第29話 07時16分

 それから数日後。まだ、私の小さな目標は、達成できていなかったが。やっと、チャンスというのか。きっかけがあった。

 いつものように、図書委員の仕事をしていると、男子生徒。忍海おしみ君がやって来た。


「あの……この本の続きって、貸出中ですか?棚に続きなかったんだけど……」

「あっ――ち、ちょっと待ってください。調べてみます」


 チャンスが来た。と、思いつつ。貸出状況を調べると。


「――――あっ、今は、貸出中。ですね。えっと、この日に借りているから……返却予定日は、明後日、ささってかな?」


 一応、この本は、全くの無名の作品ではなく。借りている人がいる。貸出履歴も、それなりにあるので。そして、今忍海君が読みたかったであろう続きは、貸出中だった。

「そっか――ありがとう」


 私が答えると忍海君は、Uターン……が、このままじゃ、本の話ができない。と、思い。とっさの思いつきだったが。ある提案をしてみた。


「あ、あの!この本、私も好きなんです」

「――へっ?」


 私が慌てて声をかけると、忍海君は振り返ります。と、ここで、会話を止めてはいけないので――。


「あ、その……よければ、私の持っているの貸しましょうか?多分、続きが気になっている――と、思うので」


言ってからちょっと、急過ぎたかな。と、焦ったが――意外にも忍海君の反応は。


「……いいの?」


 食いついてくれた。よかった。と、心の中で大きく息を吐きました。


「――あっ、うん。明日朝持ってくるよ」

「じゃ……図書室?がいいかな?」

「うん、じゃ、朝に、図書室で」


 その時、下校時間のチャイムが鳴った。


「あっ、いけない。もう下校時間。あ、明日の朝持ってくるから」


 忍海君に、本を貸す、提案をしておきながら、時間を気にしていなかったから、バタバタになってしまったが。つながりを作れた。ちょっと、心の中でガッツポーズ。しつつ、慌てて片付け。


「下校時間にごめん。あと、ありがとう」

「バタバタでごめんなさい。じゃ、明日持ってきます」

 

 その言葉だけはちゃんと言い。慌てて、部屋の片づけをした。


 本当は、連絡先も聞きたかったけど、図書室の鍵を返さないといけないので、バタバタしていたら。当たり前のことだが。下校時間を過ぎた後。私が次部屋を見渡した時には忍海君いなかった。


 でも、これで、あの本について話せるかな。と、思いながら、職員室に鍵を返し。部屋のどこに置いてあったかな?と、考えながら夕暮れの道を家へと急いだ。


 ★


 少しして自宅に帰ってきた私。そして着替えつつ。貸す予定の本も確認。忘れないように、机の上に置いて「何か袋あったかな?」と、部屋の中をあさりつつ。ちょっとした出来心というか。引き出しから、小さなメモ帳を取り「忍海君へ 読み終えたら、感想聞かせてほしいかな。あっ、図書委員としてね」と書いてみた。きっかけがないなら、自分で作ってみようと。思ったからだけど……大丈夫かな?と、思いつつ。本を入れる袋を探している時に、探している時。お母さんが声をかけてきたので、私は慌てて本の最後のページにその紙を挟んだ。


奈桜なおいる?ちょっと、コンビニで、3人分くらい揚げ物とか買ってきてくれない?」

「揚げ物?どうしたの?焦がしたの?」

「違うわよ。パパが、会社の同僚の人たち、連れてくるとかいきなり言ってきて――何も出さないわけにはいかないでしょ?」

「なるほど、はいはーい。適当に、いろいろ買って、おやつも払ってもらおー」

「あっ、ママのもね。ケーキで」

「了解」

「気を付けるのよー」

「大丈夫だよー」


 家を出る際にちらっと見た時計は19時16分。まあこの時間なら何かあるだろう。私はそんなことを思いつつコンビニに向かって家を出た。

 私の家からコンビニはすぐ近くにある。

 そして、コンビニ前の信号のある交差点に私は今いた。歩行者は他にはいなかった。少し待っていると、歩行者の信号機が……赤信号から、青信号に変わった。左右に、車が1台ずつ止まったのを、私は、見てから歩き出した。


 そして、渡り出して少しした時に、ガン!と、何か、音がし。ガガガッ!と、擦る大きな音?が聞こえた。と、思った瞬間。私が音の方を見る前に、それ以上の、大きな音がした。と、同時に、私の身体にも、とても強い衝撃があった。


 ◆


 …………その日。私が家に帰ることはなかった。いや、私は二度と家に帰ることはできなくなった。


 ◆


 …………居眠り運転の大型トラックが信号待ちの車に突っ込んだ。

 そして追突された車。さらに、反対側で止まっていた車にも、衝撃で向きの変わったトラックが突っ込み。信号待ちをしていた2台の車の運転手がそれぞれ、意識不明。大型トラックの運転手も、事故の際に大けがを負った。また、横断歩道を渡っていた、近所に住む女子生徒が巻き込まれて…………死亡した。


 この事故は、はじめ事故の目撃者がいなかったため。トラックの運転手と2台の運転手の意識が戻るまで、いろいろな噂の流れた事故となったのだった。

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