第45話 23時

「まだ、生きてるね」


 本を読み終えて、長瀬を見たときにそう言われた。時間は……22時30分を過ぎたくらい。というか、俺、よくこんなところで、ずっと本読んでいたな。と、ちょっと背伸びすると見えるのは、闇。真っ暗。ホント、真っ暗。俺と長瀬の居るところだけが明るい。


「俺、長くて後、1時間と、あと少しだよな?」

「そうですね。じゃ、死ぬ前に、感想を」

「マジか。なんか、予想してなかった最期になりそうなんだが――」


 死ぬであろう数時間前に、こんな本を読んで感想を言い合うとは……思ってもいなかった。でも悪くはない感じだ。


「はい、忍海君の感想は?」

「まあ、衝撃というか――一緒に、帰るとか思っていたから。意外というか。予想してなかった終わりだった。そうなるような伏線?って、言うのかな?それは各所に、あったみたいだけど最後読んでやっと、つながったみたいな。しいて言うならもう一回初めから読み直したい」

「だよね。私も、ハッピーエンドかと思ったんだけど」

「まあ、あの神様が――ってことか」

「そうだよ、あのくそ神様」


 おお、怖い怖い。横からなんか黒いオーラが……。


「――言葉遣いよ」

「いいの。あの神様。神様とか言いながらひどくない?神様が2人を使って、遊んで――って、感じじゃん」

「まあ、そうなるのか……なんか、長瀬みたいだな」

「わ、私!?私、そんなひどいことしてないからね」

「違う違う、今の長瀬だよ」

「――――うん?」


 長瀬の頭にはてなマークが浮かぶ。俺――説明下手だな。


「だから――あっちの世界から、俺の最期やらを言われてきてるんだろ」

「あっ、うん」

「だから、長瀬の方のその神様が、実はそんなんじゃないかなー。的な」

「あー、確かに……私が操られている――か」

「まあ、俺が見ている感じ、長瀬は、自由な気もするが」

「まあ、確かに、何もないときはね。今回はすごく自由だったよ?あっ、でも、あっち、で、生活してると。捕まっている。って感じはあるかな」

「俺も、もうすぐ死んだらそうなるのかな」

「それは、私にも、わからないなーどういう基準で、私みたいになってるかわかんないし。実はたくさん向こうの世界から、こっちに――って感じも今のところないし」

「ちなみに、向こうで、誰か会ったことないのか?今まで、こうやって、最期を見た人の――」

「ないよ。そもそも、向こうでは部屋みたいなところにすっと居るから。誰とも会ってないかな」

「……なるほど」


 すると、長瀬は、立ち上がった。


「でも、ちょっとだけど、忍海君と、本の話が出来たの、うれしかった。ありがとう」

「ホント、ちょっとなんだが。俺ところどころ、忘れてたし」

「うんん。でも、最後。この物語の最後について、話せたのは、とっても良かったよ?いやー。まさか、数年越しに、小さな目標達成できるとはね。ホントありがとう。忍海君」

「えっ……お礼言われることなのか?」

「うん。私すごく今回は、いい思い出かも」


 俺の前で、ずっと座っていたのが疲れたのか。身体を伸ばすように、ぴょんぴょん跳ねている長瀬。ちょっとかわいい。


「じゃ、長瀬君の最期が来るまで、次はどうしようか」


 長瀬がくるりと回ってこちらを向いたとき。


「あっ!長瀬!後ろ!」

「――へっ?」

 

 俺が叫ぶと同時に長瀬の身体が、ふわりと、後ろに傾く。暗くて、見にくくなっていたが、階段のところだ。俺は、さっと立ち上がり、駆け寄り長瀬の手を掴む。が、予想以上に、長瀬が傾いていたので、長瀬の身体をこちら側に、力いっぱい引っ張ることしかできなかった。


 ――――23時になったくらいだと思う。俺、階段から転落した。結構派手に落ちたよ。階段に頭ぶつけてバウンドするかのように派手にね――。

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