第1話 03時44分

「あなたは、明日死にます」


 また、上から指定された人に向けて私は話す。すでに、数年こんなことをしているが。今回……今回だけは……言いたくなかった。


 あの人にこの言葉を私が言わないといけない日がこんなに早く来るとは。そして、担当が、まさか私になるとは全く思ってもみなかった。けれど、決まりは破れない。


 今の私はただの案内人。言われたことをするだけの――死人だから。


 日付が変われば、すぐにあの人への交信は出来た。交信とは簡単に言えばあちらの世界の人が寝たら、夢のような形で一方通行だがこちらから話ができるというもの。


 私は、死んだあと。何故かここに居た。そして、誰からも聞いたことがないのに、ここで私がこれから行う事を理解していた。

 ちなみに、自分の意志では、出ることのできない場所。というか、空間に居る。けれど、捕まっていて何もできない。ということはなく。空間の中では、自由であり。私が求めるものは、ほぼほぼ出てくる。説明は難しいのだが、頭の中で、思うか。言葉にすれば、出てくる。まあ、この空間から脱出する為の物などは、出ないみたいだが。


 そして、この空間に居ると突然仕事はやってくる。

 次の該当者データ。というのが出てくる。いや、現れる。という方が正確かもしれない。該当者を、間違わないように、顔写真。と、いつその人が――死ぬか。だけが、表示されている。とても簡単なデータ。それが来ると、私は、向こうの世界の時間等を見て、該当者が寝ていることを確認すると、交信をさっとし。あっちの世界に戻って、数十時間対象の人の手伝いをして。終わったらまたこっちのこの空間に居る。向こうに戻っても、手伝いをしたという感じはあまりないのだが。バタバタで終わるのがほとんど。


 そんな中、ここ何年か、同じことの繰り返しだったので、該当者データが現れた際に「次の人が来ちゃったか。次は、どんな人だろう」くらいにしか、思っていなかったが。今回の該当者の顔写真を見て、私は、固まってしまった。


 ――知っている……人。だったから。今までは、全く知らない人ばかり。性別も年齢もバラバラ。ちょっと年配の方が多めだったが。まさか、いきなり知っている人の顔が出てくるとは、思ってもいなかった。

 結局3時間ほど、時間を使ってしまい。3時44分。私は、案内人として、次の該当者への最初の仕事を終えた。


「……ごめんなさい――ごめんなさい……君」


 私は、誰もいない空間で謝ってから涙も全部枯らしてから。今まで通りに、できるように、心を落ち着かせてから。次の役目のため。移動を開始した。普段なら、すぐに、行けるのにこの日だけは1時間以上も時間を使ってしまった。

 

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