが、近くを転がっている?私はそう思った時に、ハッと、起き上がる。
顔は痛い。お願いだから、顔は今見ないでほしい。と、思ったが、私を見てくれる人は、その場には居なかった。
誰もいない神社の階段――。
「……嘘」
私は、恐る恐る四つん這いで階段に近づく。
そして、のぞき込む。
ちょうど階段の一番下には、街灯があった――それもあってか。階段の一番下で、倒れている人の影を見つけてしまった。すぐに見つけてしまった。
「……っ!?――ぁ……あっ――っっ」
声にはならなかった。
そして、それを見た瞬間、私のしてきた仕事の終了を告げることが起こる。それは、担当者。該当者が亡くなると。私は、向こうの世界の私の居場所に戻るから。
§§§
周りを見ると、知っている空間。2日ぶりくらいだろうか。私は、現実世界から、またこちらの世界に戻ってきた。
しかし、それは――あの時、私が階段から落ちるのを、助けようとしてくれた彼。忍海君が、私の代わりに、階段から落ちて、亡くなったことを意味する。
ここでなら、いくら騒いでも誰も来ない。誰にも迷惑をかけることはないが。私は。声すら出せずに、立っていた場所に崩れ落ちたのだった。
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